紅剣物語第19話「カクゴ」

6 2025/11/07 19:42

ヒロトは、西へ伸びる街道をただ歩き続けていた。

確かな手がかりなど何もない。けれど――もしソラと再び出会えるのなら。

その可能性がある限り、足を止める理由はなかった。

ソラと初めて会ったのは、入学して間もない春の日のことだ。

村はずれの草原で、ソラは両手を広げ、青空を仰いで寝転んでいた。

指の隙間からこぼれる陽光を追いかけながら、どこか遠くを見ていた。

「楽しいか?」

思わず口に出した言葉を、今でも覚えている。

こんな空を見上げたところで、現実は何も変わらない。

親は俺を見ようともしない。そう思っていたからこそ、あの笑顔が眩しかった。

「楽しいさ。――失踪した父も、この空をどこかで見ていると思うとな」

その時のソラの瞳は、まるで空そのもののように透き通っていた。

(このスピードじゃ追いつけない!)

ヒロトは走った。

前方には人だかり、そして関所のような建物が見える。

だが奇妙なことに、兵士の姿がひとりもない。

数名の旅人が勝手に関所を抜けていくのを見て、ヒロトも黙って後に続いた。

ーーーーー

(エイプリル・マトリックス!)

フリダケイの声が響き、彼の周囲に複雑な数式が浮かび上がる。

何の意味もない式の羅列。だが兵士たちは強力な魔法陣だと錯覚し、後ずさった。

ソラの前では、槍兵たちが「ただのガキだ」と笑いながら槍を突き出してくる。

その瞬間、ニンの矢が放たれた。

矢は空を裂き、複数の兵士の鎧を正確に貫通する。

「すげー!」

ソラが思わず声を上げる。

ニンは矢を番えたまま、冷静に答えた。

「こんなの、辺境じゃ標準だ。ローマから遠いほど、兵の質は落ちる」

敵の弓兵が応戦するが、ニンは一歩も動じない。

矢をかわしながら、反撃の矢を放つ。

敵の弓兵が倒れ、地面に崩れた。

次に現れたのは騎兵。

槍を構え突進してくる兵を、ソラはギリギリでかわし、馬の足を切り裂いた。

騎兵が転倒する。そこへニンの矢が追い打ちをかける。

だが戦いは終わらなかった。

痩せた男――“イン”と呼ばれる指揮官が、部下をかばうように立ちはだかる。

「これ以上の無駄な抵抗はやめろ」

ニンの静かな声。

しかしインは唇を歪めて笑った。

「殺せ!」

兵たちが一斉に突撃する。

ニンは近距離戦に切り替え、短刀で防戦。

フリダケイは、後方で何かを考えているように微動だにしない。

ソラが援護に入ろうとした瞬間、インが目の前に立ちはだかった。

「なっ!」

信じられない速さ。インの短刀が閃き、ソラの喉を狙う。

紅剣が防御結界を展開するが、インの連撃に押し込まれる。

集中が途切れ、防壁が砕け散った。

「死ぬが良い!」

短刀が振り下ろされる――その瞬間、鋭い風が割り込んだ。

金属音。インの体が弾き飛ばされる。

「大丈夫か?」

現れたのは、ヒロトだった。

不器用に槍を構えながら、少し照れたように笑う。

「三槍奥義――穿星!」

槍が閃き、インの防御の重心をずらして肩を貫く。

インが崩れ落ちると、兵たちは恐れをなして逃げ出した。

「追うな」

フリダケイが静かに言う。

「兵の一人にGPS探知機をつけた。……これでオーデッツ司教の居場所が割れる」

得意げに笑うフリダケイ。その足元で、血を流すインがかすれた声で言った。

「どうせなら……お前の伝説の剣で殺してくれ」

ソラは黙って剣を構えた。

これまで人を殺したことはない。

だが、命を狙った相手なら――それも、死を望むのなら。

それがせめてもの“優しさ”ではないか。

剣を握る手が震えた。刃先がわずかにインの首元を捉える。

だが――

「まだ世界の広さも知らないガキに、人を殺させていいわけがないだろーが!」

フリダケイの蹴りが、インの顔面を捉えた。

インは呻き声を上げ、意識を失って倒れた。

「ソラ。覚悟を決めるってのはな、人を殺すことじゃない。

――背負って、生きていくことだ」

フリダケイが微笑んだ。

「お前たちに一つ、頼みがある」

ニンが真剣な表情で言葉を投げかける。

「なんだ。命の恩人だ、なんでも言ってくれ」

フリダケイが言葉を返す。

「オーデッツ司教がお前たちが死んだかどうか確かめに来るだろう。そうすれば俺が司教を裏切り司教兵を殺したことが明らかになる。司教の刺客に殺されるのも時間の問題だ」

「なるほどな」

ヒロトが口を開くが、言葉の後は続かなかった。

「司教を一緒に討伐してくれっとことだな。言いたいことは」

フリダケイがニンに問う。

「その通りだ。お前たちも司教に追われている身。ここで共闘し司教と倒せば、お前たちも安心して旅ができると思うのだが」

「確かに、これ以上司教の手下どもと戦うのはうんざりだ。ソラ、ここはお前が決めてみろ」

フリダケイの目線がソラを捉える。

「え?」

ソラは狼狽えた。戦うか戦わないかの判断を、自分1人で決めてしまって本当にいいのか。

だが答えはもう決まっているようなものだった。司教を倒さない限り、ダラダラと司教の部下と戦い続けるのは明白だったし、そうなればソラの、いやヒロトやフリダケイみんなに迷惑がかかる。命を救ってくれたニンの懇願でもあるのだ。

「俺は、戦いたい。勝って、司教にこの紅の剣について色々と聞いてみたいしな」

ソラは胸を張って答えた。

ニンは無言で立ち上がり、GPSの反応を追う。

新たな戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。

いいねを贈ろう
いいね
6
コメントしよう!
画像・吹き出し

タグ: 紅剣物語 19話 カクゴ

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する
その他2025/11/07 19:42:48 [通報] [非表示] フォローする
TTツイートしよう!
TTツイートする

拡散用



まだコメントがありません。最初のコメントを書いてみませんか?
画像・吹き出し

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する