紅剣物語第18話「開戦」

6 2025/11/05 19:23

「これで第一関門は突破したな」

フリダケイは小さく呟いた。

ヨーロッパ連合国の首都ローマ。数千年の歴史を刻むこの都市は、今や人口数百万を抱え、連合国の政治と軍事の中心地として“地球の心臓”と呼ばれている。

この街に居を構えるのは、連合国軍総帥ウィリアム・ウォルフワース。彼の一言で、世界の勢力図が塗り替えられるほどの存在だ。

そんな都市で――一か月後、闘技大会が開催される。

だが、そこにたどり着くまでの道のりは容易ではない。

幾つもの島を船で渡り、関所を欺きながら進まねばならないのだ。

そして、その関所を越えるには、ソラの通行証を“本物”だと信じ込ませる必要がある。

街道沿いの景色が次第に森へと変わっていく。

人影は途絶え、小鳥の囀りと小動物の足音だけが響く中、フリダケイは隣を歩く少年に目をやった。

――ソラ。

どんな事情があるのか知らないが、伝説の紅の剣を抜くことができる、稀有な少年。

そして、その力は利用価値がある。

(この少年を闘技大会に出場させ、他の参加者を紅の剣で一掃させる。そして最後に、私が彼を倒せば……優勝はこの手に――)

名付けて、“人生リア充計画”。

そんな思惑を胸に歩を進めていると、突然――

ガサッ、と茂みが鳴った。

「ソラ、止まれ」

フリダケイは軽く手を上げて制した。

「今のは、動物の気配じゃないな。誰だ、出てこい」

声を放つと、茂みの奥から痩せた男が現れた。

薄汚れた外套の下で、刃のような視線が光る。

「私たちに、何の用かな?」

フリダケイはいつもの調子で陽気に笑ってみせたが、目の奥は冷静に敵意を読み取っていた。

「お前たちが持っているもので、一番価値のあるものを渡せ」

「価値のあるもの?乞食みたいな旅人に見えるだろう。高価な物なんて持っていない」

「とぼけるな。生きている者なら、誰にでも持っているだろう」

「……命、ってやつか」

「その通り。その命、頂戴する」

言葉と同時に、男が背中の短刀を抜いて斬りかかってきた。

フリダケイはかろうじて身をひねって避けたが、転倒して尻を打つ。

男はフリダケイを無視し、ソラへと向かって駆けた。

(やはり狙いは紅の剣か!)

フリダケイは立ち上がりざまに叫ぶ。

「おい、止まれ!」

男は動きを止め、振り返った。薄笑いを浮かべている。

「俺が油断したところで、後ろのガキが俺に斬りかかるとでも?」

男が頭上を見上げる。そこには木の枝に身を潜め、弓を構える仲間がいた。

「そんな卑怯な真似はしないさ。ただ忠告してやるだけだ」

「忠告?」

「ああ。私が指を弾けば、お前と上の仲間の顔が同時に潰れる」

「ハッタリだろ。笑わせるな」

2人の賊が嘲笑った瞬間――

フリダケイの足元に、不規則な紋様の魔法陣が浮かび上がる。

(エイプリル・マトリックス!)

光が爆ぜ、風が渦巻く。フリダケイの髪が逆立ち、森に一瞬、神々しい閃光が走る。

「これを見ても、まだ疑うか?」

男の笑みが消えた。

その隙を突き、ソラが紅の剣を抜いて斬りかかる。

「やめろ、ソラ! 木の上の弓兵が――!」

叫びも虚しく、矢が放たれた。

一直線にソラの胸を狙う。

(くそっ!)

だがその瞬間、紅の剣を中心に防御結界が展開。

矢は光の壁に弾かれ、森に吸い込まれた。

ソラはそのまま疾走し、痩せた男と刃を交える。

金属がぶつかる鋭い音が森に響く。

フリダケイはポケットを探り、色付きのスプレー缶を取り出した。

「――混色乱陣!」

噴射された絵の具が男の顔面を覆う。

「くそっ、なにも見えねぇ!」

男はよろめき、視界を失ったまま森の奥へと走り去った。

残った弓兵が木の上から飛び降り、両手を上げた。

「俺はニンってあだ名だ。降参する!命だけは助けてくれ!」

「頭を上げろ。命は保証する。だから教えろ――誰の差金だ?」

フリダケイの問いに、ニンは顔を上げて答える。

「オーデッツ司教だ。そこの少年が持ってる紅剣を狙っている」

「……やはり、そうか」

フリダケイは髪をかき上げ、ため息をついた。

そのとき、地面が微かに震え始める。

重い足音が、幾重にも近づいてきた。

「まさか……」

ニンが青ざめる。

「なんだ?」

「すまん。俺たちは時間稼ぎをしていたんだ。その間に、兵士が――」

「なっ!?」

森の向こうから兵士たちが現れ、あっという間に周囲を包囲した。

騎馬二、魔兵四、槍兵三、弓兵二、そして――先ほど逃げた痩せた男。

(なるほど、総勢十一……厄介だな)

フリダケイは冷静に数を数えた。

「よく時間を稼いでくれたな、ニン。おかげで逃げられずに済んだ」

痩せた男が嗤う。

だがその声に、ニンが怒鳴り返した。

「それで満足か?司教の鎖に繋がれたまま生きてて、楽しいのか?」

その言葉に、フリダケイが一瞬、目を細める。

この状況で反旗を翻すなど、正気の沙汰ではない。

「どうした?死に急ぎたいのか?」

「逆だ。生きるためだ。俺はこの二人の強さに賭ける。お前らより強い」

ニンは弓を構え、ソラは剣を握り直す。

そしてフリダケイは大きく息を吸い込み――

「おい、お前ら!覚悟を決めろ!

最後の最後まで、戦い抜くぞ!」

森に、三人の気迫が満ちた。

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