紅剣物語第7話「操術と紅」
銃声が響いた。
今死んだのだとソラは思った。
だが不思議と目が開いた。これが死後の世界か、とソラは感じた。案外生きていた頃と風景が変わらない、と内心がっかりしていた時。
「ぐは…」
ミノグチの声が聞こえた。
「おいおいまじかよ、死後の世界にまでついて来るのかよ」
ソラは内心そう思ったが、また別の声が聞こえた。
「反火星連盟准尉ナイラ・スヴェイン標的に発砲しました」
はっきりとした、女の声だった。今度こそ、正しい景色を見る。目の前には、よろけるミノグチがいた。
「重力操術、神の手捌き!」
少々ダサいネーミングを吐きながら、ミノグチは放たれる弾丸を華麗に避けていった。
ナイラと名乗った女は弾丸が尽きた銃を乱暴に捨てると、肩に欠けていた小銃を持ちミノグチのもとへ近づいた。
そしてなぜか、視界が反転する。誰かに持ち上げられているのだと分かった時には、視界にヒロトの姿が見えていた。ソラはまだ剣を離してはいなかった。
「逃げるぞ、今のうちだ」
ソラを抱えたままヒロトは走り出す。遠くから銃声が聞こえる。
森を抜けた。目の前には、地平線まで続く砂漠が広がっている。そして砂漠の中心に城壁に囲まれた都市があった。バグダート城である。
バグダート城の建造は、5世紀ほど前に遡る。
時は2422年、火星の征服帝ビビーリは、地球を完全に支配下に置くべく自ら7万隻の空中艦隊、そして19万を超える兵士を率いメソポタミアに上陸した。
対する地球側は、中東石油諸国連合軍12万がバグダートを中心に防衛線を築いていた。
双方合計10万の犠牲の末バグダートはビビーリ軍が制圧した。
だがビビーリはその臆病さから、連合軍が死に兵となって反撃に移ると勝手に想像し、兵士たちにバグダート要塞の建造を急がせたのだった。
結果的にこの判断が命取りとなり、連合軍の猛攻を受けビビーリは戦死したが、建造されたバグダート要塞は破壊されず連合軍の前線基地として使用された。
火星軍が地球を完全に支配するまようになるまで、この要塞は地球人の最後の抵抗地となるのであった。
歴史で学んだことをソラは振り返りながら、ソラは激痛の末意識を失った。
ミノグチは焦っていた。
ミノグチが重力操作で石を女に当てようとしているのに、女はそれを見事に避けきっていたのだ。
それどころか女は小銃をミノグチに向けて容赦なく撃ってくる。
「くそ…」
ミノグチは冷静となった。すでに標的のソラたちは遠くに逃げ去っただろう。ならばここで不毛な戦いを続けても無意味ではないか。
そう思ったミノグチは反転し駆けた。女はまだ小銃を撃ってきたが、ミノグチは感覚を集中させ銃がどこに銃が当たるのかを的確に予測した。
弾丸が飛ぶと必ず重力が動く。そのかすかな動きを捉え、弾丸を避けるのだ。
それを数回続けていると、女は諦めたのか銃声が止んだ。
「よくやったじゃないか」
不意に、男とも女ともとれないような声がした。ミノグチは慌てて声の主を振り返る。
声の主は、見つからなかった。
「僕はまだ君に正体を明かすことはできない。でも君をじっと見張ってた者さ」
「誰だお前は。姿を見せろ」
「人造王3名臣の1人。流血のアヴィーデさ」
「3名臣!」
「君はオーデッツ司教にかなり鍛えられたようだね」
「はっ、司教様のため、異端撃滅に命をかける所存」
「そうか、それは結構。だが一つ忠告しておく。君は誰に最も忠誠を誓うのか、よく考えるんだよ。そうすれば君は長生きができる」
「それはどういう意味でしょう?」
ミノグチは尋ねたが、返答はなかった。
ミノグチはやがて、オーデッツの本拠地へと進路をとり始めた。
ちょうどその頃、チュウニはバグダート城門前で、仲間と合流するのを待っていた。
すでにアキトはチュウニと再開でき、今はチュウニの隣にいる。
「アキト、金をやる。今日の宿をとってこい」
アキトは城門の門番と話して城門を開けてもらった。
この城にいればいつかは組織と接触できるだろうとチュウニは考えていた。
風が吹く。砂漠の砂が吹き荒れる。目に砂が入る。そしてヒロトと、担がれたソラの姿が見えた。

