「朱藍の婚約者」第十一話「It’s always darkest before the dawn.(いつでも夜明け前が一番暗い)」

1 2026/06/26 10:53

「朱藍の婚約者」第十一話 It’s always darkest before the dawn.(いつでも夜明け前が一番暗い)

――見つけた。

やっと、あの少女を見つけることができた。

そう思った瞬間、一気に私の全身から力が抜けてその場に座り込んだ。それもそうだ、走り始めたのは夕方だったのに、もう今はあたりは真っ暗。街道のランプの薄明かりだけが私達を照らしている。

薄暗い中でかすかに見えるあの少女の目は、なにかに怯えてるようで、私のことも警戒しているようだった。

その目はまるで少し前までの私を見ているようだった。世界中のすべてを心から信用できていないような、そんな目。

そう思いつつ、私は疲弊しきった体をゆっくりと起こしながら、あの少女へ歩み寄る。

「えっと..昨日ぶりだね...大丈夫?」

そして私は私にできる限りの精一杯の笑顔をしながら手を差し伸べた。

するとその少女はゆっくりと、でも確かに私の手を取った。

手に取ったその手はあまりにも冷たくて、すごく寂しさを感じた。

「...私の名前は朱音。...ねぇ、名前。何て言うの...?」

私の声はいつの間にか震えていた。その手の冷たさがあまりにも人間離れしていたからかもしれない。

そう考えていたら、少女が口を開いた。

「...乱華...。」

「らんかっていうんだ。漢字ではなんて書くの?」

「...乱れるにちょっと難しい方の華...。」

「そっか...いい..名前だね。」

そう言うと彼女...乱華は顔を赤くした。それと同時に少しだけ握っていた手に温もりを感じた。

雲から月が顔を出した。その三日月に照らされた顔はボロボロで、でも、少しだけ大人びていた。

この娘ってもしかして私と同じ年なのだろうか。そう考えていると後ろから、タッタッタッと走ってくる足音が聞こえた。しかも一人ではない。2人以上は確実にいるだろう。

足音が聞こえてくると同時に彼女の手も再び冷たくなった。

「おいっ!!いたぞ!!こっちだ!!」

瞬間、私達の後ろには4,5人程度の黒尽くめの男たちがいた。

「...っ!!」

思わず息を呑み、咄嗟に乱華を後ろに隠す。

乱華が私の洋服の裾をギュッと掴んだ。その手は震えて、恐怖に染まりきっているのが嫌でもわかる。

「...大丈夫。私が守るから。」

自分でも驚くくらいにその言葉が自然とこぼれ出た。

私はゆっくりとその場で立ち上がる。

「...お前、白金財団の一人娘だろ。なら話は早いはずだ。さっさとその商品を俺達に渡せ。」

黒尽くめの男たちのうちの一人が1歩近寄る。

「...嫌よ。」

断った瞬間、明らかに男たちのほうから怒りを感じた。

「話が通じねぇのか?今なら、この現場を見たことを見逃してやる。さぁ、早く渡せ。」

「...悪いけど、今のは『だが、断る』ってやつよ...。そんなことも理解できないの?」

静まり返った夜道に、私の声だけがやけに響いた。

それから数秒の沈黙のあと、男達のうちのリーダーらしき人が口を開いた。

「...これだから、貴族育ちは...。もういい、お前ら、やれ。」

やれ、という声と同時に私の方向へその場にいた男たちが近づいてきた。

私は乱華を背後に回した。

「...なによ、私とやろうってんの?...かかってきなさいよ。」

そういったものの私の声は震えていて、誰がどう見ても怖がりの虚勢にしか聞こえなかったのだろう。

「おいおい、笑わせるなよ。そんなに震えてて何ができるっていうんだよ?」

男たちは余裕そうに薄ら笑みを浮かべて私に近づいてきた。

次の瞬間、私の腹部にものすごい激痛が走った。

男たちのうちの一人が私の腹部にスタンガンを使ったようだ。腹部の痛みを消化する暇もなく、男たちが一斉に殴りかかる。

顔。脇腹。腹。足。頭。何回も何回も殴られる。痛い。痛い。痛い。

しばらくすると、もう腕の感覚はほぼなくて立っているので精一杯だった。

「ははっ。やっぱお嬢様だな。自分の弱さも知らねぇで挑んでくるとか、とんだアホじゃねぇか。」

――弱さ。その言葉が私の頭の中でやけに響いた。

だが、それもそうだ。あれだけ守ると言っておきながら、この有り様。

ほんっと、バカみたい。...でも。

…でも、私の後ろにいる乱華は私を信じてくれた。その期待に答えないのは

—もっとバカみたいじゃない。

私はよろめきながらも顔を上げ、前を見据える。

「来なさいよ...。あんたたちに乱華は渡さない...。」

男たちの一人が手を振り上げる。私の顔を殴る。よろけそうになった。でも、倒れない。

…いや、倒れるわけにはいかない...!!

その時、私の心臓がドクンと大きく脈打った。私の目の前が真っ赤に染まる。

私の頬から血が流れ落ちた。否、その血はその場で”静止”した。

「...は?」

男の一人が間抜けた声を漏らす。

かくいう私も私自身にどんな変化が起きているのかが分からなかった。

ただ、ドクン、ドクン、と心臓が脈打つたびに体中を巡る何かが暴れ出すという感覚だけが分かった。

「これ...は...?」

空中で静止していた血が意思を持ったかのように形を変えていく。

細く、鋭く――まるで刃のように。

「てめー...何だ。それは...。」

男の一人が呟く。その時の〝私の意識は呟いた男の方へ向いた〟。

すると、空中で静止していた血が男の方へと飛んだ。

次の瞬間、ドスッと鈍い音がなった。音がした方向では私の血が男の足を貫いていた。

「っ!!」

男の悲鳴が夜空に溶けていく。

すぐさま男たちは私から距離を取った。

「な...なんだ、こいつ...。」

「血が浮いてやがる...!!」

男たちがそう言っている間にも、私の血はどんどん出て、宙に浮いていく。

その一つ一つがどんどん形を変え、男たちの方を向く。

私は、未だに自分に何が起きているのかはわからない。

でも、今ので確かに気づいたことがある。この血は”私”だ。

間違いなく、この血は、”私の意思”と連動している。

――守れる。今はそれしか考えられなかった。

その瞬間、空中で静止していた血が一斉に男たちに向かって飛んだ。

空気を切り裂く音と共に、赤い閃光が夜を走る。

「ぐあっ!!」

「避けろっ!!避けろぉ!!」

数人の男の肩や足を掠め、男たちがその場に崩れ落ちる。

「てめぇ...化物かよ...人間じゃねぇ...。」

〝化物〟〝人間じゃない〟

その言葉の一つ一つが重く私に突き刺さる。

「...えぇ、そうかもね。でも、人間じゃないからって――」

私の中で何かが切れた気がした、続けた言葉は止まることを知らないように吐き出された。「――だからって、乱華を...!!私の友人を...!!傷つけていい理由にはならないッ!!」

本当に自然と、その言葉が私の口からこぼれ落ちた。多分、今まで言ってきた言葉が全部、嘘だったんじゃないかって思えるくらい、心の底から出た本音。

そしてこの言葉はもう絶対に覆されることはない。

「朱音...。」

後ろで乱華がぼそっと、でも確かにそう呟いた。

「ふはっ...。」

そのとき、男たちのリーダーらしき男が鼻で笑っていた。

「...何よ。何がおかしいの...。」

私は怒りを隠せなかった。血も一斉に男の方を向く。

「いや?人間でもなんでもねぇ半端者が、よくもまあ、そんな根拠も何もねぇ虚言をべらべらと吐けるなぁって思って。滑稽すぎて笑いが出ちまったよ。」

うるさい。私の...私達の人生を馬鹿にするな。

そう言いたかったが、あまりにも人の気持ちを踏みにじる言葉の数々に、どうしてか言葉が出なかった。

その代わりに私の目はより真っ赤に染まって、血を男の額に当たるギリギリまで持ってきた。

「...いい...加減に...しな...さい....。本…当に...刺...す...わよ。」

私は途切れ途切れでしか言葉を出すのが精一杯だった。多分、心の中が怒り一色に染まっていたから。

「どうした。殺してみろよ。その血で、化物の力で、人間様を殺してみろよッ!!」

男は懲りずに言葉を紡げる。私の精神はもう限界だった。

次の瞬間、雲に隠れた三日月の薄明かりが照らす夜に、肉を貫く音が目一杯響いた。

第十一話「It’s always darkest before the dawn.(いつでも夜明け前が一番暗い)」:終

次回予告:能力が覚醒して暴走しそうな朱音。そんなときに助けに来てくれたのは...!?三日月夜空に鬼娘は泣く編、クライマックス!!

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その他2026/06/26 10:53:26 [通報] [非表示] フォローする
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最近、学校が忙しくて投稿が遅れました!!申し訳ないです...。

*プラスワンでもっと知ろう!!:乱華はああ見えて結構運動ができるとか...?

次回、第十二話は引き続き十話突破記念ということで、僕の推しのレイズスのキャラ紹介をしようと思います!!

前話はこちらから→「朱藍の婚約者」第十話「知らなくてよかった世界。」https://tohyotalk.com/question/829092


2: モブ王 @plotzuki15 2026/06/26 11:33:59通報 非表示

>>1
赤血そうじゅつみたいでかっこいい


ありがとうございます!!なんかそう言われると嬉しいですね!!


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