「朱藍の婚約者」第九話「救う者・追われる者」
「朱藍の婚約者」第九話 救う者・追われる者
「やっと着いた…!!」
「ここが関西か...。」
関西旅行ペアチケットが届いた2日後、青斗と朱音は大阪にある駅の前にいた。
「...んで?二高、私達が泊まる旅館はどこなのよ?疲れたから荷物を置きたいんだけど。」
なれない関西で緊張しているのだろう、朱音は普段のツンケンした態度と違って少しソワソワしている。
「そう焦るな、八王寺...。えっと...ここからだと歩いて5分の位置にあるらしい。俺も疲れたから、さっさと行くぞ。」
そう言うと青斗は、自分のキャリーケースを持ってサクサクと歩いていった。
「なっ!!ちょっと持ってよ、二高!!」
「あ?なんだ八王寺。どうかしたのか?」
「いや、だから、その...。私も疲れてるんだけど…。」
朱音は急にしおらしくなってもじもじとしている。
恐らく自分の荷物を青斗に持ってもらいたいのだろうが、持ち前の負けん気が自ら荷物を持つことを頼むことを心の中で拒否した結果、まるでトイレを我慢しているかのような態度になってしまっていた。
「なんだ?トイレなら向こうだぞ。」
本当に彼女が何をしてほしいのか分かっていないのだろう。青斗は朱音の想像の斜め上を行く回答を無意識的に言った。
瞬間、朱音は時が止まったかのように固まり、赤面した。
「はぁ!?誰がトイレ行きたいって言ったのよ!!女性が荷物を持って疲れたって言うならやることは一つじゃない!?」
青斗は一瞬だけ考えてなるほどといったように小さく頷き朱音の荷物を手に取った。
「荷物を持ってほしいなら、最初からそう言え。そうしないと勘違いされたままだぞ。」
「普通そっちが察するでしょ!!っていうか少し考えて気づくくらいなら最初からちゃんと考えなさいよ...。」
「...そういうところが、人間関係をこじらせる原因だと思うが...。」
「なによ!!私の人間との関わり方は下手だって言いたいの!?」
「そうとは言ってないが...。否定もできないな...。」
「はぁ!?」
駅前を歩きながら二人の会話の間と目と目の間には小さな火花が飛び交っていた。
――そんなやり取りをしながら、二人はホテルに荷物を置き、空いた時間で大阪の観光地へ向かった。
*
昼過ぎ、大阪にある商店街に向かっていた二人は観光地から外れた、静かな通りに来ていた。
「...ねぇ、こっちで合ってる?」
朱音が地図を覗き込みながら言う。
「...逆だな。」
「は!?」
「三分前から真逆に向かっているぞ。」
「分かってたなら、言いなさいよ!!」
「言おうとしたが、お前に集中してるからと止められた。」
「だからって三分も放置しないでよ!!」
いつもの調子で言い合いながら、二人は人通りの少ない道へ入っていった。
――その時。
「…?」
朱音はふと足を止めた。
そして近くの路地の方向を振り返った。
「...なに?」
それに気づいた青斗も振り返る。
「どうした。八王寺。」
「...今、なんか...。」
「...なんか?」
「...誰かいた気がする。...いや、違う。いる。あそこに。」
朱音の指の先の方向。
路地裏の影。
そこに、少女が立っていた。
年はおそらく、青斗と朱音たちと同じくらい。
服は汚れており、どこか落ち着いていない素振りだった。
少女と二人の視線が合った。
ほんの一瞬。
すぐさま少女は何も言わずに、すっと視線をそらした。
「...あ。」
朱音が思わず一歩、踏み出す。
「待っ...」
しかし、人波に紛れるかのように少女の姿は消えていた。
「...ねぇ、二高。今のって」
「...一般人だ。」
青斗は短く、だがはっきりと言った。
「で、でも――」
「追うな。八王寺。」
そういう青斗の声はいつもより少し硬かった。まるで関わるなと言わんばかりの声色だった。
朱音はもうそれ以上、何も言えなかった。
(...でも、一般人だとしても...なんで、あんな顔。)
朱音がほんの一瞬で見た顔はまるで助けを求めているような顔だった。
朱音はそのことを胸にしまったが嫌な余韻だけが、はっきりと残った。
*
――少し前。二人が少女と会う、ほんの数分前。
「...っ!!」
少女は必死に息を殺していた。
自分を追ってくる気配が近くなっている。
(...まだだ。)
走ってたのだろう、少女の肩は上がっている。
(...まだ、捕まるわけには行かない。)
そう思っても体は重く、感覚も鈍い。
――価値が下がった。
そう言われた。理由はもう分かっている。
珍しさを失ってしまったから。
(でも、それでも...生きたい!!)
角を切り落とした額を無意識に抑える。
(...売られるわけにはいかない。)
額の痛みはもう無い。その代わりにあるのは焼けつくような後悔と、それでも消えない意思であった。
「...絶対に逃げ切る。」
そう呟いた追われる少女は、再び走り出した。
*
夕方。
朱音と青斗はホテルへ戻る途中、二人とも無言だった。
ホテルについて朱音は少し、何かを考えてから恐る恐る口を開いた。
「...ねぇ、二高。さっき見た子...」
「忘れろ。」
青斗は朱音が言い終わる前に即答した。
「っ!!で、でも!!」
「八王寺。」
珍しく、青斗はあからさまに声色に怒りを含んでいた。
「...この世界では、見なかったことにしないと生きていけないところもある。」
朱音は一瞬黙ったが、すぐさま反論を仕掛けた。
「...だ、だからって見なかったことにはできないわよ!!」
「あぁ、見てしまった。...だが、これが現実だ。俺達にはどうもできない。難しいとは思うが受け入れろ、八王寺。俺達にはそれしかできない。」
「...っ!!」
朱音は唇を噛んだ。
(...二高は私の知らない、何かを知っている...。)
(私は、何も知らないままでいいってこと...?)
その夜。朱音はなかなか眠れなかった。
瞼を閉じると、あの少女の顔が目に浮かぶ。
なにか、助けを求めている顔だった。
(...私は、知らなきゃいけない。)
理由はない。でも、そう確信していた。
第九話「救う者・追われる者」:終
次回予告:再び、関西観光をしている青斗と朱音。するとまたあの少女に出会い...!?次回、第10話お楽しみに!!
めちゃくちゃ遅れました!!すいません!!
*プラスワンでもっと知ろう!!:青斗は意外と旅行好きだとか...?
次回、第十話は十話突破記念ということで、主人公の青斗のキャラ紹介もしたいと思います!!
前話はこちらから→「朱藍の婚約者」第八話「角の破片」https://tohyotalk.com/question/820337

