「朱藍の婚約者」第七話「月明かり。」
「朱藍の婚約者」第七話 月明かり。
ピンポーン。
深夜。朱音と青斗の家のチャイムが鳴る。だが、家の中はシンとしていて誰も出てこない。
「えーっと、にたか...?さーん。お届け物でーす。」
配達しに来ている郵便局の人の声が虚しく響く。
「あれ?いないのかなぁ...。仕方がない。玄関においておくか...。」
配達員は玄関前に配達する物を置いて、そのままバイクに乗った。
「...にしても、不思議なこともあるんだな。あの白金財団の社長がこんな一軒家に荷物を運んで欲しいなんて。」
配達員は誰にも聞こえないような声でボソッとだが確かにそう呟いた。
*
朝の教室は賑やかで騒がしい。
「おっはよー!!」
「ねぇねぇ、古文の宿題やった?見せてくれない?」
「聞いて聞いて!!昨日さ――」
いつもと変わらない、普段通りの白金高校の朝。
いつもと変わらない、日常会話。
そう、全部いつも通り。何も変わってはいない。
―――のはずなのに。
(...なんで。)
朱音はカバンを机においたまま視線はある方向を向いていた。
教室の窓際に位置する席に座っている人物。昨日の夜、妖に殺されそうになった自分を助けてくれた人物。...そして自分の婚約者である人物。
そう、二高 青斗である。
彼は、自分には朝の喧騒など関係ないとでも言うように、机に肘をつき無表情でスマホを見ている。
(昨日のアイツ...。認めたくないけど、少しだけかっこよく見えてしまった。今はあんな表情なのに...あんなに無愛想っぽいのに。あのときはキリッとしていた。)
気がつけばいつの間にか私は二高を目で追って二高のことを考えていた。
(...って、なに私アイツのこと考えてんの!?まるで私がアイツのこと気になってるみたいじゃない!!)
誰にも聞かれてないのに心のなかで否定し、とっさに視線を外す。
‐――でも、何分か経つとまたいつの間にかアイツの方を見ている。
青斗はなんだかレイズスに話しかけられているようだ。
いつも通り、青斗は面倒臭そうに短く必要最低限しか会話していない。
でも、なんだかいつもと違う感じがする。ずっと気にしてるからだろうか?
青斗は面倒臭そうにしながらも話を遮らないように聞いている。少しだけど、アイツの優しさの欠片が見えたような気がする。
(私...前まではアイツのことなんて興味なかったのに...。ちょっと前まではムカつくって思ってたのに...。)
*
昼休み。ご飯を食べ終わって朱音は学食から教室へ戻っていた。
(...喉、乾いた。なにか買お。)
朱音は中庭にある自販機に向かった。
自販機でミルクコーヒーを買おうとしたとき、間違えて小銭を落としてしまった。
「あっ!!..しまっ!!」
小銭はコロコロと転がっていき、偶然近くの男子の足元で止まった。
「...。」
その男子はなんと青斗だった。青斗は小銭と朱音の顔を交互に見て、無言で小銭を取った。
「...ほら。八王寺。」
青斗は小銭を持った手を差し出した。
「...ありがと。」
朱音はお礼だけ言うとすぐさま小銭を貰って踵を返した。そのまま自販機でコーヒーを買って急ぎ足で教室に帰ろうとしたとき――
「なぁ、八王寺。...ちょっといいか?」
不意に青斗に呼び止められた。
「な、何よ...。」
朱音は恐る恐る振り向いた。
「いや...今日お前、俺のことを見てたよなって思って。...俺がなんかしたなら謝るが...って。どーした!?八王寺!?顔やばいぞ!?」
朱音の顔は茹でダコの様に真っ赤に染まっていた。だが、当の本人はそれに気づく暇もなかった。
それもそうだ。自分が青斗のことを見つめてるってことを自覚してるだけでも恥ずかしいのに本人に直接言われたら余計恥ずかしいに決まっている。
朱音は今までに類を見ないほどの恥ずかしさと焦燥感、そして自分のしていたことがバレた怒りで顔は真っ赤に染まり、感情がグッチャになって――激昂した。
「は、はぁ!?なななんのこと言ってんのよ!!私があんたを見てる?バ、バカなこと言わないでちょーだい!!勘違いしないでよっ!!誰があんたに興味があるって言ったのよ!!」
「いや、俺はそんなこと言ってないぞ。俺がなんかしたのなら謝るといっただけだ。」
「う、うるさいわね!!別にどっちだっていいでしょ!?変わんないじゃん!!」
朱音の目には若干、涙が溜まっている。
「十分変わるだろ…。」
「違う!!私が変わんないって言ったら変わんないの!!あの自販機が赤くても私が青って言ったら青なの!!」
「独裁政権か。お前はこの世の神か何かか?どんなだよ。」
「うるさい!!私があんたを見てるだなんて変な妄想なんてしないで、さっさと教室に帰りなさいよ!!」
「...それは、命令か?」
「えぇ、そうよ!!依頼人命令よ!!今すぐ渡しから離れなさい!!」
朱音はもうほぼ泣いているようなものだ。涙が少し目から溢れかけてる。
青斗は少しだけため息をついた。
「八王寺は依頼人じゃないけどな...。まぁ、分かった。嫌なら帰るよ。」
「...そうして。」
青斗は踵を返してスタスタと歩いていった。
朱音は自販機でコーヒーを買って、そのまま走って教室に戻っていった。
だが、その時の朱音の顔はとてつもなく朱くてそして少しだけ口角が上がっていたことは、本人の朱音でさえ知る由もなかった。
*
放課後。
俺は一人で家に帰っていた。なんだか今日の朱音はいつもにまして殺気を飛ばしていた気がする。
…昼のことが原因だな、これは。
そう思いながら歩いていればいつの間にか家についていた。
「...ただいま。」
ドアを開けた瞬間、普段とは違う雰囲気が家の中に漂っていた。...なんだかどんよりとしている。
リビングに入ると、朱音がテーブルで頭を抱えながら一通の封筒とにらめっこをしている。
「...何してるんだ。」
俺が声をかけると朱音はバッとこっちを向いた。その表情は暗く固くて学校での雰囲気ではない。
「...」
朱音は無言で俺に封筒を差し出した。
「...どうしたんだ、八王寺。」
「...これ...読みなさい。」
俺は封筒を受け取って中身を見てみる。中には、関西行きのチケットとホテルのチケットが二枚ずつ入ってる。
その時の俺の表情は恐らく真っ青で面倒くさいというのが顔全体に出ていただろう。
「...なんだ、これは...。どういうことなんだ...?」
「私にも分からないわよ。封筒が届いてあって、開けてみたらそれが入ってるんだもの。でも、二枚ずつってことは多分...。」
「多分、行けってことだよな...。」
朱音は力なくコクリとうなずく。俺は息をはぁとついてそのままソファに座り込んだ。
「今日は俺は疲れた...。明日、八王寺の親父さんに電話で聞いてみる。」
「そうしてちょうだい...。私はもう部屋に戻る...。今は何も考えたくない...。」
そうすると朱音はふらふらと部屋に戻っていった。俺はその後ソファに寝転び、そのまま、何も考えず、眠りに落ちた。
*
夜。関西のとある場所。
一人の少女がボロボロの洋服を着て逃げ回っていた。
「おい!!あいつはどこ行った!!探せ!!貴重な売り物だぞ!!」
いかつい男たちが何人も関西のあちこちを走って探し回っていた。少女はその男たちにバレないように身を潜めるようにして逃げていた。
「逃げなきゃ…。アイツラに捕まったら、あたし...!!」
空には月が出ていない。新月だ。月明かりのない空の下で新たな縁が今、繋がろうとしていた。
新章、「三日月夜空に鬼娘は泣く編」始動。
第七話「月明かり。」:終
次回予告:関西旅行に反対だった二人だったが、両方の親に言いくるめられて関西に旅行する!!そこで彼らが見たものとは...!?次回第八話、お楽しみに!!
やっと新章に突入できた...!!感謝です...!!
*プラスワンでもっと知ろう!!:今回未登場のレイズスですが、彼は小動物が大好きで週一回の頻度で猫カフェに行くそうです。
前話はこちらから→「朱藍の婚約者」第六話「遅れた。」https://tohyotalk.com/question/818639
一話はこちらから→一話はこちらから→「朱藍の婚約者」第一話「邂逅」https://tohyotalk.com/question/813334
次回は3月12日に更新予定です!!

