【小説】真夏の追憶《七話》

2 2023/08/26 22:07

前話→ https://tohyotalk.com/question/553599

━━━━━

丑の刻を過ぎたほどであっただろうか。突然大地が大揺れして、俺は飛び起きた。

咄嗟に格子の外を見てみる。

 

辺り一面火の海で、龍の大軍や人間の姿をした兵が城の塀を破壊し侵入してきている。彼らは口々にこう謡っていた。

「〽時代よ変われや都の時、時代を変えるは龍の民」

「革命万歳!龍の都、万歳!」

 

城門兵はもはや機能しておらず、城にいる人々全員が混乱状態に陥っている。この世の出来事とは思えなかった。

「逃げるな!!逃げるな腰抜け共が!!!ここにいる者全員戦え!!!逃げたら処刑する!」

という乙姫の声が、叫び声の中から微かに聞こえた。

それに従って勇敢に戦う者や、気にも留めず一目散に逃げる者、逃げる隙もなく無惨に殺されてゆく者。まさに地獄絵図であった。

俺は伊与たちの安否が気になり、逃げるも戦うもそっちのけであった。

「峠さん!」

伊与の声がした。辺りを見回すと、炎越しから伊与が手を振って無事を伝える姿が確認できた。良かった。いや、良くはない。はやくここから逃げねば。

伊与は「今そっちへ向かう」というようなジェスチャーをしたが、俺は「来なくていい」とジェスチャーをし返した。伝わったかどうかはわからないが、どこかへ走り去っていったから多分伝わったのだろう。

俺も日髙らを見つけてはやく逃げよう。

 

「日髙──!!日髙の母さん──!!!大丈夫か───!」

兵や炎から逃げつつ牢屋の周辺を走って二人を探していると、足が瓦礫の下敷きになって倒れている日髙の母と、彼女を引っ張って助け出そうと必死な日髙を発見した。

「…どうなってんだべ…?」

日髙の母が喋りかけてきた。煙を多く吸ってしまったのか、声はかすれている。目も見えているのか怪しいほどである。

「やべえよ、龍がどんどん城に攻め込んできとる。はよ逃げなあかん!」

俺は日髙に協力し彼女を瓦礫から救おうとしたが、彼女はそれを拒んだ。俺と日髙の助けの手を振り払い、こう言った。

「私は…この、この革命の、犠牲になりてえんだ。龍の民の誇りとして…」

瓦礫に炎が引火し、彼女の足あたりが燃える。全身が一気に燃えるのと、先端からじわじわと燃える、どちらが苦しいのだろうか。

「あが、あ゙、あ゙、あ゙あ゙ああ、ゔ…」

大声で叫ぶ気力もない彼女は、小さくかすれた悲鳴を上げた。

「峠さんよう、最期に話…聞いてくんねえか…?」

彼女は最後の力を振り絞って、事の経緯を話し始めた。

詐欺をはたらいたのは、一揆を起こすためだった。全て百姓の間で決まったことだった。連続詐欺師だという噂を広めてもらい、わざと捕まりこの城の内部に侵入し、隙をついてどこかから狼煙を上げる。村でスタンバイしていた百姓らが狼煙の合図を確認したら、一斉にこの城に乗り込み乙姫を討つ、という計画が密かにつくられていたのだ。

詐欺師役には自ら立候補したという。龍の民の歴史を変える大革命の火蓋を自分の手で切ることができて最高だ、とまで言っている。一揆への異様な執着心に俺は恐怖心をも抱いた。

「峠さん!日髙!あんたらも、この大革命の犠牲になれ!魂を捧げろ!龍の都、万歳!」

彼女は残りの力全てを振り絞ってそう叫んだ瞬間、ガラガラという轟音とともに炎を纏った天井が目の前落ちてきた。俺たちは誰かに身体を引っ張られ間一髪で助かったが、彼女の命はもう無いだろう。

「なにをぼーっとしているのですか!はやく逃げなさい!!」

天井から守ってくれたのはやはり伊与だった。

「なんで逃げてねーんだよ!お前はもっと自分の心配しろや。なんで俺を…」

「私には責任があります。あなたをこんなところへ連れてきてしまった責任が…こんなことにあなたを巻き込んでしまった責任が。」

何のことを言っているのかわからないが、とにかく俺を守りたいらしい。昨日会ったばかりの人間に、こんなにも命を懸けられるものなのだろうか。

 

空を見上げると、無数の龍と龍が争っている。その中にひときわ大きな双龍がいた。右側に角がある方は日髙と相性最悪なあの『彼』、左側に角のある方は昨日俺が股間キックをしたあの男だろう。

俺は、寝る前に聞いた彼のあの言葉を思い出した。

『姫様がどんな過去を持っていてどんな人物だとしても、僕は最期まで御守りしたいね。』

これはきっと彼の本心からうまれた言葉。処刑が怖いから仕方なく、ということもあっただろう。しかし、嘘偽りのない乙姫への純粋な忠誠心が、彼には確かにあったのだ。彼の青く美しい鱗は惨く剥がれ落ち、革命の犠牲となった。

 

火は落ち着く様子を全く見せず、それどころか酷くなる一方である。燃える瓦礫や動かなくなった人、息絶えて上から落ちてくる龍などで足場はかなり悪い。

日髙が倒れている人に躓き転んだ。立ち上がろうとすると、その倒れている人が日髙の足をいきなり掴んできた。

━━━━━

こんにちは、どこもです。

とりあえず反乱が起きるところまでいきました。最初の予定では一揆をこんなに長く書く予定では無かったのですが…(笑)。それと人がどんどん死んでいきますね。大変だ。

 

トピ画は戦火イメージのフリー画像です。

 

読んでいただきありがとうございます!

 

次話→ https://tohyotalk.com/question/555746

いいねを贈ろう
いいね
2
コメントしよう!
画像・吹き出し

タグ: 小説 真夏 追憶 七話

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する
その他2023/08/26 22:07:16 [通報] [非表示] フォローする
TTツイートしよう!
TTツイートする

拡散用



まだコメントがありません。最初のコメントを書いてみませんか?
画像・吹き出し

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する