【小説】仙納そば
「あれが新しいそば屋じゃない?」
「おぉ~雰囲気あるね~」
つい先日、全国チェーン店のそば屋「仙納そば」が近所に建った。
その店は美味いと評判で、連日客の足が後を絶たなかった。
「今度食べに行ってみるわ」
「俺も機会があったら食うかー」
一週間前、そんな話をした事を思い出した。
あの話をしてから仙納そばを食べようと思っていたが、その為だけにわわざ出かける気にもならなかった為、明日食べよう明日食べようと思っていたら、いつの間にか忘れていた。
プルルルルルルル...
唐突に電話がかかってきた。
「亮太からか?」
ふとそんな事を呟いたら、呼び鈴がなった。
ピンポーン!ピンポーン!
何回も何回も
流石にうるさいと思った俺は、呼び鈴を何回も鳴らすそいつを追い払うため玄関のドアを開けた。
「おい!うるさいぞ!」
「なあ!あの仙納そばって超絶美味いんだぜ!今から一緒に行こう!」
亮太だった。
「食べようぜ!仙納そば!」
あまりのしつこさに根負けした俺は、渋々そいつの車に乗り、仙納そばへと向かうのだった。
「食べたいな、仙納そば。美味しいな、仙納そば。」
・・・どこか様子がおかしい。
いや、どこかどころじゃない...思いっきりおかしい。
ずっと仙納そば仙納そば呟いている...
「なあ、少し俺に運転変わってくれないか?お前も少し疲れてるだろ?」
あまりに不自然だが、俺は運転を変わろうと提案した。
理由は一つ、精神科に行くためだ。
今の亮太はあまりにもおかしい。一度精神科に見てもらって、元の亮太に戻ってもらおうと考えた。
「うっせぇ!仙納そばに行くんだろ!」
だが、亮太は突如発狂し、急に加速し運転が荒々しくなった
「仙納そばが食べたい...仙納そば仙納そば仙納そば仙納そば」
「な、なあ...もう良いよ俺...帰るからここで下ろしてくれないか?」
ここから家までは相当な距離がある。
だが俺は一刻も早くこの車から降りたかった。
いや、正確には仙納そばに行きたくなかった。
食べたら狂人と化すそば...
俺は絶対に食べたくない。
だが...
「仙納そば仙納そば仙納そば仙納そば仙納そば」
亮太は聞く耳を持たない。
ずっと仙納そば仙納そばと呟いている。
そうこうしているうちに、仙納そばへと着いてしまった...
「すいませーん!仙納そば二つ!」
「は?俺ざるそばが食いたいんだけど...」
「黙れ!仙納そばが一番美味いんだ!」
「静かにしろよ...店の中だぞ...」
叫ぶ亮太を落ち着かせて、周りに迷惑を掛けてないか辺りを見回してみた。
「仙納そば...美味い...美味い...」
「あああああああ仙納そば仙納そば」
「おい!仙納そばを早く食わせろ!」
周りも様子がおかしい...
・・・俺はこれで確信した。
亮太がおかしくなったのも、客がみんなおかしいのも、全て仙納そばが原因だと。
そう思った俺は、一度店から出て、裏口からこっそり店の中に入ってみた。
仙納そばの材料に原因があるに違いないと、そう思ったからだ。
裏口から中に入ってみると、少し薄暗い倉庫があった。
中には、大人3人が容易に入れる程の大きさの壺が、いくつも並んでいた。
俺は辺りを探索しようと、その倉庫に足を踏み込んだが、直後に人の気配がした為、すぐ傍にあるロッカーに身を隠した。
「おい!出てこい!」
まずい!バレた!
そう思い、一縷の希望に賭けて息を殺すと、
「やあやあ店長、計画の進捗はどうだい?」
―――透明人間が壺の中から出てきた。
透明人間?と言うより、水が人の形をしたモノに見えた。
「ここら一帯の人間はほぼ全員お前を取り込んで狂ったよ」
「フフ...アハハ!僕がこの世界を手にするのもそう遠くないかもしれないね!」
「...そうだな」
取り込む?と言う事はやはり水なのだろうか...
「いやー悪いね!こんな協力してもらって!」
「俺も俺でお前が世界を征服したらそこそこの立ち位置に置いてもらう事を約束してもらっているからな」
世界を征服...これはかなりマズイ状況なのでは?
「・・・よぉ」
「何だ?」
「今、この会話を盗み聞いてる奴がいるらしいぜ」
「まさか俺が気付いてないとでも?」
・・・バレてる!
まずいと思い俺はロッカーから飛び出し外に逃げようとした!
・・・ようとしたんだ
「無駄だよ...フフッ」
「・・・ッ!?」
既にロッカーは取り囲まれていて、ロッカーの中も水人間で満たされた。
俺は声をあげる事も出来ず、大量の水人間に囲まれ、息も出来ずに意識を手放していった...
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短いけどすごい面白くて好きですーー🙌🏻🙌🏻
「・・・ようとしたんだ 」ってとこがもう遅いってことを確実にわかる言葉みたいになってるの凄い好きです!!!!!!