【小説】真夏の追憶《八話》
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倒れている人が日髙の足を掴んだ。結構パワーがあり、離そうとしてもなかなか離れない。見覚えのある人だと思ったら、昨日俺が股間を蹴り上げたあの男だった。
「忌々しい百姓のゴミどもめ。道連れにしてくれる。」
鬼の形相で喋った彼は、全身血だらけ傷だらけであった。右腕は肘から下が無くなっており、下半身は火傷によりただれていた。しかもほぼ全裸。
「離せ!国家の犬!」
「誰かと思ったら貴様か。憎たらしい母親の首が狙われて、さぞ嬉しいだろうな。」
「…黙れっ!」
日高は声を荒げ、足元に落ちていた木の柱で男を殴りつけた。それでも男はしぶといもので、なかなか手を離さない。
「どうした。犠牲になれて嬉しいのではないのか?百姓どもは皆、喜んで死にいっていたが?それとも貴様、自分は百姓ではないと言い張るか。」
日髙はピタリと止まり、俯いて言った。
「…喜んで死んでったなんて、みんな狂ってんだ。」
両手をギュッと握る日髙。
「こんなんおかしいべ。みんなして犠牲になれだ都のために死ねだって、どうかしてるだよ。詐欺師の子供役にされたんだって無理矢理だ。こんなこと、望んでねえだ。」
男は、日髙の足を掴む力を緩めた。その隙に日髙は男の手を振りほどいて男の顔を踏みつけた。日髙はキョロキョロと辺りを見回したかと思うと、ある方向へと走っていった。
俺と伊与は日髙を追いかけようとしたとき、後ろで男が何か喋った。
「あやつ…。」
男の身体はボロボロでもう立てまいと思っていたが、気力のみで立ち上がった。
「まだ生きてたんかい!!」
しぶとさはゴキブリ並みだな、と言いそうになったが我慢した。
「あんな屑一匹に殺されてたまるか。私の使命はこの城を…この都を最期まで守り抜くことなのだ。」
すると彼は龍になり、空へと突撃して言った。乙姫を守るというよりも「龍の都を守りたい」という意思のほうが強い彼もまた、革命の犠牲となった。
日髙を追いかけ、気が付くと俺たちは、壁が焼け落ち外が丸見えになっている場所まで来ていた。外を見ると、ここがとんでもない高さの場所であることがわかった。
すると日髙はこちらを向き、誰に言うでもなく静かに呟いた。
「都に殺される前に、自分で死ぬべ。」
止めねば、と思ったが俺は無駄だとすぐわかった。日髙は覚悟を決めた目をしていた。伊与もそれを察したのか、何も言わなかった。
「…あいつ、母親がどうとか言ってただろ。」
確かに言っていた気もする。日髙の実母の話なのだろうかと妙に引っかかった部分だ。
「おらの母親は……………、母…親…は、────乙姫の野郎だ。」
俺は驚いて思わず「え゙?」と叫んでしまった。日髙はこちらに顔を合わせずに話を続けた。
「父親は、…お察しの通り浦島だ。だども正直こいつらは親でもなんでもねぇと思ってんべ。浦島はおらが産まれる前に地上に逃げた。乙姫はおらを憎んで捨てた。浦島と乙姫との子なんだべ。生きているだけで不利だ。ここで生き残っても意味はねえ。」
俺も伊与も、何を言えばいいのかわからなかった。でも黙っているのも気まずい。
「…そ、それは、私たちに言って良かったものなのですか?」
伊与が訊いた。
「いんや、墓まで持ってくつもりの話だべ。」
そう言った瞬間、日髙は俺と伊与の腕を掴み後ろへ倒れこむように外へ飛び降りた。無理心中を図った。
「うわばあああ!!!!!!」
「一緒に墓まで持ってくだ。」
伊与が下の階の床に掴まり、九死に一生を得た。伊与が俺の、俺が日髙の手を握ってなんとか落ちないように踏ん張っているが再起方法もわからないし床も伊与もそろそろ限界である。
すると日髙が俺の手を無理矢理引き離そうとした。
「ななななにやってんねん!落ちるで?死ぬで?!」
「始めっからそれが目的だ。それにここで死なんでも別のとこで死ぬだろうし。都に殺されるより、自分で死んだ方がいい。」
腕が限界なのもあって、俺はとうとう日髙をの手を離してしまった。
「生まれ変わったらまた会おうな。」
少し微笑んだように見えた。
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こんにちは、どこもです。
過去の話をうまく回収することができない…自然な会話の中で段々わかっていくってのがやりたかったのですがね…。やっぱり書き続けるのが重要ですかね(笑)。
トピ画は燃える建物のフリー画像です。
読んでいただきありがとうございました!