【小説】真夏の追憶《九話》
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そうこうしているうちに誰かが俺たちの身体を引き上げ、一命をとりとめた。
伊与の手は血だらけで、肩も使い物にならないらしい。
「大丈夫?!」
引き上げてくれたのは、昨日の昼一緒に洗濯作業をしたあの女たちであった。服や髪はボロボロに焼け焦げ、顔はススだらけであったり怪我をしていたりする者がほとんどだったが、全員ピンピンしていて安心した。彼女らはかなりタフだ。
「はいこれ!」
そう言って乱雑に手渡してきたものは、小さな箱だった。美しい漆で塗られたそれは所々に金箔が散りばめられていて、朱の紐で丁寧に結ばれていた。
「あんた、人間なんでしょ?これ、玉手箱だから!」
「昨日あのあと急いで作ったんだからな。」
「ま、一瞬で作れるんだけど。」
皆バラバラに喋るものだから、一切聞こえない。周りの騒音や雑音も相まって尚更である。
燃え盛る瓦礫を死に物狂いで乗り越え、なんとか城の外に出ることができた。
しかそこは死体や怪我人や避難者で溢れかえっており、城の内部とはまた別の地獄だった。炎も弱いとはいえ燃えてはいるため燃え広がる可能性もある。
人混みに押されつつ、俺たちは進んでいった。
「あんたたちは…うぐっ、これから、どうすんの…さ!」
ぎゅうぎゅう押されながらも話しかけてきた女たち。答えるのも一苦労である。
「ええと、ちょっと、確認したいことが…あるので。うわわ」
伊与が言う。確認したいことがあるなんて初耳である。
彼女らも安全な場所をどうにか探してそこへ避難すると言い俺たちとは別れわかれになってしまった。その際、彼女らは口を揃えてこう言った。
「ゼッッッッタイ、生きのびるんだよ!!」
涙が出そうになった。
俺たちは奇跡的に人混みを潜り抜けられ、静かで薄暗く落ち着いた場所に辿り着いた。そこは、俺がここに迷い込んできて最初にいた場所だった。目の前には、昨日と変わらず大きな岩と鳥居が堂々と腰を下ろしていだけだ。
「結界、破れていると思ったのですが…」
伊与はこちらを向かず、肩を落としてそう言った。伊与の確認したいこととは、結界が破れているかどうかだったらしい。
すると茂みがガサガサと動いた。動物…魚だろうか。いや、何か話し声が聞こえる。誰だ。
「────…なら安全だろう。」
「──…どうしましょうか…」
女性と男性の声だ。すこし距離があるため、逃げようと思えば逃げられなくもない。しかし逃げる必要はなかった。
なんと、鉢合わせてしまったのはあの乙姫であった。横の中年の男性は恐らくただの雑兵か足軽かだろう。こんな下っ端しか残っていないとは、乙姫の堕ちようが目に見える。
「この期に及んで貴様と邂逅か。私も運が尽きたな…。」
すると彼女は正座をし、懐から小刀を取り出した。暗くて気が付かなかったが、彼女の服は少し焦げている白装束であった。彼女の斜め後ろには刀を持った雑兵。
俺は一瞬で理解した。これは、時代劇でよく見る「切腹」のシーンではないか。
「やい!!」
俺は無性に腹が立ち、文句を言ってやろうと大声で呼びかけた。
「お前さあ、さんざん人殺しいといて自分が死にそうになったら逃げるのなんなん?卑怯やん!他人殺したんならお前も他人に殺されろ、自分で勝手に死ぬな。あと、切腹は武士だけやぞ!!」
乙姫も雑兵も、伊与までもが目を丸くして俺を見ていた。周りが静かになり少々気まずい雰囲気になったが、俺は言いたいことを言えてなんだかスッキリした。乙姫は大分長い間呆気にとられているが、その横の中年雑兵はそうもいかなかった。
「お前…!」
雑兵は鬼の形相で、刃こぼれしているボロボロの刀を振りかざしてきた。
まずい。
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こんにちは、どこもです。
この物語でいちばん好きた人物はあの洗濯していた女性たちなんですよね。ひとりひとりに名前もないんですけど、結構お気に入りです!
トピ画は乙姫さんと鉢合わせした場所をイメージしたフリー画像です。
読んでいただきありがとうございます!