「朱藍の婚約者」第八話「角の破片」
「朱藍の婚約者」第八話 角の破片
朝。青斗は何かが焦げた匂いで目が覚めた。
「...?なんか焦げ臭いな...。」
体を起こし、キッチンの方を見る。
するとそこには、トースターの中にパンを入れて、IHコンロで焼いている?朱音の姿があった。
「なんっで!?このトースター、全っ然パン焼けないの!?」
青斗はその様子を見て、少しため息をついてからキッチンの方へ向かった。
「...八王寺。トースターでパンを焼くんだ、パンを入れたトースターを焼くんじゃない。」
朱音は青斗が起きていることに気づいていなかったらしい。話しかけられた瞬間、肩がビクッと跳ねた。振り向いたその顔は赤面しており、恥ずかしさと怒りが混ざっていた。
「なっ!!べっ別に分かってるわよ!!それくらい!!」
「分かってるなら、余計やるなよな...。」
「あからさまに呆れないで!?まるで私が出来てないみたいじゃない!!」
「...まぁ、実際、出来てないからな。」
「っむぅ...!!」
朱音はまるで何も言い返せないといった表情で青斗を睨んでいた。
「分かったわよ!!じゃあ、次からはあんたが教えなさいよね!!」
「...俺がか?別にいいが。」
「そうして!!...そういえば、昨日のアレ、どうなったの?」
『昨日のアレ』と言うのは昨夜八王寺家から直々に届いた関西旅行ペアチケットのことだろう。
「...昨日、八王寺の親父さんに電話で直接聞いてみた。」
「で?どうだったの?」
「...あからさまな態度で、行かないと護衛の話を破棄すると脅された。」
「ホント、お父さん。あーゆう所あるから...。」
朱音はため息をついた。その顔からは抵抗の色は抜けており、すべてを諦めていた。
「はぁ、で?その旅行っていつ行くのよ?」
「...。」
青斗は無言になった。その顔は少し青ざめており、少しだけ怒りの色も見える。
「...?二高?どうしたのよ、急に。」
「あー...。嘘だろ。八王寺、悪いが明日だ。」
「...え?」
一瞬、家の中がシンと静まり返った。朱音は顔面蒼白のまま、震える声で尋ねた。
「えっと、もう一度聞くわね?旅行はいつ行くの?」
「現実逃避をしようとするな。明日だ、明日。」
「あ、明日...。嘘...。」
「嘘じゃない、現実だ。実際、予約された日時が明日なんだ。」
「じゃあ、今すぐ準備しないとじゃない!!」
「まぁ、そうなるな。」
「嘘!?もうやだー!!今からまた買い物行くの!?」
「悪いが、頑張ってくれ。俺にはそれしか言えない。」
「他人事!!嘘でしょ、もー...。」
朱音はウロウロと家の中を歩き回ったあと、やがて決意を決めたかのように出かける支度をし始めた。
*
そして、その日の夜。
朱音はリビングにキャリーケースとその中身を全部開いて支度していた。
「えーっと...。歯磨き粉は...入ってる。他のは...。」
「なぁ、八王寺。少し思うんだが...。」
「何よ、二高。私、今明日の支度で忙しいんだけど?」
「...俺は気にしないが、リビングで全部出して支度するのは邪魔じゃないか?」
言われた瞬間、朱音は周りを見渡した。リビングは自分が支度したあとでゴチャゴチャだ。
朱音は耳まで真っ赤になった。
「...見ないで。」
「見てしまったから、もう無理だな。」
「それじゃあ、記憶から消去しなさい。」
「無茶を言うな。何年も前ならともかく、ほんの何秒か前のものだ、頭に残ってしまっている。」
「じゃあ、物理的に記憶を消す。」
そう言うと朱音は、キッチンからフライパンを取り出して、構えた。
「なぜそうなるんだ!?」
「大丈夫よ...ちょっと痛いだけだから。すこーし頭を軽く叩くだけだから...。」
「全然大丈夫じゃないだろ!!それは!!」
朱音が青斗を追い回しているとき、玄関からチャイムが鳴った。
「ちょ、ちょっと待て。誰か来てるっぽいから、俺が出るから。少し待て。」
朱音は不服そうだったが、その誰かにこの現場を見られたら嫌だろ?と言われ、渋々リビングで片付けをしていた。
「...はい。」
「よっ!!青斗!!」
青斗がドアを開けると、そこには彼の親友、レイズス・コマンダルが立っていた。
「...なんでお前が来ている。」
「いやー関西に旅行するって聞いたから!!」
「情報漏れるの早すぎるだろ...。」
するとリビングの方から支度を終えたであろう朱音が顔を出した。
「...誰?」
「あっ!!やっほー、ツンデレお嬢様!!来ちゃった!!」
「え...?なんでイズくんが…?」
「いやー関西旅行、俺も行きたいなーって思って!!」
「来るな、イズ。」
青斗は即答した。そこには一瞬の迷いもなかった。
「え!?なんで!?」
「チケットが二枚しかないからだ。」
「えー。自腹で出すからー。朱音ちゃんもイズくんに来てほしいよね!?」
朱音は少し悩んで、答えた。
「今回は...留守番で。」
イズの悲痛な叫びが家中に響いた。
*
翌朝、朱音と青斗は関西行きの新幹線に乗っていた。
だが、二人の間の空気は気まずい。全くもって会話がない。
(別に行きたくて来たわけじゃないけど...)
朱音は新幹線の窓の外を見つめている青斗をいつの間にか眺めていた。
(なんだか、変な感じ...。)
そう思っていると、ふと青斗が口を開いた。
「なぁ、八王寺。...無理はしなくていいからな。」
「...?どういうこと?」
「俺と一緒が嫌ならあっちでは別行動でもいい。その代わり、俺の妖気の入ったビンを渡すが...。」
朱音は一瞬だけ目を開いて言葉に詰まった。
「...ホント、そういうとこなんだから。」
「...?なんだ?」
「なんでもないわよ!!」
朱音はそっけなく返したが朱音の顔はほんのり赤くなり口角が少し上がっていた。
*
その頃、関西のある場所。
一人の男が路地を歩いていた。
「ったくよー。あのクソ上司、俺の失敗をいいことにあることないこと話しやがってよー。...んぁ?何だあれ。」
男が目を凝らした先には少しだけ光に反射しているものが見えた。
「なんだコレ?何かの破片みたいだが...。」
男がそれを手に取った瞬間、男は背後から何者かに刺された。
「っ!!」
男はそのまま倒れた。そしてその男を背後から刺した何者かは男の手からそれを取った。
「...これがあの娘の――」
第八話「角の破片」:終
次回予告:関西についた青斗と朱音。少しギスギスしながらも関西旅行を楽しむ二人だったが、ある少女と出会って――!?次回、第九話お楽しみに!!
八話が投稿できた...!!死にそうになりながら書いたのでぜひ読んでほしい...!!
*プラスワンでもっと知ろう!!:朱音は意外と心配性らしいです。なんでかなぁ...?
前話はこちらから→「朱藍の婚約者」第七話「月明かり。」https://tohyotalk.com/question/819501
一話はこちらから→「朱藍の婚約者」第一話「邂逅」https://tohyotalk.com/question/813334
次回は4週間ほど開けますがちゃんと投稿します!!

