「朱藍の婚約者」第五話「一人じゃ広い。」
「朱藍の婚約者」第五話 一人じゃ広い。
同居開始から三週間。そろそろ、一ヶ月が経とうとしていた。あの後からも、自称二高の親友のレイス?みたいな名前の人はしょっちゅう私達の家に来る。
...私達の家って言っても親に無理やりさせられている感じだから、どっちもあんまり関わらない方針で上手くやってる。二高の方は相変わらず無愛想な顔で、何考えてんのか分かんない。...ホント、ヘンなやつ。
「...おい、八王寺。」
「...何よ。」
「俺は今日、妖務だ。少し遅くなる。飯は冷蔵庫に作り置きしている。あと絶対に夜は結界n...いや、家の外に出るんじゃない。分かったか。」
「あんたは私の母親か!!うるさいわよ!!言われなくても一人でできるし!!」
「出来てなかったから言ってんだろ。」
「んなこと分かってるし!!余計なお世話よ!!」
「俺はただお前の婚約者としていっているだけだ。」
「んなっ!!...ふ〜ん。あんた、本当に私と結婚する気なの?冗談でもきついわよ、それ。」
「勘違いするな。妖務上の表面的な関係だけの話だ。あいにく俺は恋愛をしたことがないんでね。そーゆーお前の想像するような色恋みたいなのは、分からねぇよ。」
「わ、わわ私がいつ、色恋の話をしたの!!き、き聞き間違いも甚だしいわ!!」
「動揺してんじゃねーか。」
「うるさい!!余計な一言!!っていうかさっさと行きなさいよ!!妖なんちゃらみたいなの!!」
「妖務、な。あと、俺ももう行く。長居してる暇はない。それともっかい言うが、冷蔵庫の中だからな。れいぞうk――」
「さっさと行きなさいよ!!ドアホーー!!」
私は青斗の話を遮り、半ば強制的に家から追い出した。
*
青斗は半ば強制的に朱音に家を投げ出されると、すぐさま妖務場所に向かった。
妖務の内容は中級妖20体の討伐である。自分からすれば、そこまで苦な事ではない。だからこそ、できる限り早めに終わらせて家に帰るつもりだ。
だから本来、作り置きなんてしなくてもいいのだ。正直に言えば、10秒で終わらせて帰ってきてご飯を作ればいいだけだが、ここ最近は妖務の討伐速度が少し遅くなっているのだ。
別に弱くなったわけではない。むしろ強くなっているほどだ。だが、朱音と同居して朱音のサポートをしているうちに、無意識に今まで目に入っていなかった世界が広くなった気がする。
例えば、今までは人助けなんて必要以外したことはないのだが、何故か妖務の途中でも今までに比べて多く人助けをしている気がする。視界が広くなったってのだろうが、そんなにあの生活力ポンコツと一緒にいるだけでここまで視界が広くなることなんてあるのだろうか?
考えてもわからないものは仕方がない。今日だって、念の為ではあるがあいつのためだけに家の周りに結界を張ってしまった。もちろんバレないように張ってはいるが、少し心配だ。
青斗はそう思いながらも、妖務に集中することに決めた。
*
一方、青斗が心配しているそばからその生活力ポンコツ半吸血鬼は久々の一人の時間に浸っていた。
「今日は、あのバカが一日いないと思うだけで、楽だ〜〜。」
ダイニングにあるソファでくつろぎながらそのまま、朱音は眠りに落ちた。
――眠りから覚めたのは2時間後。朱音は、寝起きの髪を整えてシャワーを浴びた。
「青斗ー?洗面台からタオル取ってー。」
返事はない。朱音の声は広すぎる家の中で消えていった。
「...そっか。今日いないのか。あのバカ。」
朱音は自分でタオルを取り着替えると、リビングに来て家の中を見渡した。
(広...。)
昨日までは気が付かなかった。人がひとり減っただけで、こんなに空間が広く感じれるなんて...。
「...よし。」
朱音は気合を入れる。いつまでもあの男に生活力で下に見られたくないという、謎の負けず嫌いが発動し、朱音は一人で家事をすることに決めた。
*
さっきまでお風呂に入ってたから、まずは洗濯からよね。
「量は...これくらいかしら?」
私は洗剤を丁寧に入れる。今回ばかりは泡を出すわけにはいかない。量は完璧。ちゃんと袋の説明書通りに洗剤を入れ、スイッチを押す。
数分後。
洗濯機は動かないまま。
「え?な、なんで...?さっきまで動いてたじゃん。」
洗濯機の表示には相変わらずエラー表示が出てる。え、マジでどうすればいいの?...叩いてみようかな。洗濯機とバカは叩けば直るっていうもんね。
試しに叩いてみると、洗濯機のフタがバンッと閉まって、洗濯機が動き始めた。
「...」
ま、まさかフタが閉まってなかっただけだなんて...。普通に恥ずかしい。耳まで真っ赤になっている気がした。...多分。
―――その後も、掃除をしようとすればコンセントを破壊して、作り置きに頼らずご飯を作ろうとしたらキッチンの方で小爆発が起きたり、散々な目にあった。
夜。私は二高の作った作り置きをチンして食べていた。...結局、自分で出来ると言っておきながら、何にもできなかった。何なら途中で、なんか二高のっぽいもの壊しちゃったし...。どうしよう。ホント。
...でも、やっぱ自分でやってみて思うけど、二高はいっつも、こんな面倒くさくて大変な家事やってたんだ。
それも、妖使いっていう職業もしながら。
あんなに無愛想で人のことあんまり考えられなさそうで何考えてんのか分かんない変なやつなのに...。ホント、二高って相変わらず
「...すごいなぁ〜。」
…しまった。無意識に言葉が出てた。...大丈夫だよね。盗聴器とか無いよね。今の聞かれてたら恥ずかしすぎた。
まぁ、いっか。これくらいなら、聞かれても大丈夫...だと思う。うん。多分。
*
午後10時30分。
――カタン。
玄関の付近で奇妙な音がした。自室で眠っていた朱音はその音で目を覚ました。
(二高が帰ってきたのかな。)
朱音は自室のドアを開けると暗がりの中玄関の方を見た。
「二高〜?帰ってきたならなんか言いなさいよ〜。」
朱音は眠たい目をこすりながら言った。だが、返事はない。不穏に思った朱音は耳を澄ました。
―――ギィ。ギシッギシッ。...ズルズル。
床が軋む音と何かを引きずるような音。
空気が重い。
――バンッ。
一階でなにか倒れるような音。
朱音は自分のスマホのライトを頼りに一階に降りていった。
音がした方向に朱音がライトを向けると、そこには青斗の姿はなく代わりに異形の妖がいた。
「...っ!!」
間違いない。ヤツは...あの妖は自分を襲いに来たのだ。
「なんでっ…今…!!」
朱音は後ずさる。――逃げ道は無い。
妖はジリジリと朱音に近づいてくる。朱音は歯を食いしばった。
「...来なさいよ…!!」
震える声で言い放った。
(落ち着け...。大丈夫。私は白金財団の令嬢。そして,,,半吸血鬼の八王寺朱音...。でも...。)
妖は中級クラス。普通の妖使いなら倒せはする。だが、朱音には経験がない。妖使いでもない。
「...あたし、一人じゃ...!!」
妖が朱音に向かって手を伸ばした。
―――その瞬間。周り近所に余裕で響くほどの爆音とともに妖を朱音ではない誰かの拳が貫いていた。
第5話「一人じゃ広い。」:終
次回予告。絶体絶命の朱音を救ってくれたのは...!?次回6話「遅れた。」お楽しみに!!
絵はちょっと間に合わなかったので友人が書いてくれたのを使いました。すいません...。
*プラスワンでもっと知ろう!!:青斗は妖務に行く前に必ず、カフェラテとケーキ屋「アジサイ」のショートケーキを食べてから行っているそうです。
前話はこちらから→「朱藍の婚約者」第四話「楽観的主義者だから」https://tohyotalk.com/question/815774
一話はこちらから→「朱藍の婚約者」第一話「邂逅」https://tohyotalk.com/question/813334
次回は2月26日に更新予定です!!

