【小説】真夏の追憶《五話》

2 2023/08/22 16:22

前話→ https://tohyotalk.com/question/551101

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どれだけの距離を走ったのか、いつまで逃げていたのかはわからないが、さっきよりも少し日が傾いている気がする。

追手の姿が見えないことを確認し、俺たちは民家の近くの洞穴に隠れた。龍宮城は遠くなっていたが、まだ見える距離ではある。

「…こんなところにいても、ただの時間稼ぎにしかなりませんが…。」

「あ、そう…。」

俺はいまだに状況が把握しきれていない。

これまでのことをまとめると、龍の都という謎の世界に迷い込んだ俺が龍宮城に連れていかれていきなり死刑宣告を受け牢屋に入れられ、伊与が脱獄を提案したため牢屋から脱出してみたら庭まで繋がっていて、そこにいた女たちと洗濯物をしていたら一揆が起きて驚いていたところに男がやってきて脱獄がバレたので金的攻撃をして城から脱出して、今ここにいるわけだ。

「うん、全くわからん。」

「ど、どうしたんですか…。」

俺は思ったことを口に出してしまう癖があるようだ。

この際、伊与に全てを訊いてみよう。彼女らの言っていた“結界”のことも訊きそびれたし。

「あんさ、この世界って、何?」

「この世界…ですか。」

「うん。なんか、ヤッベー龍とかいるしヤッベー反乱とかよく起こってるし。気になんねん。」

伊与は少し考えてから話し始めた。

「…長くなるので、古代の話は省きますね。」

 

ここは、「海底」。魚と龍の住んでいる海の中の世界。海底という名ではあるものの、普段は結界を張って外から見えなくしたり、人間が入ってこないようにしたりしているため、人間の見ている海底とはまた別の世界。

この世界の龍は、ほとんどが人間と似た姿になることができる。龍の姿のままでは図体もでかく色々と不便だからである。

「海底」のうちの「龍の都」が現在地である。もっと絞ると「龍の都」の「龍宮城」の城下町。その龍宮城の現城主は、女城主の乙姫様。派手な装飾と美青年を好む、美しい女性。気に入らない者や、口答えををする者は処刑をするという恐怖政治で統治している。しかし、庶民はそれに納得するはずもなく、一揆を頻繁に起こしている。

「──というのが、この世界と龍の都についてです。」

「なるほどわからん。」

「つまり、龍の住む『海底』の『龍の都』では乙姫様の政治に反発する庶民の一揆が頻発している、ということです。」

始めからそう言えば良いものを。

「おめえら、誰だ。」

洞穴の外から声がした。バレた。

逃げようと外に出てみると、そこには小さな男の子がこちらを覗き込んでいた。龍宮城関係の人ではなさそうだ。

肩上で切り揃えられている赤みがかった黒のストレートヘアと、両側面に生える小さな角。美しい深紅の瞳は少しつり上がっている。しかし、その目には生気がなく、肌も不健康そうな白色をしている。

「俺、峠です。」

「…私は、伊与と申します。あなたは?」

「……日髙。」

「日髙さん、私たち…追われていまして。詳しい事情は話せませんが…。」

「うち、来る?」

 

日髙の家はすぐそこにあった。町の民家は室町時代の木造民家に似ていて、わりと広そうな家が多く見えたが日髙の家は周りと比べてもとりわけ小さく質素な家だった。

家の中には、ひとりの痩せた女性が笠を編んでいた。

「そちらんおふたりはどなたか。」

「伊与です、お邪魔いたします。」

「あ、と、峠です。」

「はよ入るだよ、ほれ。」

事情を説明せずとも、彼女は快く受け入れてくれた。優しく聡明な女性であった。彼女は日髙の母親だそうで、足が不自由なため笠を編む仕事をしているらしい。編んだ笠は日髙が売りに出すという。

「前の一揆はすごかっただよ。道のど真ん中で龍になるやつが多くてよう、怪我人も多かっただなぁ。」

日髙の母の足は前の一揆で折ったらしいが、それによって一揆反対派になったというわけはなくむしろもっと過激にやった方が良いとも思っているらしい。

そもそも、何故乙姫がこのような恐怖政治を行っているのかが気になるところである。

「そりゃ、わからねぇべ。」

やはりそこまではわからないか。

「…恐らく彼女は国家をただの『玩具』と捉えているのでしょう。自分好みの国を作る『遊び』感覚で政治をされているのだと思います。」

伊与が答えた。

「やばいなそれ…。いつかこの国滅んでまうで。」

「い、いえ、これは単なる個人の憶測に過ぎませんが…」

 

そのとき、ドンドンと家の扉を強く叩かれる音がした。

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こんにちは、どこもです。色々と書き足していたら予定より話がかなり長くなってしまいました(笑)。

自分で読み返してみると、僕の小説って終わり方が「音が聞こえる」だったり「話しかけられる」だったりなんですよね。なんでなんだろう…。

 

トピ画は洞穴に隠れたシーンをイメージしたフリー画像です。

 

読んでいただきありがとうございます!

 

次話→ https://tohyotalk.com/question/553599

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タグ: 小説 真夏 追憶 五話

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その他2023/08/22 16:22:21 [通報] [非表示] フォローする
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やっと追えてるぜ…!今日もおもろいですね!!^ ^

金的な攻撃www

一体誰が入ってきたのかな?おってかな?🤔


2: どこもです @docomo 2023/08/26 11:19:38 通報 非表示

>>1
ありがとうございます!!

金的攻撃は痛い…(笑)


>>2
下ネタは草すぎますよ?w


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