ヒーローと巫女さん 第四話、第五話(改訂、再掲):入学試験まで

12 2026/09/30 22:44

バスン、布団を畳む音がする。霊夢は起床し、菫子が昔使っていた布団を畳んでいた。カーテン越しだが光で日の出はもう過ぎた事が分かり、そういえばと、時計を見ると、午前五時と少しだった。

(横になっているだけでもいいから寝たい・・・・・・)

そう想いながら、まだあまり慣れない家を移動して、リビングへ。そこで、ペン立てやら、引き出しなどを探して、鉛筆と、内容を見るに要らなさそうな紙を持ってきた。菫子を起こさないように、静かに椅子を引き、座ると机に紙を広げ、筆を走らせる。こちらの世界の調査のプロットを考える様だ。その間でも静かにしようと気を付けながらも声が漏れる。

「そもそも、紫が私を"送らなければならなかった"理由も分からないし、幻想郷がちゃんと機能しているかも気になるし、お酒もタバコもこっちじゃなぁ、でも一番気になるのは朝はあんなだった紫が急に忙しいなんて言った事だし・・・・・・」

独り言を呟きながら、不安要素や調べるべきな疑問、そこまでの筋道、意識すべき事、考えたり、書き出したり、呟いたり、そうしているといつのまにか午前六時。切りが良かったのか、少し考えた後、鉛筆を置き、朝食の用意と菫子を起こす事にした。冷蔵庫にあったパンをオーブンに放り込んで、菫子の部屋へと向かう。軽くノックをするも、返事が無かったので入ると、本人は目は覚めていたが、掛け布団から出られない様だったので、えいっと引っ張って起こさせた。

「おはよう、菫子」

「・・・・・・おはようございます」

菫子は不機嫌そうに口を富士山にし、一緒にリビングへと向かう。今更だったが霊夢は朝食を用意した時、許可も取らずに用意したので、ちゃんと使って良いものだったのか心配したが、菫子も電子レンジの音とパンの匂いでなんとなく察したのか、朝食の用意への感謝と使っても良い材料だった事を言ってくれた。ジャムを引っ張り出して朝食を一緒に摂っていると菫子が

「そういえば、昨日は愚痴とが説明とかで一日使っちゃいましたけど、霊夢さんはこれからどうするんですか?」

「・・・・・・ヒーロー側かヴィラン側、一般市民側。どれについたら、一番良いか考えてて、それによって変えるつもり、まぁ、一番性に合うのはヒーロー側だし、ヒーローにでもなろうかしらね」

菫子が食い気味なのかに素早く返す。

「それをやろうと思うとかなり大変ですよ、ヒーロー科がある所は軒並み偏差値がかなり高くて、戦闘と筆記の二段構えの入試を実施する所が殆ど。霊夢さんのことなら実技は何とかなるかもしれませんが、とにかく筆記がボロボロになる気が」

「国語ならなんとか・・・・・・」

弱気だ。霊夢は菫子に良く物理の話をしてもらって、数学や理科には少しだけ触れている。だが、歴史はこっちの出来事なんて知ったこっちゃ無いという感じで、英語は紅魔館で見たきりなので、かなりまずい様だ。幸い好奇心旺盛な才媛であることが助け舟となっている。それでも少し焦っている様に見える霊夢を見て

「まぁ、そりゃぁきついですよね。そういえば志望校は何処に?」

「とりあえず1番近いところでいいんじゃないかしら」

霊夢が先よりもさらに弱く返す。そして菫子が若干引きながら、息を吸って

「ここから一番近いとなると、一番難関な雄英高校・・・・・・」

ため息交じりに一言

「超、特訓ですね♪」

菫子が無邪気な笑顔になり、そのグロテスクで狩猟の女神の様な口元は、月との戦い、その時の気持ちを思い出させる程だった。その日から、菫子の学校の無い日は、つきっきりで、学校のある日は一定の課題を出されて、それを工夫しながら、こんな努力は意味あるのかと霊夢は想いながらも、一歩ずつ、サボリながら、しかし駆け足で合格への階段を登って行った。

「菫子との受験勉強の成果を発揮する時がきたぁっ」

霊夢が嬉しそうに小さくはしゃぐ。菫子が霊夢さんらしいと想いながら

「頑張って下さいね!!」

と励まし、受験の本番、雄英高校その近くで霊夢を見送る。霊夢が何故こんなに喜ぶのか、それは勉強が辛かったからだろう。それからの解放だ。だから、面倒くさがりの霊夢には、本番ほど楽な出来事はない。雄英高校入試、全盛の軍艦島かと思うほどの人数で入り口が塞がって、転びそうになっている人もいた。深呼吸で(喜びの)心を落ち着かせる。試験前に落ち着かなければ、試験中に落ち着くことはできない。そうしてその人混みの中、いろいろと思考する。

(あんな短期間で勉強して、この高校の入試問題が充分に出来るわけがない。つまり実技で得点を取るしかない。そのための実技の作戦は、過去の入試や在校生の情報から推察、練ってきた。もし、今年の傾向が違ったとしても、対応できる様に、ある程度の幅と複雑さも考えてある。これは勝ったわね)

(,;,ω,;,)みたいな顔で、そんなことを考えていると、とっくにそこは試験の始まる大きな壁で囲まれた会場の前。今いる地点は、相対的に見て後ろだったが、気にしていない。この入試の説明を聞く限り、おおまかなルールはロボットを倒す。ロボットの種類ごとに得点がある。その二つだけ。ただ霊夢に関しては、幻想郷関係者だと気づかれない。それも含まれる。

唐突に大きな音が響く。壁の上に誰かが立っているのが見える。試験監督だろう─ルールを説明している人とは違っていた─

「はい、スタート。」

この程度で巫女は驚かない。ヒーローは咄嗟の判断も大事だ。人混みが邪魔なので、4メートル程の高さへと浮きながら、最前列へ、その前へ前へと移動する。流石はロボット、機械なだけあって、反応速度は早い。だが、ロボットのセリフが聞けないほどのスピードで、脆そうな細長い部分を狙い弾幕ごっこで鍛えた、派手な弾幕で豪快に壊す。すると見える限りで三体のロボットがこちらに気づいた。さっきとは形は違うし、武器も持っている。やる事は先と同じだ。脆そうな部分を派手な弾幕で豪快に壊し、ロボットを集める。その繰り返し。繰り返し──。そのおかげで、開始直後から一気に20ポイントを獲得した。強すぎると不正など、怪しまれるので、このポイントが現時点では丁度がいい。周囲を見ると、受験生が増えてきた。受験生も馬鹿ではない。入り口付近の激戦区を通過して、端へと進んでいる者も多い。頃合いかと、周囲の建物よりも高く、試験範囲がギリギリでも見渡せる高度に飛び上がり、零ポイントの巨大ロボットの位置を確認する。そこは、中心より少し入り口寄りの所。地上から見た時は大きすぎて判らなかった。それを確認すると、すぐさま下降して、零ポイントのロボットが来るタイミングを試験時間から推測し、準備に移る。さっきの飛行の時、ついでに、人間の分布を観ていたので、入試会場の中心部に約半分の受験生、多くの人がそこにいる。霊夢はそこで、人助けをする事に決めた。これは、ヒーローの大前提は人助けなので、何か加点があるのではという予想だ。もちろん、博麗の巫女だから、というのもある。急いでそこへと向かい、黙々と人助けを行なっていると、試験開始からだいぶ経っていた。様々な場所にいた怪我人は、霊夢や、それに賛同してくれた人によって、入り口付近の頑丈で目立つ建物に避難して応急処置だ。具体的には、そこらへんにあった建物から、水道からの水を取って、ロボットの中に入っていた電池を使って消毒し、患部の洗浄。布や紐を持ってきて患部を圧迫。家庭用漂白剤で消毒したロボットの武器や部品で、副木、松葉杖などの制作。幸い手伝ってくれる者は少なくは無く、怪我人への処置を多くの人が、ロボット狩りを中断してまで手伝ってくれた。霊夢は頃合いだと、怪我人の処置を他の人に任せ、建物の屋上へと上がる。アタリをつけた場所から、建物が面白いように崩壊する、ようやく待ち望んだ零ポイント巨大ロボットの登場だ。逃げ惑い、隠れる人々が殆どで、ささっと、大声で指示して避難させたが、驚いて固まっている人もいた。各地から、巨大ロボットというランドマークにより、人間が狩らなくなったことにより、ポイントのあるロボットが十分に集まった。かなり近くまで来た巨大ロボットを見上げ、霊夢はそれを倒すことだけを考える。もちろん力を出し過ぎない程度に。

狙っているのは、なるべく壊れやすい所を狙いながら、入り口側に被害がいかないように破壊して倒す。その為には絵のように美しいこの技がピッタリだ。綿密に威力を調整する。弾幕は火力、技術、美、そして楽しむ、その四つの原則。こっちの世界に来てからの初のスペルカード。

「霊符:夢想封印!!!」

歯切れよく、ヒーローが技名を叫ぶ様に、屋上で踏ん張りながら、叫ぶ。虹色の美しい弾幕、それを幾つも発生させて、大木を倒すように、正確に慎重に狙って破壊する。複雑な機械がゴチャゴチャになる特有の音と共に巨大なロボットが倒れ土埃が舞い上がる。そして下敷きになったのは、数多の集まっていたポイントのあるロボットたちだけで、受験生は誰もいなかった。

この試験のヴィランポイント:98ポイント。

菫子の家の扉をガチャっと開ける。流石にまだいない。今のうちに、紫にでも近況報告をしておこうと、スマホを開く。そうすると数分前に紫から古臭くメールが送られてきていた。

「気を付けてね」

その一言だった。気を付けるには「注意」や「気づき」などの意味のほかに「元気の回復」という意味もある。きっと忙しい紫なりの最低限度の気遣いだろう。そして単純にこれは異変の影響が漏れ出た調査である事を認識させ、忘れられた者の幻想郷、それを維持する為に、発見の糸口にもされない様に立ち回れという用心を説いてくれている優しさである事を悟った。そんなメッセージをこんな時に送ってくるなら、受験の報告も要らないだろう。霊夢は受かったと確信している─ヴィランポイントの数え間違えと、筆記で解答欄がずれるほどの大きなミスをしていなければ大丈夫だと確信している─分かりきったような顔で、その結果を待ちながら、菫子の帰りを待った。

その数ヶ月後、霊夢は晴れて、雄英高校の生徒となった。

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