【小説】「好き」を何度でも 第五章②
前回のお話[第五章①]
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「おお〜来たか来たか、永島勇都!相変わらず真面目だなぁ!」
10月になり、少し涼しい土曜日。いつもの公園に行くと、渚実が待っていた。なんだその変な口調は…?僕が呆れた顔で渚実を見ると、
「もーう!もうちょっとさ、嬉しそうにしなよ!貴重な話をしてあげるって言うのに!」
と恩着せがましく言った。『貴重な話』だってさ!何がだよ?
「そのさ、夢に出てきた子の話なんだけど…」
強引に話を始めたもので、仕方なく話を聞くことにした。仕方ない、聞いてやろう。お互いに意地っ張りだから、どっちかが引かないと一生くだらない会話が続く。この前もそうだった。
『大事な話なの!』
『だからどこが?』
『とにかく話を聞いて!』
『やだね。』
奈々とかなんとか言う子に、彼氏が出来たという話の時だっただろうか。『大事な話』と言われたので、一応僕が引いて話を聞いた。だけど、僕にはどうでもよかった。って考えてみると…いつも僕が引いてないか!?渚実が引いた試しがない。なんだか小さい子供を相手にしている気分。
「ねーぇ!聞いてるっ!?」
「あ、ごめん。聞いてなかった。」
またまた失敗。思わず別のものに頭が行ってしまうもので…。
「今度こそ聞いてよね!?」
「分かった分かった。」
やっぱり、小さい子供を相手にしてる気分。
「私ね、最近昔の夢を見るの。これもそうで、昔会った子の話。顔はね、ぼやけてるんだけど…。その子、勇都くんに似てた気がするの。」
は…?僕に?まさか…ね。そんなわけ…。
「それが理由だったんじゃないかなって。私が勇都くんに初めて会った気がしない理由。私たちは前に会ったことがあるんじゃないかなって。」
「そんなこと、あるわけないだろ。」
そう言いながらも、自分が動揺しているのが分かった。一つ心当たりがある。あるけど…まさか、な?
「でもね、確かに勇都くんの雰囲気が…。」
「でも、顔は曖昧なんだろ?」
「そうだけど…。」
まさか、まさか、まさか!そんなことあるわけない!
「分かった、話だけでも聞いて。もし、その子が勇都くんじゃなくても。」
「分かったよ。聞くから。」
聞くよ、聞くけど。もし、あの子と重なったら?いや、でももしそうだったとして…。どうする必要もないよな?慌てる必要なんてない…。
「私、その頃に引っ越したの。急だったの、引っ越しが決まったのが。だから、お別れも言えずに、その子とは会えなくなちゃって。その上、一番最後にあった時…私ちょっときついこと言っちゃって。本当は後悔してるの。あんなこと言わなければよかったって。で、中学の時にまたここに戻ってきたの。だからずっとその子に会えたらいいなぁ…って思ってたんだ。」
もし、あの子が言ったあの言葉が渚実が『後悔していること』だったら…?
ー『はっきり言わないのが一番嫌いよ』ー
あの言葉がまた蘇る。名前も知らなかったあの子。もし…もし、あれが渚実だったとしたら?いや、でも漫画じゃあるまいし…。
「勇都くん、何か心当たりない?」
「ないよ、別に。そもそも僕に友達なんてつい最近までいなかったしね。」
「そっか…。なんかごめんね。」
このことは自分の中だけのことにしておきたい。第一、僕と渚実が前に会ったことがあるとして、今に何の関係がある?どうだっていい。今は今で、いいじゃないか。