ELGAMA #8 エリント
「なんのつもりだ?あんなに傷を受けていながら立ち上がるとは。」
エリントが言う。
彼の目に、自己はないだろう。
虚ろで、目の奥の光が消えている。
「なんで黙ってるんだ?なにか言えよ。」
エリントが腹を立たせて言うが、レイスはそれでもなにも言わなかった。
「ふぅん、そんなに僕に殺されたいんだ、安心して、きっと地獄に落としてあげるよ。」
エリントはよろよろとした動きで剣を構えた。
エリントが剣を少し振ると、剣にたちまち火がついた。
レイスが構える間もなく、エリントは剣を振りながら飛びかかってきた。
レイスは即座にドラゴンを操り、レイスの前にゆらゆらと漂わせる。
エリントはそのままドラゴンを斬ろうとしたが、カーンという音がなり剣は弾かれ、エリントは空中で大きくのけ反った。
「っ!思ったよりも硬いじゃないか。」
レイスはドラゴンに問いかけた。
________なにか必殺技みたいなのはないの?
《ないわけではない。アケラルフラッシュだ。だが、威力が高すぎる、あの少年ごとき、消し飛んでしまうだろう。》
[消し飛ぶ]、その言葉を聞いて、レイスはたじろいだ。
あいつは敵だ、あいつは敵だ、と何度も何度も自分に言い聞かせた。
だが、どうしてもその技を打つ気にはなれなかった。
いくら敵でも、殺すことはできなかった。
________殺さない程度に打てないの?
《少し端の方になら、当たっても重傷で済むだろう。》
________なら、そこが当たるように狙うよ。
《難しいが、できないことはない。》
レイスは意識を集中させた。
エリントは攻撃を仕掛けに来ていた。
上手くタイミングを狙わなければいけない。
少しでもズレたら、エリントの命はないだろう。
エリントがジャンプする。
レイスには、世界がスローモーションになったような気がした。
エリントが剣を振り下ろしながらゆっくりと降下してくる。
________今だ!
レイスの背後にいたドラゴンが、口から極太のアケラルフラッシュを発射した。
エリントが目を見開いた、そして、ビームに飲まれ、見えなくなった。
少し中央に寄ってしまったようだ。
ビームは真っ白で、近くにいるだけで溶けてしまいそうなくらい熱かった。
レイスは、膝から崩れ落ちた。
やってしまった、殺してしまった。
タイミングが合わなかった。
極太のビームは、今尚止まることなく、まるで1本の糸のように奥に続いていた。
ビームが消えたとき、エリントのいた辺りは、すっかり黒焦げていた。
エリントは、倒れていた。
眠ったように、穏やかに。
顔の所々は草の墨で汚れ、服も所々焦げていた。
敵だった、たしかに、彼は敵だった。
だが、殺してはいけなかった。
《仕方がない、生物はいずれ死んでしまうものだ。レイス、其方は悪くない…》
ドラゴンが静かに語りかけるが、レイスの心は落ち着かなかった。
そのとき、レイスの頭に疑問が浮かんだ。
何故、草も服も焦がすような光線に当たって、体に異変はないのだろうか。
皮膚だって所々焼け落ちる筈だ。
そのとき、エリントの服のポケットから青い光が出てきた。
その光はエリントの体の上を飛び回り、体に浸透していった。
エリントの体がピクッと動いた。
そして、むくりと起き上がった。
傷も癒えている。
レイスが唖然として見ていると、エリントは、レイスの方を振り返った。
「やぁ、レイス。」
そして、元気にこう言った。
「な、なんで、ビームに当たったのに…」
「あぁ、ビームかい?たしかに、当たった、痛かったよ。僕は一回死んじゃったもんね。クフツユの加護があってもね。」
エリントの言葉の中に意味が分からないものが少なくとも2個あった。
「死んだのに、生き返ったの?その、クフツユで?」
「あぁ、クフツユを持っていると、受けるダメージを軽くしてくれるんだ。炎に当たっても焼けなくなったり。そして、死んじゃっても生き返れる。」
そんなに強いものがあったのか、とレイスは驚く。
「でも、君のその光線…アケラルフラッシュだったかな、は強すぎた。クフツユの効果でダメージを軽減しておきながら殺されたからね。」
そこで、レイスはある疑問に気づく。
なぜ、エリントは敵同士で、しかも殺された相手にこんなにも教えてくれるのだろうか。
「君、なんでそんなに教えてくれるの?しかも、殺したのに。」
すると、エリントは怪訝そうに顔をしかめて言った。
「君、『本気で』殺そうとした訳じゃないだろ?君が角度を調節して、死なないように打ってくれたのも分かってる。」
「それで、なんかこういう弱い者いじめするってのも飽きたしさ、たまには裏切っても仕事をサボってもなにも問題はないよ。」
レイスは「問題だらけでしょ。」と突っ込みそうになったが、やめた。
「ほら、早く行こうぜ。」
「え?どこに?」
エリントはわざとらしくため息をして言った。
「真帝王のやつに1発仕返ししに行くんだろ?ギャフンと言わせてやろうぜ。」
さっきの態度とはものすごい違いだ。
「えっでも君は真帝王戦恐団なのにそんなこと言っていいの?」
エリントはニッと笑って言った。
「なんか、面白そうだしさ、君について行くことにしたよ。別にいいだろ?君1人じゃエルガマから移動することもできずに死んじゃうよ。」
「いいけど別に…」
レイスは前を走って行くエリントの背中を追いかけて走り出した。
9話↓