▶︎交差式ストーリー:移動魔獣園③
放課後、先程の生徒の派生呪文についての考察をまとめて伸びをする。
それまで遮断されていた情報が流れ込んできて、グラウンドが何やら賑やかなことに気がついた。
…今年ももう魔獣園か、そういえば窓の外が暗い日が多くなってきたな。梅雨入りか。
幸い、今日は晴れていた。
「…一昨年見つかった、有翼類ウマモドキ科の新種も来るんだっけか。よし、見に行くか‼︎」
バンッと机を軽く凹ませて立ち上がり、内ポケットに入った杖とお偉いサマから持たせられている文庫本サイズのマニュアルの存在を確かめながらドアノブを捻り引き寄せ通過する。
部屋のすぐ外のオシャレな柵に、ドアを開けたのと反対の手をかけ踏み切り膝を曲げ柵を飛び越し吹き抜けを落ちて行く。
六回目の相対的に上昇していくオシャレな柵が見え七回目がくるところで重心を後ろにずらし背後の柵を掴みぶら下がり、グルンと逆上がりして床に足をつける。さっきまでいた部屋の六階分真下に着いた。
ここまで二秒。
廊下にピッチリとかかっている長い長い絨毯の分かれ目をめくり、絨毯が剥がれた床に『沈む』。もちろん沈み際に絨毯を戻して頭上に蓋をすることも忘れずに、図書館の二つ隣の空き教室の天井から落ちて床に着地する。
亜空間内のポイントとポイントを繋げる時によく起こる『ほつれ』だ。要らないところまでくっついてしまう厄介な現象だが、その位置を把握しておけば今のように何かと役に立つ。
結局空き教室の鍵を開けなければいけなかったのと生徒がいるところでは普通に歩いてグラウンドまで行ったので、固有魔法指導室からは十五秒かかってしまった。
「…菅原先生、もしかしてまた忍者ごっこしてきたんですか?」
白い長髪の、背が高い女子生徒が聞いてきた。
…紫の瞳、校章の色はアパタイトと歯車議会。
議会長の九年生、神楽巫女だ。
「忍者ごっこのつもりは無いのだが…バレていたか。」
「う〜ん、指導室からあんな音して、十数秒後に先生が出てきたら流石に分かりますよ。」
そう眉を下げて校舎の一階西端を示す。
校舎に入れば分かるのだが、あの方向へ直接続く廊下はない。窓から入ればアイドクレース寮の箒庫に着く。
「相変わらずトンデモ構造だよな、ここ。」
「ですね〜。」
七階にあるのに七階から階段を五階分上がらないと辿り着けない教室やら、平らな廊下を通って行き来できる二階と八階やら。十二年居ても慣れやしない。
「…ところで神楽。貴様は魔獣を見なくていいのか?」
普通、この時期にグラウンドに降りてくるなら魔獣園目当てのはずだ。だが彼女は人混みに入ることなくここ…自販機前にいる。
「私は一昨年見つかった新種の翼馬目当てで来たんですけど、もう見終わっちゃって。他の魔獣は大体見たことが…というより呼び出したことがあるので、ここで仲良い子をのんびり待ってようかなって。」
「なるほど、そういう事…か…ぐら、伏せろ」
「え?」
人混みの中から、『仲良い子』の「避けてーー!!!」という叫び声が確かに聞こえた気がした。
氷。
氷で歪んだ。
空も、大地も。
矢は二人の人間を乗せて、医務室の方向へ向かって行くように見えた。
「…望月か!」
「えっ、尖晶のあの子ですか?」
「ああ…今夜は三日月だ。『Estne id magnum』だろうな。」
「よ、よく分からないですけど…どうしたんでしょうね?」
「さぁな。まぁ、学園医の先生がついてるなら安心だ。俺は新種を見てくる、さっきのがまた飛んでくるかもしれないから気を付けとけ。」
「分かりました!」
少々あっさりしすぎているようだが、神楽巫女は魔法対決クラブ所属の九年生だ。一度警戒体勢に入れば『警察』の花形、魔法犯罪緊急抑止課の二年目程度の動きができる。
敵意のない大型魔法を避けるぐらい、造作もないだろう。
「…新種は今年の目玉だろうからな、人混みの真ん中あたりか…」
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星町ねねは焦っていた。
移動魔獣園が混まないうちにこれたと思っていたのに、ランタナチョウに見とれていたらいつのまにか周りは人でいっぱい。
「…とりあえず、出ないと…!」
何度も誰かにぶつかりそうになりながら、人混みの中心から離れているのか近づいているのか分からないまま早足で歩く。
そのうち、本当に誰かにぶつかってしまった。
頭が、その人の腰に、ぶつかってしまった。
「…へ?」
その人は、身長がねねの二倍はあった。
ねねは130センチだ。
六月の陽射しと真っ白な制服もあって、目に焼きつくほど分かる長い黒のポニーテール。
ねねの位置からは下の方が見える、重たい前髪の下の目だけのお面。
そのお面の両側で光るピアス。
猫ちゃんの耳と、二本の尻尾。
「…え、あ、あの」
唇は全くその形を変えない。
頭が徐々にホワイトアウトしてきたところで、誰かが声をかけてくれた。
「あっ、そこの君大丈夫?この子は怖くないからね。」
ねねと同じ、ちょっとだけツインテールした長い髪の人だ。
ピンク色。
「え、えっと…」
「この子はね、煙晶室…図書館でピッピッってやってる人たちの、副リーダーなの。ここの生徒だよ。」
「ここのせいと…」
「そう!酒呑空狐…お空の狐って書いて、くうこって名前なの。」
「くうこ…!」
「…」
「そう、くうこ。…ちょっとあそこの檻の影に行こうか、ここは混んでるし。」
「はい!」
くうこさんも静かに一緒に来た。
人が少なくてさっきより息がかんたん。
ピンクの人が、「ちなみに、私は桜空ここちって言うんだ。ひらがなでここち。私も図書館の人なの。」と教えてくれる。
「それで、君の名前は?」
「星町ねね…えっと、ひらがなでねね!です!」
「ふふっ、そっかあ。かわいい名前だね。」
ふふーんとなって、くうこさんはさっきから喋らないことに気づく。
「えっと、くうこさん…?」
「…」
「あの、ぶつかっちゃってごめんなさい。」
「…良い。妾も不注意だった。」
「わらわ」
「…」
「妾っていうのはね〜、『僕』とか『私』みたいな意味なんだよ。」
「わらわ‼︎」
「…」
「ふふ、それで君は迷子なんだよね?」
「…うーん…そうかも。」
また、ここちさんがふふっと笑う。
さくらぞらって優しい名前が、似合う人だなぁと思った。
「一緒に来た子はいない?」
「いない」
「それじゃあ、私たちに着いてきな!モルガナイト寮まで送ってあげるよ。」
「ありがとうございます!」
「…『たち』では無い。」
「良いじゃん、空狐くんも途中まで着いてきなよ。」
「断る」
「そんなぁ。」
でもここちさんはあんまり悲しそうじゃなくて、くうこさんはいつもこんな人なのかなぁと思った。
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ルート開拓:選択してください
菅原 ペペロン
▶︎明日は遠くから人混みを眺める
(ルート: double”S”-a-?)
明日も魔獣を近くで見る
(ルート:double”S”-b-?)
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ルート分岐:選択してください
神楽 巫女
▶︎明日は魔法薬展の方を見に行く
(ルート: black)
明日は図書館でのんびりする
(ルート:ghost)
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星町 ねね
▶︎明日は図書館でランタナチョウについて調べる
(ルート: ghost-a)
明日は校舎周りをお散歩する
(ルート:ghost-b)
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ルート分岐:選択してください
酒呑 空狐
▶︎明日は魔法薬展の方を見に行く
(ルート:black)
他生徒のブースを見に行く
(ルート:flower)
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ルート開拓:選択してください
桜空 ここち
▶︎明日は自販機で飲み物を買う
(ルート: double”S”-?-1)
まずランタナチョウを見てから
(ルート: double”S”-?-2)
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【登場キャラの原作様】
・話自体はまああまり深く考えずにいただいて…ついにルート分岐が始まりました!皆様それぞれお好きな方を選んでいただけたらなと思います。
・たまにルート分岐ではなく、ルート開拓のキャラがいます。例えるなら分岐は『どの船に乗るか』、開拓は『船でどこに行くか』です。途中から別のルートに移る選択肢も出てくるかも。そして次の行事や分岐で開拓が回ってくるのはあなたかも。
・今回のルート名は開拓を握るキャラクター達からつけられていたりします。どのキャラクターなのか予想したり、気になるキャラクターの原作様と同じルートを選んだりするのもアリかも…?他にもストーリー同士のつながりが隠れていたりするので、交差ストーリー①や②もぜひご参照ください。
・ちなみにここで登場していないキャラクターは8名、これからガンガン関わってきます。お楽しみに‼︎
>>2
おっナイス、2を選んでいたらモブ生徒2名の重傷が確定するところでしたよ!👍
>>9
blackはゼーンゼンタイヘンナルートジャナイノデ!マッタク!イチミリモ‼︎
>>14
…アッ…。
《本イベント終了までに重症生徒一名が確定致しました》