コインロッカーの赤子。【第一章】
私は、35歳元人妻だ。赤子を産んでからというもの、育児ノイローゼや、上手く進まない赤子の世話、夫との関係性などなど...いろいろなことがあり、夫と離婚した。
最初は一人で赤ちゃんを育てていたが、育てきれなくなり、赤子をコインロッカーに押し込んでしまった。
うあぁああああああぁ...うあぁあああああぁあッ!
赤ちゃんの泣き声が愛おしく、それでいて鬱陶しく感じる。
カチリ。
ロッカーの閉まる音がやけに大きく聞こえた。誰かに見られているかも、そう思うと少し足がすくんだ。ガクガクと震える足を無理やり引きずり帰路についた。
数日後。
ニュースや、記事を見ないといけないのは分かるが怖くて見れない。もし、死体として発見されていたら。私は今度こそショックで死んでしまうかもしれない。押し込んだ本人なのに。
カチ、カチ、カチ、カチ...
時計の一針一針の音が、あのロッカーを閉めた時の音と重なる。もう赤ちゃんはいない。自由のはずなのに、心だけは赤ちゃんと一緒でとても苦しい。
...気になってしまった。自宅の少し古いPCを起動させる。
カタカタカタカタ...
『〇〇駅|』
...
カタカタカタ...
『〇〇駅コイン|』
...
カタカタカタカタ...
『〇〇駅コインロッカー|』
...打ち込めた。打ち込んだ。でもエンターキーが押し込めない。押せない。押したくない。
...
カカカッ...
『〇〇駅コイン|』
カカカッ...
『〇〇駅|』
カカカカカッ...
『(検索する)』
......私には調べることはできなかった。
PCの電源を切る。黒い画面に私の顔が映る。
...ひどい顔。
頬は痩けて、目の下には濃いクマがあり、唇はカサついて、髪もボサボサ。幸せな結婚生活を思い出す。夫が尽くしてくれて、夢のマイホームを買って、子供ができたら一緒に野球とかゲームしたいね、なーんて話して...
でも、生まれてみたら違った。
夜泣き、夜中の授乳やおむつ替え、抱っこでは寝たのにベッドでは寝てくれない、おむつもミルクも問題ないのに長時間泣き続けて、赤ちゃんから目を離すことができなくて、トイレにも行けないしお風呂もゆっくり入れないし、ゆっくり食事することもできなかった。
夫とも、赤ちゃんのせいで関係がギスギスしていった。目が合えば怒鳴り合い罵り合い、夫に食事を出せばこれはいらない、と突っぱねられ、夫の考えることが日に日に分からなくなっていく日々だった。
私がこうなったのは夫のせいだ。育児に協力してくれないし、我儘で強引なあの男のせいだ。
...でも、あの可愛い子供を産んで、ロッカーへ入れたのは間違いなく私だ。
信じたくない信じられない。でもそれが現実で事実だ。くだらない言い訳も、証拠隠滅もできない。子供を産んで捨てたのは私だった。
それでも。それでも私は...前を向いて歩くしか無い。自殺して迷惑をかけられない。捕まるのがものすごく怖い。自首する勇気なんてない。そんな勇気があれば今頃赤ちゃんを抱いて、他の人を頼っている。私は、社会に馴染んで、何食わぬ顔をして、生きていくしかない。

