【小説】5話「初任務と記録」
5話「初任務と記録」
あれが、エクリプス。
師匠に渡された、薄い端末のようなものを腕に巻いて、記録をするとのことだ。
エクリプスの任務内容は語られていない。
起動ボタンは、っと。
「わっ」
起動をすると、俺の腕に光が走った。
「なんだこれ、」
…いや、今は記録だ。
音声で記録するらしい。
腕の端末に向かって言葉を落とすと、勝手に短いコードに変換される。
「9時3分施設入室」
腕に向けて小さな声で言った。
画面には《[09:03]施設入室:記録済補足情報:自動圧縮完了》と表示された。
「圧縮...?」
こんなことをしているうちに、エクリプスはどんどん任務をこなしていた。
保管庫が並んでいる場所から、一度も迷うことなく立ち止まり、当然のように書類を取り出した。
「...運が悪いな。」
独り言だった。
書類を見つめながら言った、“独り言”だった。
多分、俺に聞こえないように言ったみたいだが、呼吸の音が際立つ空間では、その小さな声もはっきりと耳に届いた。
考えるのは後だ。
「、9時8分、書類入手」
エクリプスの言った言葉に困惑しながらも、記録を取り続けた。
…運が悪い?書類になにか書いてあったのか?それともイヤな感じを汲み取ったのか?
いろんな考えが脳をよぎったが、正解はわからないままだ。
そんな時、エクリプスからの視線を感じた。
エクリプスは、出口の方と俺を交互に見て、頷いた。
戻るぞ。ということだろう。
エクリプスは書類を袋にしまい、施設をあとにした。
「9時13分施設退室」
記録を取りつつ、施設を振り返った。
だが、変わった様子は何もなかった。
施設を見渡しているうちに、エクリプスの背中は小さくなっていた。
俺は視線を切り、エクリプスの後を追った。
地下に続く通路に入ると、外の空気が途切れる。
「運が悪いって、結局なんだったんだ...。」
そんなことを言いながら歩いていった。
「あ、もしかして君がウワサの新人ちゃん?」
声のする方を振り向く。
前髪は目元を隠しているのに、その人物はまっすぐ俺を見ていた。
「え、た、多分俺だと思います...?」
「やっぱり」
「メメント。」
そう名乗ると、ゆっくり近づいてきた。
「で、何悩んでるの?」
「え?」
「何?」
「いや...」
前髪で目は見えない。
それなのに、視線を外すことができなかった。
会ったばかりなのに、変な人だ。
6話へ続く
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