【小説】8話「変わってないのに」

4 2026/08/26 19:36

8話「変わってないのに」

昨晩同様、味も気にすることができず、食事を終えた。

食堂を出る先輩達は、誰もエクリプスの名を口にしなかった。

まるで、最初からそんな人はいなかったかのように。

......変だ。

気分転換でもしないと、考えすぎてしまいそうだ。

ポケットから地図を取り出した。

所々、危険マークが付いている。

そこに入るには、許可が必要とかだろうか?

もしそうなら、何も書いてないところに行くのが安全か。

『N-16』と書いてある所が気になった。

説明はない。

だから気になった。

ここから行くと20分程かかるかな。

やっぱり迷路だ。

少し前までなら、また迷うと頭を抱えていただろう。

それなのに今は、不思議と笑みがこぼれた。

N-16。

どんな部屋なんだろうな。

少し楽しみになってきた。

地図を確認しながら、足を動かした。

ラディアントだ。

「おはようございます!」

「あ、おはよう。」

......あれ。

ラディはそれ以上何も言わず、歩いていった。

朝だから眠いのか?

そんなことも考えながら、さらに進んだ。

また、遠くに人影が見えた。

クラージュだった。

だが、俺の目に映ったクラージュは壁にもたれ、ぼんやり天井を眺めていた。

「おはようございます。」

「ああ、おはよう。」

小さく笑った。

それでも、どこか元気がないようにも見えた。

そんなこんなで、やっと着いた。

期待に胸を膨らませ、ドアノブに手をかけた。

一度だけ深呼吸をする。

扉を開いた瞬間、空気が変わった。

植物。風。土の匂い。水の音。

地下にいることを、一瞬だけ忘れた。

天井には照明ではなく、太陽のような光を再現した大きなライトが取り付けられている。

本物ではないと分かっていても、思わず空を見上げてしまった。

「すごい...。」

足元には芝生が広がり、小さな川まで流れている。

鳥の鳴き声も聞こえる。

…そうか、地下で流れていた小鳥の声は、この場所を再現するためだったのかもしれない。

水辺に腰を下ろした。

ほんのり冷たい風が頬を撫でる。

こんな場所が地下にあるなんて。

ここなら、少しだけ考え事を忘れられそうだ。

「...エクリプスさんも、此処に来たことがあるのかな。」

誰も答えるはずのない独り言だけが、風に溶けていった。

9話へ続く

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