【小説】8話「変わってないのに」
8話「変わってないのに」
昨晩同様、味も気にすることができず、食事を終えた。
食堂を出る先輩達は、誰もエクリプスの名を口にしなかった。
まるで、最初からそんな人はいなかったかのように。
......変だ。
気分転換でもしないと、考えすぎてしまいそうだ。
ポケットから地図を取り出した。
所々、危険マークが付いている。
そこに入るには、許可が必要とかだろうか?
もしそうなら、何も書いてないところに行くのが安全か。
『N-16』と書いてある所が気になった。
説明はない。
だから気になった。
ここから行くと20分程かかるかな。
やっぱり迷路だ。
少し前までなら、また迷うと頭を抱えていただろう。
それなのに今は、不思議と笑みがこぼれた。
N-16。
どんな部屋なんだろうな。
少し楽しみになってきた。
地図を確認しながら、足を動かした。
ラディアントだ。
「おはようございます!」
「あ、おはよう。」
......あれ。
ラディはそれ以上何も言わず、歩いていった。
朝だから眠いのか?
そんなことも考えながら、さらに進んだ。
また、遠くに人影が見えた。
クラージュだった。
だが、俺の目に映ったクラージュは壁にもたれ、ぼんやり天井を眺めていた。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
小さく笑った。
それでも、どこか元気がないようにも見えた。
そんなこんなで、やっと着いた。
期待に胸を膨らませ、ドアノブに手をかけた。
一度だけ深呼吸をする。
扉を開いた瞬間、空気が変わった。
植物。風。土の匂い。水の音。
地下にいることを、一瞬だけ忘れた。
天井には照明ではなく、太陽のような光を再現した大きなライトが取り付けられている。
本物ではないと分かっていても、思わず空を見上げてしまった。
「すごい...。」
足元には芝生が広がり、小さな川まで流れている。
鳥の鳴き声も聞こえる。
…そうか、地下で流れていた小鳥の声は、この場所を再現するためだったのかもしれない。
水辺に腰を下ろした。
ほんのり冷たい風が頬を撫でる。
こんな場所が地下にあるなんて。
ここなら、少しだけ考え事を忘れられそうだ。
「...エクリプスさんも、此処に来たことがあるのかな。」
誰も答えるはずのない独り言だけが、風に溶けていった。
9話へ続く
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