この恋が叶うとは思わなかった #11
雫はあまり知弘と話す機会もなくなってきていた。
テスト前だということもあるのだろうが、それではさすがにおかしかった。
所々の表情が少し暗いようにも感じる。
完全に避けられる前にあちらから好かれなければ。
今日から徹底的に攻めるか。
…だが、そんなことを帰り際に考えてもどうしようも無い。
さっきまで朝だったのだが気付いたら一瞬で時間が過ぎ去っていた。
「マジかよ、雨か。」
「おれ傘持ってきてないんだけど!」
「マジかお前。」
こんな会話が聞こえるのも、雨の特徴だ。
だがしかーし、知弘はちゃーんと傘を持ってきてるのであります。
「こういう風な雨の雫って綺麗だよな。」
知弘がそう言った瞬間、前を歩いていた人がビクッと震えた。
そして、恐る恐るといった感じに振り向いたのは雫だった。
「知弘、くん?」
「あ、雫。」
「い、今なんて言いました?」
なぜ急に敬語なのかが気になるが、今は質問に応えよう。
「え?雫が綺麗だなーって。」
それを自分で言って知弘は気づいた。
『雫が綺麗だな』
「あ、違う違う!そんな意味じゃなくて、雨の雫の話だから。」
「そ、そう、だよね、びっくりした。」
雫はホッとした様子で言う。
でも心の中では思ってなくはないので、あながち間違ってはいない。
その時だった。
車が水を飛ばして大きな音を立て走ってきた。
あっという間に知弘の前に到達し、通り過ぎた。
道路側を歩いていた知弘に車ではねた水がかかる。
これでいい、これが狙いだった。
これを予想して初めから知弘はずっと道路側を歩いていたのだ。
雫に掛からなくてよかった。
「だ、大丈夫?雨の日は気を付けないとね。」
「うん、そうだな、でも雫にかからなくてよかったよ。」
「そうだね。」
え、マジで?それだけ?なんか言ってよ!
ほぼスルーですやんか。
だいぶ攻めたんすけど。
ちょっと心折れたかもしんない。
さりげなく車道側に寄る作戦は失敗だ。
「そっち歩いてたら濡れるよ。」
雫が言う。
「いや、ここでいいよ。」
だが、やはり雫は知弘を避けているようで、その日はそれから話すことはなかった。
次の日、学校では席替えがあった。
なんと、運良く雫の隣の席になった。
クラス中からの目線が痛い。
この学校では、毎朝読書を実施しているのだが、
「!」
隣を見ると、そこには、真剣な表情をした雫がいる。
そんなものを見てしまったら、ドキッとしてしまうのも仕方ない。
しばらく見惚れるのもどうかとは思うので、気持ちを切り替え読書に戻った。
のだが、やはり落ち着かない。
その日はずっと落ち着かなかった。
隣を向けば、雫がいるから。
自分だけの興奮。
隣になったことで、日に日に感情が強くなる気がする。
ドクドク鳴る心臓の音はだんだんと音が増す。
それと逆に、雫はどんどん離れて行く気がした。
昼休み、いつも通りに皆集まって昼食を食べる。