【小説】アガパンサス #1
ジリリリリ…ジリリリリ………
どこか遠くの方から音が聞こえた気がした。
ジリリリリリ…ジリリリリリ……
よく耳を傾けてみると、その音はだんだんと大きくなっていることに気づいた。
すると次の瞬間、
ジリリリリリリ!ジリリリリリリ!
その音は突然耳をつんざくような騒音に変わり、耳を刺激した。
あまりの騒音に僕は思わず飛び起きた。
外からは小鳥の優しいさえずりが聞こえてきていた。
どうやら、遠くから聞こえていた音は目覚まし時計だったようだ。今もなお鳴り続ける目覚まし時計をオフにし、僕はゆっくりと立ち上がった。
まだ起きていない体を引きずるようにリビングへ行くと、そこには母の姿があった。
「あら、おはよう」
「ん」
母の言葉をそう軽く受け流し、僕は朝食の準備に取り掛かり始めた。
適当に食パンを袋から引っ張り出すと、バターを乗せてオーブンへ入れ、時間を2分に設定。
「そういえば、最近日本に隕石落ちるらしいわよ」
「えっ?」
思わず、手に持っていた皿を落としそうになった。「なんだって?」
「だからね、最近日本に隕石が落ちるんだって」
「そんなノリで言うことか?」
日本に隕石が落ちるだなんて考えたこともなかった。隕石の大きさにもよるが、日本が滅びてしまったらどうなるのだろう。もし生き残れたとして、どこへ移住する?
そんな心配が頭の中に次々と浮かび上がった。
「続いてのニュースです」
テレビからその声が聞こえると、無意識にテレビへ目が行った。
「アメリカのASAからの発表によると、新たに見つかった地球に衝突する可能性のある隕石は、日本時間で明日の早朝に日本へ落ち、日本列島がなくなるとのことです」
呆然としてしまって、言葉が出なかった。
明日にはもう日本はないのだから…
_____ならば、今のうちにやり残したことをやっておくべきではないか?
オーブンの加熱完了を知らせるチャイムが、沈黙を破って家中に響き渡った。
*
一言に「やり残したこと」と言っても、まだまだ若い僕にとって、まだやったこともないことは山のようにある。
その中で何をすべきか、この課題に僕は大いに頭を抱えさせられた。
しかし10分ほどの時間を費やし、ついに僕は、何をするかを決め終わった。
学校中ではしきりに隕石の話が飛び回っていた。
「あの隕石のニュース見たか?」
「みんなしんじゃうのか…」
「知ってるか? 隕石って英語でボルケーノって言うんだぜ! えっ、違う…の?」
どこへ行っても隕石ばっかりだ。
耳にタコができるほど隕石の話題を聞きながら、やっとのことで自分のクラスまでたどり着いた。
案の定、クラス中でも隕石の話題が飛び交っていた。
「どこ行ってもUFOの話ばっかだね」
そう言って隣の席の女子は苦笑いした。彼女の名前は一夏(いちか)。
クラスの女子の中でもトップクラスに背が高く、女子バスケットボールに入っていると言っていたような気がする。僕はそんな彼女に1人片想いをしている。
「えっUFO?」
怪訝な顔をして相手の顔を見ると、一夏は慌てて修正した。
「あっああ違う、間違えた隕石だね」
一夏は羞恥心で頬を軽く染めながら笑った。
「明日には日本にぶつかるらしいねー」
「そんな軽い話じゃないんだけどな」
のほほんとつぶやく一夏に軽い突っ込みをいれた。
「あっそうだ。あの宿題やった?」
「どれ」
僕がそう言うと、一夏は「あー、えー、っと、なんだっけ」とつぶやきながら少し考え込んだかと思うと、突然声を張り上げて答えた。
「そう! 数学!」
「あー、あのなんかいっぱい問題あるやつね。やったよ」
「そうそう! ちょっと見せて! 最後のやつ分かんないから」
ファイルから宿題を引っ張り出し、一夏に手渡すと、一夏は卒業証書を掴むかのように大事に受け取った。
「ありがとおー! 助かる助かる」
「自分でやった方がいいと思うけどなー…」
「むっ! 自分でやってもわからないから見してもらってるんですー!」
一夏は不機嫌そうに目を細めて言った。
(かわいい…)
思わずそう思ってしまった。
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【https://tohyotalk.com/question/421619】
不定期更新です。
タイトルは追々決めます。
>>8
そう言ってくださりありがとうございます!光栄です。
ぜひ続きもご覧になってください。水曜日に更新しますので。