【小説】惑星再成《後編》
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彼はにこやかに言った。
「自然破壊の原因となる生物を絶滅させること…、かな。」
「……えっ、………」
彼が何を言ったのかオレは一瞬理解ができなかった。様々な言葉が右から左へ抜けていくなか、「絶滅」という単語だけがオレの頭のなかに残っていた。
「…ぜつ、…」
「そう、絶滅!ぼくらの言葉で言えば『惑星再成』。再び星に自然が成るように、ぼくらは活動をしているんだよ!」
彼は誇らしげにそう言った。罪悪感のひとつも抱いていないようだった。
「絶滅って、…絶滅だぞ!?おまえ、わからないのか?生き物を殺してるんだぞ、殺人だ!殺しは悪いことだ!おまえ、おまえ…」
少し声が大きすぎた、彼を驚かせてしまったかもしれない。
しかし彼は驚きもせずキョトンとしていた。首をかしげ大きな丸い目でこちらを見つめていた。
「…すみません。よく…わからない。…絶滅が悪いと言いたいの?」
「…はっ?」
「絶滅をさせないと、意味が無いよね。植物だって、根っこをまた生えてくる。そのように、物事の根源を断つことが大事なんだ。言い換えるのならば雑草除去、害虫駆除…。そう、『再成』の邪魔になる根源の生物は害でしかない。あ、貴方が害というわけではなく…」
つらつらと理由を述べる彼に、オレは何も言い返すことができなかった。彼とは仲良くなれると思ったのだが、異星人同士ではやはり難しいのだろうか。
「てかさあ、おまえ、…これから絶滅させる星の人間と仲良くしてたの?」
「絶滅させる星と貴方は別物だよね。ぼくは自分の星が保全対象になったら喜んで『惑星再成』をするよ。自分の故郷を自分の手で再成できるなんて嬉しいに決まっているよ!…まあ、自分の星の植物が無くなっていることには落胆するけれどね。」
全く話が通じない。狂っている!
彼らは「絶滅」がどのようなものなのかを理解していない。オレは船内公園を飛び出し、他の乗組員にも「絶滅の悪影響」を伝えようと決心した。
絶滅させた後、建物など人工物はどうしているのか。
「そりゃあ、全部綺麗に回収してますよ。再利用したり、発展途上の星へ寄付したり…。本当に使えないものは小型ブラックホールにポイ。」
絶滅が他の生物にどのような影響があるかわかっているのか。
「わかっていますよ〜。その生物を絶滅させたときの環境の配慮や他の生物へのサポートも私たちの仕事の一環〜!」
絶滅させたとしても植物が育たなかったらどうする。植物はどこの星から持ち込んでいるのか。
「育たなかったなんて今までありませんが。育つようにしてるんですよ。植物はその星のものを植えてますけど。植物の生えている惑星全ての植物を保有してるんで。」
オレは焦った。全くもって、誰ひとりとして、絶滅の影響を理解してくれなかった。こうしている間にも地球着陸の時間が迫ってきているというのに。地球が、地球人が絶滅してしまうというのに。
…理事長に話そう。
そうだ、理事長に直談判だ。それがいちばん手っ取り早いというのに、何故今まで思いつかなかったのか。オレは理事長室へ突撃をした。
「…そうです、貴方は正しい。絶滅とは生態系を崩し環境を破壊する、悪いものなのです。」
やった、理解してくれた。理事長という立場なだけあって、物分かりが良い。
「しかし」
否定的な接続詞。ここまでは予想している。何を言われても言い返し、うまく丸め込んで絶滅を阻止してやる。オレは次に続く言葉を待ち構えた。
「絶滅の悪影響を上回るほどのメリットがあるとしたら?」
こちらに問いかけてきた。オレが答える間もなく理事長は言った。
「森林伐採、大気汚染、水質汚濁…。ある特定の生物が絶滅するだけで、これら全てがストップし、他の何億もの生物が救われる。素晴らしいことではありませんか。」
「そ、それじゃあ!…それだったら、いつまで経っても文明が発展しない!」
「いいえ」
ノータイム否定。
「高度な文明というものは、自然と共存する術を身につけています。」
オレは何も言い返せなかった。
「地球の場合、それを見出す前に発展しすぎてしまった。それ故に自然が破壊された。我々はそのような星々をいくつも『再成』してきました。地球はこれから生まれ変わるのです。貴方の故郷は、これから植物の星となるのです。貴方がこの団体に加盟すれば、我々は貴方を殺さないで済む。どうです、貴方も一緒に地球を『再成』しませんか?」
「………」
オレは理事長に挨拶をし、部屋を後にした。
なんとも言えぬ負の感情がぐるぐると渦巻いていた。彼らとは考え方が本質的に違っていた。いや、本質は変わらないのかもしれないが、解釈がまるっきり違うのかもしれない。180°違う。いや、一瞬回って同じなのかもしれない。オレだって自然は好きだ。地球の植物が失われていることはとても残念だし、いっそ人間が滅びれば植物は再び地面に根を張り巡らせることができるとも思った。オレは何故そんなにも絶滅が悪いと思い込んでいる?家族を失うからか?自分が死ぬわけでもないし、故郷が消えてしまうわけでもないだろう。故郷は緑豊かな美しい場所になる。そう考えると、絶滅は悪いことではないのかもしれない。いや、絶滅にも「良い絶滅」というものがあるのだろう。しかし、絶滅が悪くはなくとも決して良いことだとは思えない。しかし周りは「絶滅=良いもの」と捉えている。郷に入れば郷に従えとはよく言うものだ。いっそ仲間になってしまえば楽なのではないか。しかし、しかし……。
──ピンポンパンポン。
『地球到着まで1時間を切りました。乗組員の皆さんは準備を進めてくださーい。』
船内放送が鳴り響く。乗組員たちはせかせかと宇宙服や道具などの準備をしている。
「へーえ、これが地球!」
船の大きな窓から見える地球を見て、グリスが言った。
「小さいけれど美しい青だなあ。こんな綺麗な星なのに、植物が少ないなんて勿体無い。」
「まあ、これから『再成』するからな。」
「そうだね。…にしても、絶滅に猛反対していた貴方が加入するなんて。嬉しいな!」
思慮に思慮を重ねた末、オレはこの団体に加入することを決意した。理事長に話すとすぐに手続きを済ませてくれた。加入してからは吹っ切れ、絶滅が良いか悪いかなど考えようとも思わなかった。ただ地球を『再成』し、自然豊かな星にすることだけを考えていた。
オレはすっかり「宇宙自然環境保全団体」に染まった。
『地球に到着致しましたー。全員の準備が整った班から順番に動きましょう。装備確認をお忘れなく。怪我のないよう、健闘を祈ります!』
船内放送は非常に明るい声だった。
「じゃ、行こうか!」
「おう!」
地球の空は、澄んでいた。
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こんにちは、どこもです。
ミイラ取りがミイラになるというか、郷に入っては郷に従えというか。主人公くんが地球を救う!という物語ではなく主人公くんも仲間になってしまった!という物語。
多分これがハッピーエンドなんでしょう。
ヤマダという名はパッと思いついた名前、グリスは彼のモデルであるグレイ型宇宙人の「glay」のフランス語が「gris」だからです。
トピ画はフリーAIイラストです。
読んでいただきありがとうございました!