【小説】惑星再成《前編》
「SOS!SOS!!」
黒喑々とした空間に、無数にある煌々と輝く星々。宇宙という果てのない大海原で、オレはひとり彷徨っていた。
「天の川銀河オリオン腕太陽系第三惑星、地球所属の122号船乗組員ヤマダ!遭難しました、SOS!!!」
この宇宙のようにお先真っ暗。このまま宇宙のゴミと化してしまうのかと思うととてつもない恐怖に襲われ、救助要請ボタンをこれでもかというほど連打をした。
『要請受諾。20日後救助船到着予定。』
AIが無機質な声で喋った。
「20日後?!遅い!!水も食料も底を尽きたんだぞ…、コールドスリープ機だってブッ壊れた。どうしろってんだよ!この!!」
ガシャン!
オレは苛立ちのあまり操縦機を拳で殴った拍子に一部を破壊してしまった。自体がさらに悪化。これに関してはオレが100%悪いが、パニック状態に陥っていたオレに冷静な判断はもはや不可能であった。
しかし人生というものは不思議で、真っ暗な宇宙の中で輝く恒星のように、絶望の中にも小さな希望やチャンスは見つかるものだ。もっとも、それを掴めるかはやはり自分次第である。
オレはその希望をガッシリと掴んだ。
大型の宇宙船がオレの目の前に現れたのだ。
操縦機を破壊した際に放たれた電波かなにかをキャッチしたのだろうか、その船はオレを船ごと救助してくれた。
幸い、その宇宙船の乗組員達は非常に友好的であった。船から降りたオレを快く迎えてくれた。
理事長と思われる人がオレに近寄って挨拶をしてきた。抹茶色のダウンベストを着ているその理事長は全身モコモコの白い毛で覆われていて、目や口は毛で隠れていて見えない。頭頂部には緑の双葉が生えており、白いエビフライのような見た目をしていて笑ってしまいそうになった。
「我々は『宇宙自然環境保全団体』です。早急に治療を致しましょう。」
宇宙自然環境保全団体…、聞いたことがある。確か、宇宙の星々の自然環境を守る法人団体だ。
「貴方の船はこちらで修理をします。その間はこの船で。」
オレは感激した。宇宙にはこんなにも心優しい人々がいるものなのかと。地球では、困っていても誰も助けてはくれなかった。
「ありがとうございます…ヤマダと申します。本当に感謝してもしきれない!なんとお礼を言ったらよいか…」
「いえいえ、宇宙ゴミを増やされては困りますからね。」
……。
いや、自然環境を保全する団体なのだ、ゴミを気にするのは当たり前ではないか。しかし初対面の相手に対してゴミと言い放つのは如何なものかとも思う。もしかするとただの価値観の違いなのかもしれない。宇宙では、初対面に「ゴミ」はさほど失礼ではないのかも…。
「療養には自然がいちばんです。こちらへ。」
少しモヤモヤしながらもオレは言われるがまま理事長について行った。
そこは、あたり一面緑の植物。空気も澄んでいて小川も美しく流れている。遠くには広い草原も見える。ここが船の中なのだろうか。
「船内公園です、ごゆっくり。」
そう言って理事長は場をあとにした。
こんなに豊かな緑は写真でしか見たことがなかった。一度は広い草原で無邪気に走り回ってみたいと思っていたのだ。
「わーーーーーーっ!!!!」
童心に戻り大きな声で騒ぎながら草原を走り回っていたとき。
人がいる。
オレは恥ずかしくなって騒ぐのをやめた。聞かれていたのだろうか。オレはその人にゆっくりと気づかれぬよう近づいた。その人は草原に大の字で寝転がり、もしかしたら眠っているかもしれないからだ。
「…あ、こんにちは。見かけない顔ですね、初めまして…でしょうか。」
大きな目玉をこちらに向けた。眠っていなかった。
「あ、初めまして…。ヤマダです。」
「僕はグリスです。よろしく!」
オレは事の顛末を彼に話した。
「そっ、遭難?!」
「そうなんですよ。」
「……」
「………」
冷たい風が吹いた。
「…風?」
ここは船内のはず、風などどうやって吹かせているのだろうか。
「…雨も、降らせますよ。」
彼が言った。彼はこの船内公園の管理者らしく、天候だけでなく季節や時間帯まで変えられるとのこと。
彼は、有名な宇宙人『グレイ』のような見た目をしていた。名前の通りグレーの肌に大きな目をしていたが、頬はあれほど痩せこけてはおらず、ウワサのような人間を襲う雰囲気でもなかった。むしろ人間よりも深く優しい心の持ち主であった。
彼とオレはすぐに打ち解け、仲良くなった。
「自然は好き?」
「とっても!…もっとも、地球では滅多に見られないけど。」
オレは自然が大好きだ。小さい頃に本で自然豊かな風景の写真を見てからだ。地球の植物はほとんど絶滅していた。植物は専門の店に行けば観賞用に買えるが、そこそこの値段はするらしかった。
「ちきゅう?……地球!…って、太陽系の第三惑星だよね?」
「そう」
「それなら…!この船、地球に向かっているんだ!」
なんて幸運だ!
明日にでもこの船は地球へ到着すると、彼は笑顔で伝えてくれた。見ず知らずの人と喜びを共有することは初めてだったが、オレは非常に嬉しかった。地球へ帰れることも、彼と友達になれたことも。
「保全対象になったんだよ。」
「あはは、そりゃあそうだろうな。植物無いし。」
オレたちは子供のようにわいわいとはしゃいだ。はしゃぎ倒して疲れて、草原に倒れ込んだ。
「…そういえば、どういう活動をしてるの?植物を植えたり?」
ふと気になった。なんとなく想像はつくが、具体的な活動内容を一応聞いておこうと思った。
「簡単に言えばまずは…」
彼はにこやかに言った。
「自然破壊の原因となる生物を絶滅させること…、かな。」
「……えっ、………」
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こんにちは、どこもです。
SFですね。書いてみたかったのですよね、ゴリゴリの宇宙SF。ありきたりでもつまらなくても良いから、とりあえず「書く」ことが大切だと聞いたので書きました。
後編もまた読んで頂けたらと思います。
トピ画はフリーAIイラストです。
読んでいただきありがとうございます!