小さくなったリュック 【短編小説】

3 2024/12/10 19:08

【小さくなったリュック】

「このリュック、大きすぎるんだよな」

「…小さくならんかな」

と思ったのが昨日のこと。

「…?」

私は思わず二度見、いや、三度見した。

「ほんとに小さくなっちゃってるよ…」

リュックが小さくなっていた。

しかもその具合がどうも極端なのだ。

「これ…小動物が背負うサイズなのでは?」

どう見ても、もとの大きさの3分の1以下になっている。

「どうやって教科書詰めよう…」

結局、適当な肩掛けのかばんに入れて持っていくことにした。

腕がちぎれると思うくらい重たかったが。

【学校にて】

「…な、何があったの?」

学校の教室に入って早々、声をかけられた。

数少ない…というか多分一人しかいない親友だ。

「ああ、なんか朝起きたらリュック小さくなってた」

「いや小さくなるどころじゃないでしょ…」

案の定、驚きと好奇心と困惑が混じった反応をする。

「うん、だからこのかばんに入れてきた」

「すっごい重たそう」

「腕がちぎれると思った」

「よくあんたの腕で持って来れたね」

「舐めてんのかごらあ」

「舐めてる」

「おい」

軽い冗談を言い合いながら、私は自分の席につく。

そしていつも通り、リュックを机の横にかけようと…あ、小さすぎてかけれない。

「…このリュック弁当と水筒を持ってくる以外、何の需要があるんだ?」

「…ふっ」

「今笑ったろ」

「えっ、なんのこと?」

「とぼけるんじゃないぞ」

「ごめんなさい笑いました」

「よし」

さて、このかけれないリュックはどうしよう。

先生が来たら相談でもするか。

「そういえばなんでこんな小さくなっちゃったの?」

「あー…」

「ねえねえなんでなんで?」

「昨日小さくならんかなって思ったらなってた」

「なるほどね」

あ、先生きた。

「先生」

「はい」

「リュック小さくなりました」

「どのくらいですか?」

「このくらいです」

「あー、じゃあ後ろの棚に置いておきましょうか」

「はーい」

そう言うわけで、今は小さすぎるリュックは棚の中だ。

毎回荷物を取りに行かなければならないので、結構面倒くさい。

「まあ、運動だと思ってさ」

「あい…」

ちなみに登校する時も学校にいる時も注目される。

多分下校する時も注目される。

まあ、当たり前か。

そんなしょうもない考えを巡らせながら、またもや必要なものを取りに行く。

「本当に取り行くの面倒くさい…」

つい、本音が漏れる。

「運動不足のあなたには丁度良いですよ」

「誰目線だよ」

「運動不足と程遠い人目線」

「そのまんまやん」

運動不足は否定できない…。

「あ、もうそろそろ授業始まるよ」

「おー」

さてと、また1時間ほど頑張りますか。

【しばしの休憩】

「もう弁当袋のサイズやん…」

「だね」

「本当に弁当袋にしようかな」

「良いと思う」

良いと思うって…。

「どうする?ここら辺で食べる?」

「あーうん、いいよ」

適当にぶらぶらしながら、食堂で席を取る。

大分端っこだなあ…。

「今日は食堂の人多いね」

「だね、いつもは少ないのに」

普段、大半は教室でグループになって食べている人が多い。

だけど、今日は食堂がいっぱいだ。

「一体何が基準なんだろうね…」

「気分?」

「なるほど」

納得いかないような答えに納得してから、弁当を取り出す。

「…結構ぎっちぎちなんだが?」

「どんまーい」

リュックが小さくなればなんて思わなければ良かったよ。

…でも”ちょっと”小さくなれば、だったよね。

なんでここまで小さくなっちゃったんだ??

「謎ばかりのリュックですねえ」

「だねえ」

軽い雑談をしながら弁当を食べ始める。

なかなか美味ですな。やっぱ私天才。

「おいしー」

「自画自賛」

「です」

「うわーやだーいやーうわー」

「棒読みすんな」

「はーい」

まさにロボットのような棒読みだったな。

もしかして前世ロボットだったのか?

「私は、ロボットです」

「…え私の心読んだ?」

「読んだかもー」

そう言いながら軽く笑う。

「こっっっわ…」

びっくりした…。

「おーい速くー」

「そっちが速すぎるんだよー」

「そっちが遅すぎるのー」

「違うもん」

「ほんとかなあ?」

「ほんとほんと」

「へー」

信じてないな。

「はい、ごちそうさま」

「おーやっとか」

「やっと言うな」

「ははっ」

なんだ、ここには二足歩行のネズミでもいるのか?

「入れるのも一苦労…」

「がんばれ」

「ぐぬ」

「おっ」

「入ったー…」

「おつかれ」

このポンコツリュックめ。

「おーし、午後の授業も頑張りますか」

「ますかー」

【案の定の下校】

そしてその午後の授業も終わり、清掃も終わり、ただいま下校中。

「案の定」

「注目されてますなー」

「リュックの形の弁当袋は流石に無理があるか」

「うん」

注目されるのあんまり慣れてないし、速く元に戻らんかな。

「何あのリュック!」

「えー!可愛い!!」

「ほんとだ!どこで売ってるのかな」

ふと、周りのちょっとしたグループの女子たちの会話が耳に入った。

「こういう商品だと思われちゃってるよ…」

「確かにあったら可愛いな」

「確かにーって何の需要があるんだよ」

「ちっちっち、君は女子力というものをわかってないなあ」

「はいはい、どうせ私は女子力とは無縁の女子ですよー」

「違う違う、女子力がないわけじゃなくて」

「え?」

「君の女子力はみんなの言う女子力の斜め上をいくんです」

「え??」

どういうこと??

「たとえばほら、そのポケットティッシュ」

「うん」

このポケットティッシュがどうかしたのか。

「なんでポケットの形になってんの?」

「え?だってポケットティッシュだし、可愛いし」

「そこ」

「???」

「ポケットティッシュって、ポケットに入るサイズのティッシュってことだよ」

「え」

し、知らなかった…。

「ポケットの形は可愛いから、あの子、女子力高い」

「というよりは女子って感じって思われてるだろうけど」

「……」

「あんたの場合、ただ天然なだけだな」

「いーや私は天然なんかじゃない」

「れっきとした普通の女子です」

「はい天然」

「なんでだ…」

未だに天然の基準がよくわからない。

ま、いっか。

「…ていうか、本当にすごい注目されてる」

「リュックのおかげだね」

「いらないそのおかげ」

「感謝しときなよ」

「あーもう、もとの大きさに戻ってくれ」

「小さくなってって言ったの誰だよ」

私だね、うん。

間違いなく私が小さくなってくれんかなって言ったね。

「あーあ、言わなきゃ良かったあ」

「どんまーい」

「はいはい、じゃあね」

「はーい、また明日」

そうこうしているうちに、家に帰り着く。

「ただいまー」

さて、さっさと寝られるよう頑張りますか。

「このリュック、小さすぎるんだよな」

「…もとの大きさに戻らんかな」

【もとの大きさに戻りたかったリュック】

「よし、じゃあ今日もあの小さすぎるリュックで頑張りま…」

「お、大きくなってらっしゃる…」

まさかのもとの大きさの1.5倍ですか…。

「このリュック、極端すぎるやろ」

ま、たまにはこういう日があってもいいか。

「よし、気を取り直して」

「この大きすぎるリュックで頑張りますか」

じゃあ、これを読んでる君へ、行ってきます。

ふと、リュックがしゃべる。

「誰もリュックが物理的に変化することに突っ込まないんかい!!」

         おしまい!!!

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その他2024/12/10 19:08:23 [通報] [非表示] フォローする
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