小さくなったリュック 【短編小説】
【小さくなったリュック】
「このリュック、大きすぎるんだよな」
「…小さくならんかな」
と思ったのが昨日のこと。
「…?」
私は思わず二度見、いや、三度見した。
「ほんとに小さくなっちゃってるよ…」
リュックが小さくなっていた。
しかもその具合がどうも極端なのだ。
「これ…小動物が背負うサイズなのでは?」
どう見ても、もとの大きさの3分の1以下になっている。
「どうやって教科書詰めよう…」
結局、適当な肩掛けのかばんに入れて持っていくことにした。
腕がちぎれると思うくらい重たかったが。
【学校にて】
「…な、何があったの?」
学校の教室に入って早々、声をかけられた。
数少ない…というか多分一人しかいない親友だ。
「ああ、なんか朝起きたらリュック小さくなってた」
「いや小さくなるどころじゃないでしょ…」
案の定、驚きと好奇心と困惑が混じった反応をする。
「うん、だからこのかばんに入れてきた」
「すっごい重たそう」
「腕がちぎれると思った」
「よくあんたの腕で持って来れたね」
「舐めてんのかごらあ」
「舐めてる」
「おい」
軽い冗談を言い合いながら、私は自分の席につく。
そしていつも通り、リュックを机の横にかけようと…あ、小さすぎてかけれない。
「…このリュック弁当と水筒を持ってくる以外、何の需要があるんだ?」
「…ふっ」
「今笑ったろ」
「えっ、なんのこと?」
「とぼけるんじゃないぞ」
「ごめんなさい笑いました」
「よし」
さて、このかけれないリュックはどうしよう。
先生が来たら相談でもするか。
「そういえばなんでこんな小さくなっちゃったの?」
「あー…」
「ねえねえなんでなんで?」
「昨日小さくならんかなって思ったらなってた」
「なるほどね」
あ、先生きた。
「先生」
「はい」
「リュック小さくなりました」
「どのくらいですか?」
「このくらいです」
「あー、じゃあ後ろの棚に置いておきましょうか」
「はーい」
そう言うわけで、今は小さすぎるリュックは棚の中だ。
毎回荷物を取りに行かなければならないので、結構面倒くさい。
「まあ、運動だと思ってさ」
「あい…」
ちなみに登校する時も学校にいる時も注目される。
多分下校する時も注目される。
まあ、当たり前か。
そんなしょうもない考えを巡らせながら、またもや必要なものを取りに行く。
「本当に取り行くの面倒くさい…」
つい、本音が漏れる。
「運動不足のあなたには丁度良いですよ」
「誰目線だよ」
「運動不足と程遠い人目線」
「そのまんまやん」
運動不足は否定できない…。
「あ、もうそろそろ授業始まるよ」
「おー」
さてと、また1時間ほど頑張りますか。
【しばしの休憩】
「もう弁当袋のサイズやん…」
「だね」
「本当に弁当袋にしようかな」
「良いと思う」
良いと思うって…。
「どうする?ここら辺で食べる?」
「あーうん、いいよ」
適当にぶらぶらしながら、食堂で席を取る。
大分端っこだなあ…。
「今日は食堂の人多いね」
「だね、いつもは少ないのに」
普段、大半は教室でグループになって食べている人が多い。
だけど、今日は食堂がいっぱいだ。
「一体何が基準なんだろうね…」
「気分?」
「なるほど」
納得いかないような答えに納得してから、弁当を取り出す。
「…結構ぎっちぎちなんだが?」
「どんまーい」
リュックが小さくなればなんて思わなければ良かったよ。
…でも”ちょっと”小さくなれば、だったよね。
なんでここまで小さくなっちゃったんだ??
「謎ばかりのリュックですねえ」
「だねえ」
軽い雑談をしながら弁当を食べ始める。
なかなか美味ですな。やっぱ私天才。
「おいしー」
「自画自賛」
「です」
「うわーやだーいやーうわー」
「棒読みすんな」
「はーい」
まさにロボットのような棒読みだったな。
もしかして前世ロボットだったのか?
「私は、ロボットです」
「…え私の心読んだ?」
「読んだかもー」
そう言いながら軽く笑う。
「こっっっわ…」
びっくりした…。
「おーい速くー」
「そっちが速すぎるんだよー」
「そっちが遅すぎるのー」
「違うもん」
「ほんとかなあ?」
「ほんとほんと」
「へー」
信じてないな。
「はい、ごちそうさま」
「おーやっとか」
「やっと言うな」
「ははっ」
なんだ、ここには二足歩行のネズミでもいるのか?
「入れるのも一苦労…」
「がんばれ」
「ぐぬ」
「おっ」
「入ったー…」
「おつかれ」
このポンコツリュックめ。
「おーし、午後の授業も頑張りますか」
「ますかー」
【案の定の下校】
そしてその午後の授業も終わり、清掃も終わり、ただいま下校中。
「案の定」
「注目されてますなー」
「リュックの形の弁当袋は流石に無理があるか」
「うん」
注目されるのあんまり慣れてないし、速く元に戻らんかな。
「何あのリュック!」
「えー!可愛い!!」
「ほんとだ!どこで売ってるのかな」
ふと、周りのちょっとしたグループの女子たちの会話が耳に入った。
「こういう商品だと思われちゃってるよ…」
「確かにあったら可愛いな」
「確かにーって何の需要があるんだよ」
「ちっちっち、君は女子力というものをわかってないなあ」
「はいはい、どうせ私は女子力とは無縁の女子ですよー」
「違う違う、女子力がないわけじゃなくて」
「え?」
「君の女子力はみんなの言う女子力の斜め上をいくんです」
「え??」
どういうこと??
「たとえばほら、そのポケットティッシュ」
「うん」
このポケットティッシュがどうかしたのか。
「なんでポケットの形になってんの?」
「え?だってポケットティッシュだし、可愛いし」
「そこ」
「???」
「ポケットティッシュって、ポケットに入るサイズのティッシュってことだよ」
「え」
し、知らなかった…。
「ポケットの形は可愛いから、あの子、女子力高い」
「というよりは女子って感じって思われてるだろうけど」
「……」
「あんたの場合、ただ天然なだけだな」
「いーや私は天然なんかじゃない」
「れっきとした普通の女子です」
「はい天然」
「なんでだ…」
未だに天然の基準がよくわからない。
ま、いっか。
「…ていうか、本当にすごい注目されてる」
「リュックのおかげだね」
「いらないそのおかげ」
「感謝しときなよ」
「あーもう、もとの大きさに戻ってくれ」
「小さくなってって言ったの誰だよ」
私だね、うん。
間違いなく私が小さくなってくれんかなって言ったね。
「あーあ、言わなきゃ良かったあ」
「どんまーい」
「はいはい、じゃあね」
「はーい、また明日」
そうこうしているうちに、家に帰り着く。
「ただいまー」
さて、さっさと寝られるよう頑張りますか。
「このリュック、小さすぎるんだよな」
「…もとの大きさに戻らんかな」
【もとの大きさに戻りたかったリュック】
「よし、じゃあ今日もあの小さすぎるリュックで頑張りま…」
「お、大きくなってらっしゃる…」
まさかのもとの大きさの1.5倍ですか…。
「このリュック、極端すぎるやろ」
ま、たまにはこういう日があってもいいか。
「よし、気を取り直して」
「この大きすぎるリュックで頑張りますか」
じゃあ、これを読んでる君へ、行ってきます。
ふと、リュックがしゃべる。
「誰もリュックが物理的に変化することに突っ込まないんかい!!」
おしまい!!!
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