紅剣の探索者第11話

6 2026/03/01 12:37

ヴァルガンは森の中に、ただ静かに立っていた。

やがて轟音が近づく。

木々を震わせながら、グランの戦車が姿を現した。

砲身がゆっくりと持ち上がる。

「どうします、グラン様。ぶっ放して終わりにしますか?」

ネブラが発射装置に手をかける。

「いや」

グランは薄く笑った。

「来るべき時を待て」

「さすがはグラン閣下。ずる賢い」

「頭の回転がいいと言ってくれ」

ネブラが笑う。

スピーカー越しに、グランの声が森へと響いた。

「どうした? もう降参か?」

ヴァルガンは答えない。

そして、ライフルを地面に落とした。

乾いた音が森に沈む。

その瞬間、戦車の上からグランが飛び降りた。重く着地する。

「よう」

ヴァルガンが短く言う。

グランはポケットに手を入れたまま近づいた。

「反乱軍の男。そういえば名を聞いていなかったな」

数歩、距離を詰める。

「俺の憶測だが――お前、ガン・ヴァルガンだろう?」

わずかな沈黙。

「……その通りだ」

グランの口角が上がる。

「やはりな。四年前、北方連邦九カ国を揺らした九国反乱前線の英雄。消息不明――死んだと思っていたが」

肩をすくめる。

「こんな場所で生き延びていたとはな」

「そうか」

「北の英雄を砲撃で殺すのは惜しい。どうだ、一騎打ちといこう。勝っても負けても名誉は守られる」

ヴァルガンは無言で見つめ返す。

「どうだ? その気になったか?」

「もう喋らなくていい」

「……は?」

グランの舌が止まる。

「醜い詐欺師には、相応の報いを」

ヴァルガンの右腕が振り抜かれた。

皮膚の下から、焦げた鉄のような光が滲み出る。

放たれたのは爆発ではない。

一筋の閃光。

それは意思を持つ針のように、空間を縫い裂いた。

「終焉爆(インフェルノ・ブラスト)」

次の瞬間――

閃光がグランの背後を貫いた。

戦車が、遅れて爆ぜる。

轟音。衝撃波。炎柱。

「……!」

グランは咄嗟に顔を覆う。

炎が収まる頃には、戦車は原形を失っていた。

「決着は――ダキア城下町だ」

その言葉を残し、ヴァルガンは森へと駆けた。

「クソが……!」

グランは地面を蹴る。

(俺が引きつけ、ネブラが撃ち抜く算段だった。それを一瞬で看破しただと……)

焦げた鉄片が転がる。

(ネブラもアクトルも死んだ。手駒が全て消えた?)

顎に手をやる。

(今のは何だ。光が走っただけだ。仕掛けは? 理屈は?)

思考が淀む。

(……いや、悲観するな)

歯を食いしばる。

(一度城へ戻る。駒を揃え、武器を揃える。準備さえ整えば、この俺が負けるはずがない)

「覚えていろよ、ヴァルガン……」

グランは反転し、森を抜けた。

---

街道を進むナイラの後を、ソラとラカールが黙って追う。

やがて彼女は森へと進路を変えた。

奥深く――朽ちかけた井戸が現れる。

「緊急脱出用の通路よ。情報屋から聞いた」

ナイラが言う。

「本当に行くのね?」

ソラは頷いた。

「あいつは、もう俺の親友だ。取り戻す」

ナイラは一瞬目を伏せ、井戸へ身を滑らせる。

二人も続いた。

地下通路。湿った空気。細い水路が続く。

ラカールは考えていた。

(紅剣……神話にしか登場しない宝剣。ソラの持っていたあれが、もし本物なら)

国境検問所での光景が蘇る。

エリーデが剣を握った瞬間、空気が変わった。

奇襲をかけたソラの剣は、あまりにも容易く両断された。

(あれは常人の技ではない)

そして、ソラ。

三人で城へ乗り込むという狂気。

(形見程度の理由ではない。あの剣には、それ以上の価値がある)

ラカールはナイラを見る。

(ヴァルガンもナイラも、奪還できると確信している。そして利用するつもりだ)

立ち止まる。

(ソラを守りつつ、あの連中とも衝突しない道を探る。それが俺の役目だ)

迷路のような通路を抜ける。

三十分後、景色が変わった。

---

城下町の酒場、数年前。

「次の総督はエリーデ家の女狐か」

酔った男が言う。

「俺が首を掻っ切ってくるか? 井戸から入れるんだろ」

ティルゴは笑った。

「やめとけ。行ったら帰れねぇ」

男は鼻で笑い、去った。

ティルゴは呟く。

「帰れねぇんだよ」

迷路。暗闇。彷徨う侵入者。

気づいた時には、手遅れだ。

---

ソラは、立っている感覚を失った。

重力が消える。

風も音も色も歪む。

肺が押し潰され、視界が裂ける。

そして――着地。

見知らぬ建物の中。

「……どこだ」

ラカールもナイラもいない。

気配。

頭上。

ソラは跳んだ。

轟音と共に、男が降り立つ。床が砕ける。

「ようこそ、ダキア城へ」

屈強な男が笑う。

「侵入者がガキとはな。総督も舐められたものだ」

拳を鳴らす。

「ここは闇の戦闘実験室。死ぬまで好きに暴れろ」

---

円形の空間。

ラカールが着地する。

中央には枯れた泉。

次の瞬間、音速の影が周囲を巡る。

(速い……)

そして一瞬で懐に入られた。

(刀、か…)

ラカールは棒で斬撃を受け流す。

だがラカールの棒は砕けた。

女だった。

「最悪。殺し損ねた」 そう言い、女はラカールから離れた。

(見失えば終わり。ならば)

ラカールは駆けた。

(こちらから踏み込む)

隠していた二本目の棒を抜く。

女は迎撃姿勢。

(もう一本?どこに隠し持っていた?)

女はそう思いつつ、刃をラカールに向けて振り落とす。

その瞬間、ラカールは一歩引いた。

刃は空を裂く。

「刀は集中するほど威力が増す。だが外せば隙になる」

棒が刀を打つ。

そして連撃。

「不安定な体勢で受ければ――砕ける」

刀が粉砕した。

すかさず懐に入り込み、腹部に一撃を加える。

女は壁へ叩きつけられる。

「待って!」

棒が喉元へ。

「ここはどこだ。なぜ分断された」

女は唇を噛む。

「地下奴隷……だったのよ。戸籍も名前もない。才能を買われて、番犬にされた」

「忠義の兵になる気か?」

沈黙。

ラカールは言う。

「そんな大層なものに、本当はなりたいわけじゃないだろう?」

女の瞳が揺れた。

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