紅剣の探索者第11話
ヴァルガンは森の中に、ただ静かに立っていた。
やがて轟音が近づく。
木々を震わせながら、グランの戦車が姿を現した。
砲身がゆっくりと持ち上がる。
「どうします、グラン様。ぶっ放して終わりにしますか?」
ネブラが発射装置に手をかける。
「いや」
グランは薄く笑った。
「来るべき時を待て」
「さすがはグラン閣下。ずる賢い」
「頭の回転がいいと言ってくれ」
ネブラが笑う。
スピーカー越しに、グランの声が森へと響いた。
「どうした? もう降参か?」
ヴァルガンは答えない。
そして、ライフルを地面に落とした。
乾いた音が森に沈む。
その瞬間、戦車の上からグランが飛び降りた。重く着地する。
「よう」
ヴァルガンが短く言う。
グランはポケットに手を入れたまま近づいた。
「反乱軍の男。そういえば名を聞いていなかったな」
数歩、距離を詰める。
「俺の憶測だが――お前、ガン・ヴァルガンだろう?」
わずかな沈黙。
「……その通りだ」
グランの口角が上がる。
「やはりな。四年前、北方連邦九カ国を揺らした九国反乱前線の英雄。消息不明――死んだと思っていたが」
肩をすくめる。
「こんな場所で生き延びていたとはな」
「そうか」
「北の英雄を砲撃で殺すのは惜しい。どうだ、一騎打ちといこう。勝っても負けても名誉は守られる」
ヴァルガンは無言で見つめ返す。
「どうだ? その気になったか?」
「もう喋らなくていい」
「……は?」
グランの舌が止まる。
「醜い詐欺師には、相応の報いを」
ヴァルガンの右腕が振り抜かれた。
皮膚の下から、焦げた鉄のような光が滲み出る。
放たれたのは爆発ではない。
一筋の閃光。
それは意思を持つ針のように、空間を縫い裂いた。
「終焉爆(インフェルノ・ブラスト)」
次の瞬間――
閃光がグランの背後を貫いた。
戦車が、遅れて爆ぜる。
轟音。衝撃波。炎柱。
「……!」
グランは咄嗟に顔を覆う。
炎が収まる頃には、戦車は原形を失っていた。
「決着は――ダキア城下町だ」
その言葉を残し、ヴァルガンは森へと駆けた。
「クソが……!」
グランは地面を蹴る。
(俺が引きつけ、ネブラが撃ち抜く算段だった。それを一瞬で看破しただと……)
焦げた鉄片が転がる。
(ネブラもアクトルも死んだ。手駒が全て消えた?)
顎に手をやる。
(今のは何だ。光が走っただけだ。仕掛けは? 理屈は?)
思考が淀む。
(……いや、悲観するな)
歯を食いしばる。
(一度城へ戻る。駒を揃え、武器を揃える。準備さえ整えば、この俺が負けるはずがない)
「覚えていろよ、ヴァルガン……」
グランは反転し、森を抜けた。
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街道を進むナイラの後を、ソラとラカールが黙って追う。
やがて彼女は森へと進路を変えた。
奥深く――朽ちかけた井戸が現れる。
「緊急脱出用の通路よ。情報屋から聞いた」
ナイラが言う。
「本当に行くのね?」
ソラは頷いた。
「あいつは、もう俺の親友だ。取り戻す」
ナイラは一瞬目を伏せ、井戸へ身を滑らせる。
二人も続いた。
地下通路。湿った空気。細い水路が続く。
ラカールは考えていた。
(紅剣……神話にしか登場しない宝剣。ソラの持っていたあれが、もし本物なら)
国境検問所での光景が蘇る。
エリーデが剣を握った瞬間、空気が変わった。
奇襲をかけたソラの剣は、あまりにも容易く両断された。
(あれは常人の技ではない)
そして、ソラ。
三人で城へ乗り込むという狂気。
(形見程度の理由ではない。あの剣には、それ以上の価値がある)
ラカールはナイラを見る。
(ヴァルガンもナイラも、奪還できると確信している。そして利用するつもりだ)
立ち止まる。
(ソラを守りつつ、あの連中とも衝突しない道を探る。それが俺の役目だ)
迷路のような通路を抜ける。
三十分後、景色が変わった。
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城下町の酒場、数年前。
「次の総督はエリーデ家の女狐か」
酔った男が言う。
「俺が首を掻っ切ってくるか? 井戸から入れるんだろ」
ティルゴは笑った。
「やめとけ。行ったら帰れねぇ」
男は鼻で笑い、去った。
ティルゴは呟く。
「帰れねぇんだよ」
迷路。暗闇。彷徨う侵入者。
気づいた時には、手遅れだ。
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ソラは、立っている感覚を失った。
重力が消える。
風も音も色も歪む。
肺が押し潰され、視界が裂ける。
そして――着地。
見知らぬ建物の中。
「……どこだ」
ラカールもナイラもいない。
気配。
頭上。
ソラは跳んだ。
轟音と共に、男が降り立つ。床が砕ける。
「ようこそ、ダキア城へ」
屈強な男が笑う。
「侵入者がガキとはな。総督も舐められたものだ」
拳を鳴らす。
「ここは闇の戦闘実験室。死ぬまで好きに暴れろ」
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円形の空間。
ラカールが着地する。
中央には枯れた泉。
次の瞬間、音速の影が周囲を巡る。
(速い……)
そして一瞬で懐に入られた。
(刀、か…)
ラカールは棒で斬撃を受け流す。
だがラカールの棒は砕けた。
女だった。
「最悪。殺し損ねた」 そう言い、女はラカールから離れた。
(見失えば終わり。ならば)
ラカールは駆けた。
(こちらから踏み込む)
隠していた二本目の棒を抜く。
女は迎撃姿勢。
(もう一本?どこに隠し持っていた?)
女はそう思いつつ、刃をラカールに向けて振り落とす。
その瞬間、ラカールは一歩引いた。
刃は空を裂く。
「刀は集中するほど威力が増す。だが外せば隙になる」
棒が刀を打つ。
そして連撃。
「不安定な体勢で受ければ――砕ける」
刀が粉砕した。
すかさず懐に入り込み、腹部に一撃を加える。
女は壁へ叩きつけられる。
「待って!」
棒が喉元へ。
「ここはどこだ。なぜ分断された」
女は唇を噛む。
「地下奴隷……だったのよ。戸籍も名前もない。才能を買われて、番犬にされた」
「忠義の兵になる気か?」
沈黙。
ラカールは言う。
「そんな大層なものに、本当はなりたいわけじゃないだろう?」
女の瞳が揺れた。
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