紅剣の探索者第8話
ソラとラカール、ヴァルガン、ナイラは、拠点の唯一無二に等しい会議室に集まっていた。
「約束通り、まずは我々が保持しているエリーデ軍の情報を、すべて提供しよう」
ヴァルガンは立ったまま、机に置かれた地図を広げる。
「アリナ・フォン・エリーデの治める領土は、ダキア領と呼ばれている。兵数はおよそ八千。ダキア領自体は、しがない辺境領地に過ぎない。が……」
ヴァルガンは地図の中央を指差した。
「エリーデの居城、ダキア城は難攻不落の堅城だ。我々の人数ではおろか、たとえ数万の兵で押し寄せても、正面からの攻略は不可能とされている。だが――」
視線をソラとラカールへ戻す。
「安心しろ。俺に案がある」
「どんな作戦だ?」
ラカールが声を上げた。
「八千の兵を、エリーデ本人と引き離す。それだけさ」
「しかし、どうやって敵軍を誘き出す?」
ラカールの問いに、ヴァルガンはふっと笑った。
「そこは俺たちに任せておけ」
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その後、ヴァルガンとナイラは拠点を出て行った。
ソラとラカールは待機を命じられる。
――そして、丸一日後。
「いいのか? 勝手に見て」
「構わん。だから見張りもつけず、俺たちだけを残したんだろう」
ラカールは会議室に残された資料を漁っていた。
資料の束をめくりながら、眉をひそめる。
「……おかしいな」
「何が?」
ソラは椅子に腰掛け、天井を見上げたまま応じる。
「エリーデ軍の配置図が、妙に細かい。補給路、巡回間隔、交代時間……」
一枚の紙を指で叩く。
「まるで、内部の人間が書いたみたいだ」
ソラは視線を下ろした。
「つまり?」
「裏切り者がいるか、最初から二重スパイを抱えているか、だ」
ラカールは肩をすくめる。
「ヴァルガンは、そのどちらも隠している」
「信用してないのか?」
「してるさ」
即答だった。
「だが、全面的じゃない。それでいい。向こうも、そのつもりだろう」
そのとき――。
遠くで、地鳴りのような音が響いた。
ソラが身を起こす。
「……何だ?」
ラカールは窓際へ歩み寄り、地下通路の換気孔に耳を当てる。
「爆発音だ」
次の瞬間、拠点全体が微かに揺れた。
「随分と、始まりが早いな」
ラカールは小さく笑う。
「八千の兵を引き離す方法……」
ソラが立ち上がる。
「反乱?」
「それに近い」
ラカールは資料の一枚を拾い上げ、ソラに放った。
地図の各所に、赤い丸が記されている。
「ダキア領外縁部。貴族の倉庫、徴税所、補給拠点……」
ソラは紙に目を走らせ、目を見開いた。
「全部、民の恨みが集中している場所だ」
「正解だ」
ラカールは指を鳴らす。
「灰灯の連中は、火種を知っている」
低く、確信を込めて言った。
「あとは、息を吹き込むだけだ」
---
――そのおよそ半日前の夜。
ダキア領外縁、旧補給線跡。
夜霧が低く垂れ込み、視界は悪い。
だが、ヴァルガンは迷いなく歩いていた。
「この辺りだ」
ナイラが頷き、地面に膝をつく。
彼女の指差す先には、寂れたガレージ風の建物があった。
「最近も使われてる。表向きは廃倉庫だけど、実際は徴税物資の一時集積所」
「貴族の上納分か」
「うん。民から搾り取ったやつ」
ナイラは腰の小袋から、古びた金属片を取り出した。
かつて、貴族の紋章が刻まれていた名残だ。
それをヴァルガンへ放る。
ヴァルガンは受け取り、左手に持った金属片を、右手の甲に打ちつけた。
「――終焉爆(インフェルノ・ブラスト)」
瞬間、倉庫の内部から爆ぜるような音が響く。
次いで、建物全体が爆発した。
爆風が二人をかすめて通り過ぎる。
ヴァルガンの《終焉爆》は、人々の憎悪の対象となっている物体に、右手が触れることで発動する能力だ。
まさに、正義の爆破だった。
「よし、次だ」
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――約一時間後。ダキア城・司令部。
夜遅くまで執務室で政務にあたっていたエリーデのもとへ、報告が飛び込む。
「南補給庫が破壊されました!」
エリーデは眉をひそめた。
「南補給庫……上納分が備蓄されている場所ですな」
傍らに立つティルゴが答える。
さらに、別の連絡兵が駆け込んできた。
「北と西の補給倉庫がやられました!」
「第二税関所、爆破されました!」
エリーデは、そこで初めて声を発した。
「誰の仕業だ?」
「不明です。ですが、誰にも捕捉されていません。少人数の可能性が高いかと」
「北と西の補給倉庫は重要拠点。税関所も統治に不可欠だ」
エリーデは静かに続ける。
「つまり、敵は要所を正確に狙っている」
そして、視線がティルゴへ向く。
「ここまで把握できるのは、実際にこの土地を統治している者だけだ。情報は、どこから漏れた?」
「余計な疑念はお控えください。敵の思う壺です」
ティルゴは冷静に返す。
(……裏切り者がいると、完全に見抜かれたな)
「……まあいい」
エリーデは立ち上がった。
「軍を出す」
「全軍は危険です。これは――」
「分かっている」
剣に手を置く。
「だが、放置もできん。民が燃えれば、統治が崩れる」
沈黙。
「三個大隊。外縁部の鎮圧へ」
「しかし、それでは城の守りが――」
「私がいる」
エリーデは断言した。
「問題ない」
ティルゴは深く頭を下げる。
(……これでいい)
(これで、駒は盤に揃う)
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