紅剣の探索者第8話

8 2026/01/27 21:19

ソラとラカール、ヴァルガン、ナイラは、拠点の唯一無二に等しい会議室に集まっていた。

「約束通り、まずは我々が保持しているエリーデ軍の情報を、すべて提供しよう」

ヴァルガンは立ったまま、机に置かれた地図を広げる。

「アリナ・フォン・エリーデの治める領土は、ダキア領と呼ばれている。兵数はおよそ八千。ダキア領自体は、しがない辺境領地に過ぎない。が……」

ヴァルガンは地図の中央を指差した。

「エリーデの居城、ダキア城は難攻不落の堅城だ。我々の人数ではおろか、たとえ数万の兵で押し寄せても、正面からの攻略は不可能とされている。だが――」

視線をソラとラカールへ戻す。

「安心しろ。俺に案がある」

「どんな作戦だ?」

ラカールが声を上げた。

「八千の兵を、エリーデ本人と引き離す。それだけさ」

「しかし、どうやって敵軍を誘き出す?」

ラカールの問いに、ヴァルガンはふっと笑った。

「そこは俺たちに任せておけ」

---

その後、ヴァルガンとナイラは拠点を出て行った。

ソラとラカールは待機を命じられる。

――そして、丸一日後。

「いいのか? 勝手に見て」

「構わん。だから見張りもつけず、俺たちだけを残したんだろう」

ラカールは会議室に残された資料を漁っていた。

資料の束をめくりながら、眉をひそめる。

「……おかしいな」

「何が?」

ソラは椅子に腰掛け、天井を見上げたまま応じる。

「エリーデ軍の配置図が、妙に細かい。補給路、巡回間隔、交代時間……」

一枚の紙を指で叩く。

「まるで、内部の人間が書いたみたいだ」

ソラは視線を下ろした。

「つまり?」

「裏切り者がいるか、最初から二重スパイを抱えているか、だ」

ラカールは肩をすくめる。

「ヴァルガンは、そのどちらも隠している」

「信用してないのか?」

「してるさ」

即答だった。

「だが、全面的じゃない。それでいい。向こうも、そのつもりだろう」

そのとき――。

遠くで、地鳴りのような音が響いた。

ソラが身を起こす。

「……何だ?」

ラカールは窓際へ歩み寄り、地下通路の換気孔に耳を当てる。

「爆発音だ」

次の瞬間、拠点全体が微かに揺れた。

「随分と、始まりが早いな」

ラカールは小さく笑う。

「八千の兵を引き離す方法……」

ソラが立ち上がる。

「反乱?」

「それに近い」

ラカールは資料の一枚を拾い上げ、ソラに放った。

地図の各所に、赤い丸が記されている。

「ダキア領外縁部。貴族の倉庫、徴税所、補給拠点……」

ソラは紙に目を走らせ、目を見開いた。

「全部、民の恨みが集中している場所だ」

「正解だ」

ラカールは指を鳴らす。

「灰灯の連中は、火種を知っている」

低く、確信を込めて言った。

「あとは、息を吹き込むだけだ」

---

――そのおよそ半日前の夜。

ダキア領外縁、旧補給線跡。

夜霧が低く垂れ込み、視界は悪い。

だが、ヴァルガンは迷いなく歩いていた。

「この辺りだ」

ナイラが頷き、地面に膝をつく。

彼女の指差す先には、寂れたガレージ風の建物があった。

「最近も使われてる。表向きは廃倉庫だけど、実際は徴税物資の一時集積所」

「貴族の上納分か」

「うん。民から搾り取ったやつ」

ナイラは腰の小袋から、古びた金属片を取り出した。

かつて、貴族の紋章が刻まれていた名残だ。

それをヴァルガンへ放る。

ヴァルガンは受け取り、左手に持った金属片を、右手の甲に打ちつけた。

「――終焉爆(インフェルノ・ブラスト)」

瞬間、倉庫の内部から爆ぜるような音が響く。

次いで、建物全体が爆発した。

爆風が二人をかすめて通り過ぎる。

ヴァルガンの《終焉爆》は、人々の憎悪の対象となっている物体に、右手が触れることで発動する能力だ。

まさに、正義の爆破だった。

「よし、次だ」

---

――約一時間後。ダキア城・司令部。

夜遅くまで執務室で政務にあたっていたエリーデのもとへ、報告が飛び込む。

「南補給庫が破壊されました!」

エリーデは眉をひそめた。

「南補給庫……上納分が備蓄されている場所ですな」

傍らに立つティルゴが答える。

さらに、別の連絡兵が駆け込んできた。

「北と西の補給倉庫がやられました!」

「第二税関所、爆破されました!」

エリーデは、そこで初めて声を発した。

「誰の仕業だ?」

「不明です。ですが、誰にも捕捉されていません。少人数の可能性が高いかと」

「北と西の補給倉庫は重要拠点。税関所も統治に不可欠だ」

エリーデは静かに続ける。

「つまり、敵は要所を正確に狙っている」

そして、視線がティルゴへ向く。

「ここまで把握できるのは、実際にこの土地を統治している者だけだ。情報は、どこから漏れた?」

「余計な疑念はお控えください。敵の思う壺です」

ティルゴは冷静に返す。

(……裏切り者がいると、完全に見抜かれたな)

「……まあいい」

エリーデは立ち上がった。

「軍を出す」

「全軍は危険です。これは――」

「分かっている」

剣に手を置く。

「だが、放置もできん。民が燃えれば、統治が崩れる」

沈黙。

「三個大隊。外縁部の鎮圧へ」

「しかし、それでは城の守りが――」

「私がいる」

エリーデは断言した。

「問題ない」

ティルゴは深く頭を下げる。

(……これでいい)

(これで、駒は盤に揃う)

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