空想小説「青鬼」 第25話 主従関係
水刃「いやその…ね?もう、あの…言い訳にしかならないと思うんだけれど…私、ちょっと前に昔とある人の従者になっていたって言ったじゃない?」
水刃さんは躊躇気味に言い始めた。
ひろし「いいましたね。」
水刃「その…姿というか、雰囲気というか、そんなのが氷河ちゃんに似てるのよ…その昔仕えてた人と…あ、一応写真があるから氷河ちゃんを部屋に送るついでに取ってくるわ。」
そう言った後、氷河を背負い、氷河の髪に付いてる髪飾りを付けると、姿を消した。数十秒後、写真立てを持って戻ってきた。写真には2人のツーショットが写っていた。
水刃「私の隣にいる人が、その仕えてた人よ。」
水刃さんの隣には、水刃さんより少し背の低い水色髪の人が立っていた。左目と右目で、違う青色をしていて、前髪は右側だけ長く、そこをゴムのような物でくくっていた。
ひろし「確かに、水色髪で右の前髪が長いというのは共通していますね…」
水刃「それに、闇氷ちゃんから聞いたんだけど、ちょっと言い方は悪いけれど、氷河ちゃんって結構皆のために無茶してるらしいじゃない?」
美香「あぁ、確かに青凪山の時とか、たひがの時とか結構無理してそうだったわね。ひろしは無茶するなって言ってるけど…あんまり聞かないわね…」
水刃「あの人は無茶こそは滅多にしないんだけど、色々とやってたのよ。それで似てる所が多くて…この髪飾りも、手先が不器用ながら、それでも頑張って作ってくれたの。そう考えてたら…氷河ちゃんが小さい雪様に見えてきて…」
卓郎「雪様?」
水刃「あぁ…私の仕えていた人、雪さんって言うの。とても強くて、頼りになる人なのよ。」
たけし「じゃ、じゃあ、今はどこに…?」
水刃「…それは…」
闇氷「っしゃああああ!出来たああァァ!!」
ひろし たけし 美香 卓郎 水刃「!!?」
しんみりとしている中、突然闇氷の声が響き渡った。そして、闇氷が5人の元へやってきた。
闇氷「おい、お前ら!全員分完成した…ぜ…?ち、ちょおい、何でこんなしんみりした状況になってんだよ…?まるで私がテンションおかしい奴みてぇじゃねぇか…!」
美香「あー…ちょっと…ね?それで、完成したって本当!?」
闇氷「あっ…あ、あぁ!出来たぜ!ほれ、美香の髪飾りだ。」
闇氷は道具入から花形の髪飾りを出した。
美香「わぁ…!すごい綺麗…!」
美香は嬉しそうに髪飾りを手にとって言った。
闇氷「勿論、3名様の物も出来てるぜ。」
そう言うと、卓郎の首飾り、たけしのバッチ、ひろしの指輪を渡した。
ひろし「ふむ…フレームは私達の属性のイメージカラーに合わせているのですね。」
卓郎「確かにそうだな。俺の首飾りにも赤いとこがちょこちょこあるからな。」
闇氷「…あれ?姉さんは?」
辺りを見回しながら闇氷が言った。
美香「氷ちゃんは帰ってきたら倒れちゃったから今は部屋にいるわよ。」
闇氷「はぁ!?あいつ冷却技の1つでも使えよったく…!」
たけし「え、ど、どういう事だ…?」
闇氷「私が姉さんに頼んだのはアクセの装飾に使う素材を持ってきてくれってのは覚えてるよな?」
ひろし「えぇ。」
闇氷「卓郎のアクセに使った素材は蒼双火山にあるものなんだ。知っての通り、姉さんは暑いのが苦手だろ?能力使えるってのに何で冷却技使わねぇんだよ、あいつは…ま、姉さんの事だからすぐ起きるだろ。んじゃ、試し打ちと行くか?」
卓郎「オッケー!行くか!」
氷河「ちょ、待って!自分も行く!」
氷河が階段を駆け下りながらやってきて言った。
闇氷「お、噂をすれば。」
たけし「いや、復活早すぎだろっ!?大丈夫なのか!?」
氷河「あぁ、その件なら大丈夫ですよ!回復技使ったからね!」
そう言って手を振る氷河の右手首には腕輪が付いていた。
美香「あ、その腕輪が…?」
闇氷「おぉ、私特製の腕輪だ。」
ひろし「なるほど。なら、大丈夫なんですね?」
氷河「はい!モチのロンですよ!」
闇氷「姉さんが復活したなら、私が行く必要はないな。私はここに残って主の護衛してるぜ。」
美香「分かったわ!それじゃあ、言って来るわね!」
水刃「気をつけてねー!」
2人は手を振って5人を見送った。
闇氷「…主。」
手を振り終えた闇氷が口を開いた。
水刃「何?」
闇氷「良かったのか?雪の事を出して。」
水刃「私が嘘が苦手なのは知ってるでしょ?それに、これだけじゃきっと…あの子達は知る由もないから…」
水刃さんは手に持った写真を見て呟いた。
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同時刻…とある天空の研究所で嬉しそうな声が聞こえてきた。
??「やった、遂に出来たぁ〜!これが僕の新しいペットになるのかぁ!」
声の主の腕には、青と白のグラデーションの卵が抱えられていた。
??「楽しみだなぁ、早く生まれないかなぁ?」
声の主は待ち遠しそうに言った。すると、扉が開き、藍色の髪をした者が入って来た。
??「研究は順調か?」
声の主は藍色の髪の者…ボスに嬉しそうに言った。
??「あっ、ボス!もう順調すぎて困るくらいだよ〜!さっき遂に完成したんだ!『例のアレ』が!」
ボス「そうか。遂に完成したか。」
??「これが孵化すればオーヴァーなんか目じゃない位な戦力になるはずだよ♪」
ボス「神獣の力…か。それを手にする事が出来れば、我らの勝利は揺るがない物になるだろう。引き続き頼むぞ。」
??「あいあいさ〜!そういえばボスの方はどうなってるの?」
ボス「順調だ。いずれ近いうちに青神様が復活するだろう。そのための準備は着々と進んでいる。」
そう言い、ボスは静かに部屋から出ていった。
??「さて〜、この神獣ちゃんを孵化させてあげないとね!」
声の主は卵を抱え、部屋を後にした。
??「ふんふ〜ん♪…うわっ!」
鼻歌を歌って歩いていると、足元の水溜りに気づかず転んでしまった。どうやら窓が開きっぱなしで、そこから雨が吹き込んでいたようだ。しかしその拍子に卵を手放してしまった。卵が転がっていく。
??「イタタ、転んじゃった…あっ!待て!!」
そう言って大慌てで追いかけるが、間に合わない。卵は窓から地上へ落ちていってしまった。
??「あーーーーーー!!!やっばい!落としちゃった!早く見つけないと!!」
声の主は外に飛び出した。
??「レオ!来い!」
そう言うと、どこからともなく、翼の生えた白いライオンがやってきた。
??「早く地上に言って卵を探さないとっ!!」
そう言うと、レオの背中に乗り、卵を探しに行った。
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美香「卓郎、見て!あそこにいい丘があるわよ!」
卓郎「お、ホントだな!皆、行こうぜ!」
一方その頃、5人は技の試し打ちに行くはずが、最早散歩をしていた。
ひろし「やれやれ…すっかり散歩になってしまいましたよ…」
ひろしが少し呆れた声で言った。
氷河「まぁ、最近は青鬼だの殲滅軍だのでずっとピリピリしていましたからね。」
たけし「たまにはこういうのもいいのかもな…!」
美香「ひろしー、たけしー、氷ちゃーん!」
卓郎「早くしねぇとおいてくぜー!」
丘の上で2人が手を振って呼んでいる。
ひろし「はいはい。」
たけし「ま、待ってくれよー!」
氷河「すぐ行きますー!」
3人は走って2人の元へ向かった。
たけし「おぉ、いい景色だなっ…!」
丘の上は、とてもきれいな風景が広がっていた。
美香「ふふっ、そうでしょ!」
皆が景色を見ている中、氷河が何かを見つけた。
氷河「…ん?」
美香「氷ちゃん、どうかしたの?」
氷河「あれ、何でしょうか?」
氷河が指をさした先に、何かが落ちてきていた。
ひろし「何でしょうか、あれは…蒼凪山方面に落ちたようですが…」
卓郎「よし、行ってみようぜ!」
5人は、もう技の試し打ちの事をすっかり忘れて蒼凪山へ向かった。
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卓郎「確かこの辺りに落ちたよな?」
たけし「な、何か薄気味悪い所だな…ここ、本当に蒼凪山なのか…?」
氷河「……」
たけしの言う通り、周りには砕けた建物などの瓦礫が堆(うずたか)く積み上がっていた。その光景を前に氷河は少し表情を歪めた。
美香「でも気になるじゃない!」
ひろし「雰囲気が違うのはこことはまた別の蒼凪山の方角なのでしょう。手分けして探してみましょうか。」
氷河「…分かりました!」
氷河はいつもの顔に戻し、5人は落ちてきた物を探し始めた。
美香「卓郎〜、あった〜?」
卓郎「ん〜、ねぇな〜…」
探し始めてはや5分、未だ全く見つけられていなかった。
ひろし「本当にこんな所に落ちたのですか…?そもそも、あの高さから落ちたら流石に粉々になってるでしょう…」
たけし「え゙っ…こ、粉々か…?お、おい…もう帰ろうぜ…」
ひろしの言葉を聞いたたけしはすっかり怖気づいてしまった。
美香「嫌よ!折角ここまで探しに来たんだもん!」
卓郎「そうだぜ!とことん探しそうぜ、たけし!熱くなれよっ!」
卓郎はたけしの肩に手をかけ、明るく言った。
ひろし「燃えてますね、卓郎…」
たけし「どこぞの太陽神かよぉ…」
なんやかんや言ってると、無言で探していた氷河が声を上げた。
氷河「…ん?あっ!これじゃないですか!?」
たけし「こ、粉々…」
たけしの不安は的中しなかった。落ちてきたものには粉々になっていなければ割れてもいなかった。
氷河「これは…何かの卵?」
氷河は青と白のグラデーションの卵を抱えながら言った。
美香「こんな卵、見た事無いわね。」
美香も卵を覗き込みながら言った。
ひろし「とりあえず持って帰って調べてみましょう。」
卓郎「だな。んじゃ、戻るか。」
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宿に戻ってくると、水刃さんが出迎えてくれた。
水刃「あ、おかえ…ん?そ、その卵は一体何なの…?」
水刃さんは、氷河が抱えている卵に目が行った。
氷河「あぁ、実は斯々然々で…」
水刃「な、なるほどね…じゃあ、ちょっと待ってて。図鑑を持ってくるわ。」
美香「…あれ?水刃さん、闇ちゃんは?」
水刃「闇氷ちゃん?闇氷ちゃんなら数分前に外に出掛けて行っちゃったわ。皆は居間で待ってて!すぐに持ってくるから!」
そう言い、水刃さんは小走りで走っていった。
水刃「持ってきたわよー…っ!」
数分後、水刃さんが分厚い本を数冊、息を切らして持ってきた。
水刃「はぁ、はぁ…疲れた…」
氷河「ちょ、大丈夫ですか?」
水刃「うん、大丈夫…わ、私部屋に戻るわ…疲れた…」
水刃さんはフラフラと居間から出ていった。
美香「水刃さん…大丈夫かしら…」
氷河「流石にあの着物姿で走るのは体に来ますよ…」
卓郎「きっと大丈夫だ!さ、俺達は早く図鑑を読もうぜ!」
そう言い、皆は手当り次第に図鑑を読み始めた。
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