空想小説「青鬼」 第36話 光なき眼
たけし「な、なぁ…何か雰囲気、違くないか…?」
ひろし「そうですね…なんだか空気が重いような…」
美香「そんなに嫌なら、早く氷ちゃんを見つけて帰りましょ!氷ちゃー」
闇氷「黙…静かに!」
美香が大きな声で氷河の名を呼ぼうとした時、闇氷が速攻で美香の口を塞いだ。
卓郎「どうしたんだ、闇氷?後、黙れって言い掛けなかったか?」
闇氷「ちゃんと言い直しただけ良しとしてくれ…仮にも青鬼が至る所にいるんだ。下手に大声出したら…」
そう言ったその時、青鬼が数体現れてきた。
闇氷「ほら見たことか…」
闇氷は顔に手を当て、ため息をつく。
美香「何言ってるの、闇ちゃん?」
闇氷「あぁ?」
闇氷は顔に手を当てたまま美香を見る。
美香「そんなの全員薙ぎ倒せばいいじゃない!」
闇氷「あぁそ…はぁ!?」
美香「万花・春嵐(ばんか・はるあらし)!」
そう高らかに宣言すると、美香は大剣片手に風の如く素早く青鬼を斬り伏せた。それは春一番の嵐のように…
美香「はーい、これでいいでしょ、闇ちゃん!」
闇氷「…まぁ…そうだな…だが、あまり好ましくないぞ。そういうの…今回は少なかったからいいが、いくらお前でも多勢に無勢だとやりづれぇだろ?」
闇氷は若干引きながら美香に言った。
美香「まぁまぁ、それはもう後の祭りでしょ?早く氷ちゃんを探しに行きましょ!
闇氷「調子のいいやつだな、ったく…」
調子のいい美香を前に闇氷は呆れ半分で呟いた。
たけし「なぁ、ちょっと静かにしてもらってもいいか…?」
たけしが小さく手を上げて言った。
ひろし「どうしましたか?」
たけし「なんかその…さっきから音が聞こえないか…?」
美香「音?そんなの…」
卓郎「いや、聞こえるな。だが、何だこの音?よく分からねぇな…」
闇氷「それだ、たけし!この音を辿るぞ!」
そう言うやいなや闇氷が走り出した。
たけし「うえぇ!?ちょ、ちょっと待てよー!」
たけしも慌てて闇氷の後を追いかける。
美香「あー!抜け駆けは酷いわよ、たけしー!」
美香も速攻でたけしを追いかける。
卓郎「さ、俺達も行くぜ、ひろし!」
ひろし「足元には気をつけてくださいよ。」
ひろしと卓郎も3人の後を追った。
―――――――――――――――――――――――――――
しばらく走った頃、左腕を広げて、闇氷が足を止めた。
たけし「ど、どうしたんだ…?」
闇氷「いた。」
闇氷が指を指す数十m先には、大量の凍りかけの青鬼の骸と、ナイフを持つ氷河の姿があった。
美香「つーかまえたっと!あっ、氷ちゃんいるじゃない!」
氷河の元へ走って行こうとすると、闇氷が美香の肩を掴んだ。
闇氷「まぁ待て。ひろしと卓郎が来てから…っと。噂をすれば、か。」
後ろからひろしと卓郎が走ってきた。
卓郎「悪ぃ、遅れた!」
ひろし「おまたせしました。」
美香「二人とも来たし、早く行きましょ!氷ーちゃーん!」
闇氷「お、おい待て!」
闇氷の声を聞かず、美香が走って氷河の元へ走り出した。
氷河「…美香さんですか。」
美香の声を聞いた氷河は特に反応することもなく、静かに言った。その状態はまるで、初期に中学に来た時の氷河の性格のようだった。
美香「…ん?氷ちゃん、なんかいつもと違くない…?」
氷河「何言ってんですか。いつも通りですよ。偽物とでも言いたいんですか?」
氷河は白けた声で冷たく言う。
美香「えっ?い、いやそこまでは言ってないけど…そ、そんなことより探したわよ、氷ちゃん!さ、早く帰りましょ!」
美香は氷河の手を取り、引っ張って行こうとした。が、氷河は美香の手を振り払う。
美香「え…?氷ちゃん…!?」
氷河「自分はここでちょっとやることがあるんでね。ここまで来てもらって悪いけど、帰ってくれるかな。」
美香「ち、ちょっと!私達がどれだけ心配したか分かってるの!?」
氷河「いや、全く。」
美香「なっ…なっ…!」
表情を何一つ変えずに淡々と言う氷河を前に、美香はだんだん涙目になってきた。
美香「なによっ!!私達がこんなにも心配してるのに!もう知らないわよっ!!わあぁぁぁん!!!」
美香は泣きじゃくってひろし達の所へ帰って行ってしまった。
氷河「あ、帰った。…ま、いっか。」
氷河は美香が走って行った方向を横目に呟いた。
氷河「そんな事を言ってたらまた来たね。有象無象の奴らが。」
視線の先には、大量の青鬼が迫ってきていた。
氷河「…俺がもっと強かったら…ハクモも…師匠も…死ぬ事はなかったのかな…」
氷河は一瞬、寂しそうに目を伏せたが、首を振り、すぐに鋭く青鬼を睨みつけた。
氷河「…そんな事はどうでもいいか…全員まとめて凍て斬ってやるよ。」
一瞬、右手に持つナイフが鈍く光ったような気がした。
―――――――――――――――――――――――――――
美香「わあぁぁぁん!!たくろぉ〜!!」
卓郎「おわっ!?」
泣きじゃくりながら帰ってきた美香は卓郎に抱きついてさらに泣いた。美香の様子を前に、4人は呆気にとられた。
卓郎「お、おいおい、一体何があったんだよ美香…?そんなに泣いてさ…」
美香「わあぁぁぁん、卓郎〜!氷ちゃんがひどかったの〜!私がちゃんと手を取って連れ帰ろうとしたのに、私の手を振り払って拒絶したのよ〜!しかもその挙げ句、私達の心配を全く気にしてなかったのよ〜っ!!私達がこんなに心配してるのに〜っ!!!」
卓郎「な、なるほどな。と、取り敢えず美香、一旦離れてもらえるか?」
美香「う、うん…分かった…」
美香は涙を拭いながら卓郎から数歩下がった。
ひろし「それにしても…性格がまるで中学校に来たばかりのようですね…」
闇氷「…捻くれてんなぁ…」
闇氷は昔を思い出すような顔で呟いた。
卓郎「取り敢えず、俺らも氷の所へ行こうか。」
5人は、氷河の元へ向かって行った。
たけし「お、おーい…!」
氷河「なんだ、皆来てたんだ。」
氷河はさっきのように、白けた声で言う。
ひろし「探しましたよ。突然姿を消したのですから、心配したんですよ?」
氷河「…あっそう。要件がそれだけなら帰ってくれる?」
ひろし「………」
ひろしも普段とはかけ離れた言動に黙ってしまった。
たけし「ど、どうするんだ…?」
たけしは不安げに皆を見る。
卓郎「氷、仮にも美香は氷を心配してくれていたんだ。だから、礼の1つでも言ってやr」
言いかけたその時、卓郎のすぐ横をナイフがかすめた。そのナイフは後ろに迫っていた青鬼に刺さった。
氷河「巻き添えにしたくないからさっさと帰ってくれる?これでも配慮してる方だよ?」
氷河はそれだけ言うと、何処かへ歩いていく。
美香「氷ちゃん!いい加減に…!!」
美香が氷河の後を追おうとすると、闇氷がそれを止めた。
闇氷「美香!これ以上姉さんの癪に障らない方がいい!」
美香「何でよ!」
闇氷「今の姉さんがすんなり受けてくれると思うか!?それでお前らになんか物理ダメージ負わせちまったら完っ全に病む!だから今は下がれ!取り敢えず主に伝えに行くぞ!」
美香「……わかったわ…」
氷河「流石は自分の妹だね。賢明な判断だよ。分かったらさっさと引いて。」
闇氷「…戻るぞ、お前ら。」
そう言い、反対方向へ早歩きで歩き始めた。
闇氷「…お前はいつから俺より狂っちまったんだよ…」
早歩きで歩いてる中、そう小言で呟いた。
卓郎「…どうすんだよ?あのまま放っておくわけにはいかねぇだろ?」
闇氷「それもそうだが、取り敢えず主の所に戻るぞ。状況を伝えねぇとな。」
美香「何でああなっちゃったのよ…あんなに心配してるのに…!」
闇氷「理由は分かりきってる事だろ。愚痴んのは帰ってからにしろ。」
ブツブツ呟く美香を言葉で切り捨てると、さっさと宿に向かっていった。ひろし達も後を追っていった。
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