空想小説「青鬼」 第55話 矛盾を融かす炎

2 2025/08/27 17:42

卓河「⋯やっと殺す、って言ったな。今まで他人の心を弄ぶだけだったお前が。」

ニドル「貴方の歪みを味わうのが目的でしたから。でも、もう十分です。」

ニドルが手を広げると、地面の鏡の破片が空中を舞い、ニドルの手に集まっていく。

ニドル「私もまた、矛盾で成り立つ存在です。故にこそ、自らの矛盾の刃であなたを裂く資格がある。」

その手にあるのは、無数の鏡の破片で出来た異形の大剣。

卓河「⋯資格があろうがなかろうがどの道始末しようとしてたくせによく言う⋯随分と仰々しい見た目なことで。」

ニドル「仰々しい?これは、鏡が取り込んだ貴方の中にあった歪みの残響で形作られているんですよ。言わば、貴方の否定が刃となったもの。」

卓河「へぇ⋯」

ニドル「さぁ、理想と現実、正義と暴力、過去と未来⋯どれを守って、どれを壊すか…選んでみせてください。」

卓河「選ぶまでもないな。俺が壊すのは⋯」

  ―――お前だけだよ。

その言葉はまるで矢のように鋭く、一直線にニドルへと突き刺さった。

ニドル「…ふふ、いいですねぇ。そうでなくては、ようやく貴方の矛盾が本気でこちらを狙ってくれる。」

卓河は静かに弓を構えた。

卓河「⋯お前が今持ってるその大剣、俺の過去をなぞって出来たもんだろ?」

ニドル「ええ、そうですよ。貴方の否定、貴方の嘘、それらが織り成した自己矛盾こそ、私の力。」

卓河「ふーん⋯そうかよ」

関心がなさげにそう言うと、矢を構える。

卓河「⋯正味、それ気味が悪い。短期決戦で壊してやるよ。」

ギリギリと弦が音を立てる。

卓河「⋯速攻・急火」

矢は放たれると同時に、ニドルに向かって飛んでいく⋯はずだった。

飛距離が明らかに足りない。

ニドル「⋯ふふっ、どうしました?威勢だけは良かったのに、距離も見誤るとは。」

まるで失敗を嘲笑うかのように、ニドルは微笑んだ。

卓河「…あぁ。届かなくていいんだよ。」

卓河は表情を一切崩さず、静かに言った。

ニドル「…はい?」

変わらぬ表情のまま、卓河は矢の行く末を見届ける。

直後、ニドルの足元で突如として爆ぜる炎。

矢が地面に突き刺さった瞬間、炸裂音と共に熱風が吹き荒れる。

ニドル「なっ…!?」

卓河「距離が足んなくてもいいんだよ。その炎は、お前の逃げ場をなくすための炎なんだからさ。」

ニドル「逃げ場を、なくす……?」

ニドルの足元に広がった炎は、じわじわと円を描くように拡大し始めていた。

卓河「⋯一応聞くけど、[急火]の意味は知ってんの?」

ニドル「…急激な火とか、そういう意味でしょう?」

卓河「いーや、違うな。急火には急に燃え上がる火、火力の強い火の事を指す。その意味に当てはめると、火が早く回るから、逃げ場をなくすのに最適なんだよ。」

ニドル「…なるほど。言葉遊びにしては随分実用的ですね。」

卓河「言葉遊びで済んでたら、戦いの場で使わねぇよ」

弓を引き絞りながら、卓河の目は一切の感情を削ぎ落としている。焦燥も怒りも、一周回って最早揺らいでいない。

あるのはただ1つ、確実に仕留める、という意思。

卓河「…一応言わせてもらうけど⋯その鏡の剣、融けてるんじゃないの?」

ニドル「な…!」

ニドルがとっさに鏡の剣を見やる。鋭利な鏡の破片の一部が高熱に曝されて熔け落ちている。

ニドル「…なるほど、攻撃というより剣を削るのが目的でしたか。」

卓河「まぁな。正直目障りなその剣を壊せば、ある程度はマシになるだろ。」

ニドルは唇を噛むが、すぐに薄く笑みを取り戻す。

ニドル「ふふっ⋯ええ、いいでしょう。ではこちらも矛盾らしく、冷静なまま怒ってみせましょうか。」

鏡の剣を片手に再び構え直すニドル。その周囲には、残った鏡片が再び舞い上がり始める。

卓河「勝手にどうぞ。今度の矢は、お前に届かせる。」

静かに、だが確実に。卓河の弓が再び張られていく。

卓河「俺がそこに届かせる、当てるって決めたからな。」

目が開く。その目は、青く燃えていた。

卓河「…俺の矢が届くのは、そういう場所だ」

矢から手を離す。数多の蒼い炎の矢がニドルに迫る。

ニドル「くっ…!!」

ニドルは鏡の破片を盾に変え、炎を防ぐ。

ニドル『このまま⋯このままこの猛攻を凌げば⋯』

なんとか盾を維持し続けていたニドルだが、卓河も黙ってみているわけがない。

卓河「⋯そろそろ、決着つけるか」

そう言い、武器を変える。そして、ニドルの元へ接近する。

ニドル『もう少し、もう少し耐えれば⋯』

卓河「炎二閃・火途」

蒼い炎を纏った太刀が鏡の盾とニドル本体を袈裟斬りにした。

蒼い炎が、斬撃の軌跡を描くように空を舞う。

袈裟斬りにされたニドルの身体は、蒼い火花に包まれ、再び立ち上がる力は残っていなかった。

卓河は太刀に纏う青い炎を振り払う。

卓河「…これで、終わりだ。」

ニドル「…っ、は…ああ…これが…貴方の矛盾の肯定ですか⋯」

地に伏しながらも、ニドルはかすかに笑った。

その表情は、皮肉も、嘲笑もなく。どこか、安堵すら滲んでいた。

ニドル「ふふ…もし、存在しているのなら⋯神は、最期に見せたかったのかもしれませんね…矛盾していても、信じられる何かが…あるということを…」

卓河「…信じられるかどうかは、本人が決める物だ。誰に否定されようがな。」

ニドル「…えぇ、そうですね…まったく…貴方という存在は…滑稽で、愚かで⋯美しい…」

鏡の破片は、灰のようになり消えた。

卓河は1人呟く。

卓河「…美しい、って⋯」

そう呟き、眉をひそめる。

卓河『よくも最後にそんなぬけぬけと⋯言っただろ、綺麗じゃないって⋯ただ、俺は⋯間違ったまま、後悔しながらでも、進むしかないだけだ⋯』

自分の中でそう独りごちると、ニドルの体が炎で包まれた。

卓河「⋯!⋯あぁ、そうか⋯火途の意味は⋯」

火途の意味は、猛火で身を焼かれる地獄道の事だ。

卓河「だから⋯斬ったら傷口から燃えるんだったな⋯ま、火葬でいっか⋯闇氷のとこに連れてくのも今回は面倒い⋯」

燃え尽きていくニドルの身体が、徐々にその輪郭を失っていく。

卓河『⋯矛盾⋯俺が矛ならこいつは盾、ってところだったか⋯』

卓河は、もうそれ以上は何も言わなかった。というよりは、言う気になれなかった。

卓河「さて⋯どうやって連れて帰ろうか⋯」

卓河は端に寄せた4人に視線を移す。

倒れたままの4人は、意識こそ失っているものの、呼吸は安定していた。卓河はそれを確認して、ひとまず安心する。

卓河「…ま、死んでないだけ儲け物、か⋯というか、4人一気に運ぶとか流石に美氷の姿でも無理あるかな…闇氷、来てくれないかなぁ⋯いや、来たら来たで何か後々パシられるなり何なりされそうだしなー⋯はぁ、結局何やっても面倒には変わらないか⋯」

卓河は頭を軽く掻きながら、どこか諦め交じりに小さくため息をついた。1人1人の顔を見て、軽く肩を叩いたり、頬をつついたりして反応を確かめていく。

卓河「⋯あのー、せめて起きて自力で立って下さいよ⋯今回ばかりは疲れて…はぁ、まぁそりゃダメか。そんな都合良くはいかないか⋯」

仕方なく、まずはひろしの腕を自分の肩に担ぎかけ、運ぶ準備に取り掛かる。

卓河「…はぁ、自分ここまで世話焼きキャラじゃなかったはずなんだけどなー⋯いやそうでもない?いやここまでじゃなかったな、うん。」

口ではやいのやいの言いつつ、色々と試行錯誤をしていた。

「…お前さぁ⋯いっつもそうやって自分1人でやろうとするよな。」

声の方へ振り向くと、闇氷がいつもの表情で立っていた。

卓河「⋯いつからいたのさ?」

闇氷「火途の意味がどうたらこうたら言ってた辺りからだが。」

卓河「随分とある意味ジャストタイミングな⋯というか、その時に声かけてくれても良かったじゃん⋯」

闇氷「いや…お前なんか良い雰囲気で独り言してたし?黙ってみててやろうかと。」

卓河「お前なぁ⋯」

闇氷「…で、どうする気だ?4人まとめて運ぶとかいう馬鹿をやる気か?」

卓河「⋯⋯⋯テツダッテクダサイ。」

闇氷「⋯はぁ⋯なら素直に最初からそう言え。こっちはひろしと卓郎担ぐから美香とたけし任せるぞ?」

卓河「了解。⋯これ運びきれるか⋯?」

闇氷「無理だろうな。」

卓河「駄目じゃん⋯護衛やるって言われても両手塞がってるし⋯」

闇氷「そんな時のためのこいつがいるだろ?」

闇氷は斜め後ろに視線を向ける。そこに現れたのは女だった。

「⋯自分は便利な転送機扱いですかそうですか⋯」

闇氷「実際今のお前はそれくらいしか出来ねぇだろ、出しゃばれるだけありがたいと思え?」

「相も変わらず辛辣だなー⋯」(´・ω・`)

闇氷「⋯さっさとやってくんねぇか?腕きつい。」

「はいはい、仕方ないですなぁ。もう改変内容は入力済みだからね。⋯あぁ、そうそう、帰ったら2人共驚くと思うよー?闇氷なら多分分かるかと。」

卓河「はぁ?闇氷、分かるの?」

闇氷「⋯⋯あのさぁ、そういう意味ありげなのを俺に押し付けんのやめてもらっていいか?」

そういう闇氷の表情は、平静を装ってるように見えて、若干笑いをこらえていた。

『⋯あーなるほどそう来たか⋯知ってるけど知らないフリしてる芝居打ったねこれ?』

「まー見てからのお楽しみ、って奴ですなぁ♪まぁ、悪いことではないからそこは安心してよ!」

卓河「どうだか⋯もしその発言が嘘だったら⋯」

「そんな質悪い嘘つかないって!大丈夫だから!だからそんな怖い顔しないでさ!」

卓河「⋯分かったよ。じゃ、頼む。」

「オーケー、任せてよ!OVERWRITE!」

女が指を鳴らすと、2人は瞬く間に消えた。

「⋯さて⋯俺も次の作業しなくちゃなぁ⋯何にしようか⋯」

女は考える素振りを見せ、ふと顔を上げた。

「あぁ、そうだっだ⋯そろそろあの子が来るのか⋯[樹石]色をしたあの子が⋯そうと決まれば、やんないとね⋯全く、この作業も楽じゃない⋯楽しくもあるんだけどさ。」

そう言い残し、女は蒼い桜と共に消えた。

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タグ: 空想小説「青鬼」 55話矛盾

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その他2025/08/27 17:42:49 [通報] [非表示] フォローする
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闇氷「…ストックあんのになんでこんな空いてんだよ?」

霞「次のサムネ描いてたね~」

闇氷「嘘つけとうらぶやってたろ」

霞「いやサムネ描いてたのも事実だから!あと今回は差分があるんだよね~」

https://d.kuku.lu/xyxnk838z

闇氷「それで逃げれるとでも?」

霞「(´・ω・`;;)」


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