空想小説「青鬼」 第61話 消えた琥珀色
それからというもの、今日はコハクとの交流会になったようだ。
どうやら外の天気も悪かったようだし、丁度良かったのだろう。
どうやら日暮れまで色々と遊んできたようだ。
工作に絵描きや料理、かくれんぼに追いかけっこもやったようだ。
宿が広いからこそ出来ることですね。
氷河「…にしても、まさか宿中走り回るとは⋯大丈夫ですこれ⋯?」
水刃「まぁ、今は皆以外お宿に人はいないし、いいんじゃないかしら。」
ひろし「かくれんぼなんてやったのはいつ以来でしょうか⋯」
たけし「いや⋯ハクモ見つけるのムズすぎだろ⋯」
ハクモ「狭いところもスルーって入れちゃうからね!」
卓郎「そして見つけた所は冷蔵庫の上に乗ってる箱の死角とか分かるわけねぇだろ⋯」
ハクモ「勝つときは全力で勝ちにいくからねー!」
ひろし「ハクモ君に本気を出されては適いませんね。」
闇氷「⋯おいコハク、耳飾りはどうした?」
コハク「耳飾りですか?確かかくれんぼの時に一度外して窓辺に置きましたが⋯」
闇氷「窓辺?⋯ねぇけど」
コハク「え!?あ、あれ…!?」
氷河「窓の外の下に落ちてたりしない?」
コハク「うーん⋯?あ!ありました!」
コハクの耳飾りは窓のすぐ下にあった。
どうやら風に揺れるカーテンでだんだん位置をずらされ、落ちてしまったようだ。
コハク「失くすのは嫌なのですぐに取ってきます!!」
そう言うやいなやコハクは玄関へ走っていった。
闇氷「慌てすぎだろ⋯」
ひろし「大切な物だと言っていましたし、よほど大事なのでしょう。」
卓郎「でもよ、外まだ雨降ってるよな?滑って転ばなきゃいいが…」
水刃「あの勢いだと⋯傘も持たずに出ていったんじゃないかしら。」
氷河「あー…絶対ずぶ濡れになるパターンだ⋯」
美香「闇ちゃん、行かなくていいの?」
闇氷「…別に行く必要ねぇだろ。あいつならすぐ戻ってくる。」
―――――――――
コハク「えーっと、こっちですよね…!」
コハクは落ちた髪飾りの場所へ真っ直ぐ向かっていた。
小雨に濡れながら、コハクは足元を確かめるように歩いていく。
外の空気は夏なのに少し冷たく、しとしとと降る雨が髪を濡らしていった。
コハク「あ…あった!よかったぁ…!」
地面に落ちた小さな耳飾りを拾い上げると、光を反射して淡く輝いた。
コハク「よーし、早く戻らないと⋯これ以上濡れたら大変です!」
そう言い、走り出した瞬間。
コハク「…わっ!?」
足元の水たまりに足を取られてしまい、体制を崩す。
パシャッと音を立てて、水溜りの上に転けた。
コハク「いったた…うぅ、滑っちゃったなぁ⋯」
両手で地面を押さえながら起き上がる。
膝に擦り傷ができ、少しだけ血が滲んでいた。
コハク「うーん⋯⋯えっ」
顔を上げた世界は、さっきまでいた場所ではなかった。
辺り一面森の中。
コハク「え⋯え⋯?なんで⋯?」
慌ててあたりを見渡しても、そこに宿はない。
ただ森の景色が広がっているだけだった。
見上げれば、灰色の空は木々の枝に覆われてほとんど見えない。
コハク「えぇぇ⋯??夢じゃ⋯ないですよね⋯?」
頬を軽く抓ってみた。
痛みはある。現実だ。
コハク「…ど、どうしよう…闇氷様⋯」
周りをおろおろしながら右往左往する。
コハク「と、とりあえず⋯歩かないとですよね⋯」
コハクはおろおろしつつも歩き始めた。
―――――――――
闇氷「⋯あいつ帰ってこねぇな?」
美香「もう戻ってきてても良い時間よね?」
卓郎「外は雨まだ降ってるし…足滑らせて転んでなきゃいいけどな…」
たけし「様子⋯見に行った方がいいんじゃないか⋯?」
闇氷「…チッ」
闇氷は舌打ちを1つすると無言で立ち上がる。
水刃「⋯なんだかんだ心配してるんじゃない。」
闇氷「うるせぇ。」
それだけ言うと居間を後にした。
玄関を開けると、雨がさっきよりも少し強くなっていた。
闇氷は靴を履き、外に出る。
足元に残る小さな足跡が、玄関から伸びていた。
闇氷「…傘も持たずに行きやがって」
ぼそりと呟きながら、足跡を辿っていく。
その先には、落ちた耳飾りがあったはずの場所。
闇氷「…あ?」
足跡は、そこで終わっていた。
闇氷は眉をひそめ、しゃがみ込む。
土が抉れたような跡があった。
闇氷「…あいつが転んだ跡か?」
⋯いや、それはまだいい。
妙だ。
足跡が、そこから先に一切ない。
逃げたわけでも、歩き出したわけでもない。
まるで、その場から消えたように。
闇氷「⋯多分やられたな⋯チッ、面倒な事を⋯」
氷河「闇氷、いたー?」
氷河が窓から声を掛ける。
闇氷「⋯⋯⋯」
氷河「⋯闇氷ー?」
闇氷「⋯あぁ⋯あいつ攫われた」
氷河「はぁ!!?」
闇氷「うるせぇ、ちょっと探してくる!!」
氷河「あぁっ、ちょっと!!」
氷河の声を聞くことなく、闇氷はタッと走り出した。
―――――――――
闇氷『バレんの早すぎだろ、あいつはよ…!!やっぱ迂闊に外出すんじゃなかった…!!』
闇氷は雨の中走っていた。
闇氷「⋯で、見切り発車で走り出したはいいが場所が皆目見当がつかねぇな」
うわぁ!急に冷静になるな!
闇氷「⋯地の文でふざけてる暇があったらさっさと出てこい」
ナイフに片手を掛けて闇氷がドスの効いた低い声を発すると木の裏からひょっこり女が現れた。
「怖い事言わないでよー⋯謝るからそのナイフに掛けてる手降ろして?ね?」
闇氷「⋯あいつはどこ行った」
「コハの事?」
闇氷「以外に何がある」
「怖い顔しないでって⋯わーったって、自分も探すの手伝うからさぁ。」
闇氷「お前なら一発でわかるだろ。」
「まぁそうっちゃそうだけどー⋯大まかな場所までは絞れるけどピンポイントは無理だよ?」
闇氷「いいからさっさとやれ」
「圧がエグいなーエグいなー⋯やるからやるから!」
女はそう言い、じっと半透明のパネルを操作する。
「ん――⋯あ―――⋯なるほどなるほど?あの子がいるの樹海だな。」
闇氷「は?」
「蒼凪樹海だよ。あの蒼凪山の近くにある樹海。」
闇氷「なんでそこにあいつがいんだよ?」
「まぁ⋯あいつらに転移なりなんなりされて連れて来られた以外ないよねぇ⋯」
闇氷「⋯チッ、面倒な事を⋯」
そう言い、走り出そうとしたときだった。
「⋯なぁ、闇氷。」
闇氷「あぁ?」
「その子を助けたいって思ったのは、いつからなのかな?」
闇氷「…知るか」
それだけ吐き捨てて、闇氷は樹海へ走り出した。
女はその背中を見送りながら、ぽつりと呟いた。
「…闇氷もなんだかんだ優しいなぁ。コハは幸せ者だねぇ。⋯さて」
女はフードを取り、いつも顔に付けてる布を外すと、上着を変えてフードを被り、狐の面のような物をつけた。
「⋯今回は、俺も表舞台に立つとするかな。」
雰囲気を変えた女は蒼凪山方面を見据え、蒼い桜と共に消えた。
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