【小説】真夏の追憶《三話》
前話→ https://tohyotalk.com/question/545917
━━━━━
「龍宮城」の城内に入った俺は圧倒された。
上も横も無駄にスペースのある大広間。両サイドにずらりと並んでいる女性。中央には大きな階段。その階段の数段上がったところには年配の男女が数人。年配の男女らには、左右両方の側頭部から角が生えている。最上段には、ど真ん中の豪華な椅子に座っている、煌びやかな装飾を身に纏った美しい女性がいた。女性にも、大きく立派な龍の角が2本生えていた。その女性の両手には2匹の龍がいる。女性の右手の龍は右に角が、左手の龍には左に角が一本ずつ生えている。彼女の右手側の龍は、さっき背中に乗って俺をここまで連れてきた「彼」だった。
椅子に座り、頬杖をついているその美しい女性は、綺麗な扇子と鋭い目線をこちらに向け、
「名乗れ。」
とだけ言った。
「………え、あ…」
「名乗れ!」
「く、倶利伽羅 峠です!」
「くり…から?とうげ?ふん、奇妙な名だ。」
名前について文句を言われ、眉をひそめた。結構気に入っているのだ。
「事情はきいている。貴様は極刑に値する。」
極刑。一体俺が何をしたというのだ。
「え…ひ、人違いやろ。俺なんもしてへん…」
「自覚がないというのか…!何の断りもなく勝手に竜の都に侵入し、采女に話しかけ、挙句には禁句を使っておいて、自覚がないなど言語道断。すみやかに処刑せよ!」
勝手に侵入したのではなくいつのまにか迷い込んでいただけだし、采女って誰かわらないし、禁句使っただけでこんなにキレられるとは思わないだろう、普通。
と思った瞬間、周りに並んでいた人たちが俺を羽交い絞めにしてきた。
俺は抵抗むなしく、牢屋に入れられた。
牢屋といっても、たたみ二畳ほどの部屋に、丁寧に畳み込まれた布団と小さな机がおいてあり、壁には小窓もついていて日光が入ってくるため明るい。少し狭い普通の部屋である。小窓も、自分くらいの大きさの子供なら抜け出せそうな大きさだ。木の格子のせいで部屋が丸見えなのは少し恥ずかしいが。
やることもないので畳に寝転がり、ぼうっと天井を眺めた。
多分、これは夢だ。夢の中で夢だと自覚する…明晰夢というやつだろう。きっと、岩で滑ったときに頭を打ったかして気絶しているのだ。はやく夢から覚めてくれないか。
なんてことを考えていると、巫女服の子供──伊与が牢屋の前までやって来た。
「だ、大丈夫ですか…?」
「まあ」
「すぐに出してあげますからね、少し待っていてください。」
「いや、別に俺ここから出たいとは思ってな…」
すると伊与は牢屋の格子を燃やし始めた。
「おい待て、焼き殺すつもりかよ。」
「そうではなくて!木を燃やして出口を…」
「ほんなら、あの窓からでも出られそうやけど。大きさ的に。」
俺はあの小窓を指さした。
「…そ、そうですね。では裏で待っています。」
伊与は裏へ回っていった。伊与の計画では俺がここから脱獄することが前提らしい。俺は脱獄する気は無いが。
仕方なく伊与のために小窓から牢屋を脱出した。
小窓の外は城の庭らしく、塀を越えれば外へ出られそうだ。
庭は日当たりがよく、女らが洗濯物を干していた。伊与は見当たらなかった。
「え、あんただれ。」
ひとりの女がこちらを見て言った。すると次々に
「うわ、侵入者?」
「もしかして新人の雑用婦だったり。」
「馬鹿、あれは男の子供だよ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。静かにしてもらわないと脱走がばれてしまうかもしれない。
「あ、すんません。あの…えーっと、し、新人です。峠っていいます。男…やけど、その、人手が足りないっぽくて。」
思い付きで喋っているから、全てでたらめである。既に十数人もの女がいるのに「人手が足りないから」は流石に無理がありそうだ。
しかし彼女らは以外にも、人を疑うことを知らなかった。
「確かに、ちょっと人手足りないかも。」
「新人なのね、よろしくね!峠ちゃん。」
「男か…!力仕事任せられるねえ。」
男といってもまだ子供なのだが、彼女らの純粋な期待のまなざしに答えないなんてことはできなかった。
服も変な服だと言われ無理矢理着替えさせられた。しかしこれで見た目はカモフラージュできた気はする。
「着替えも済んだことだし、さっさと働くんだよ!」
気の強い女は苦手である。
次から次へと運び込まれる洗濯物の山に嫌気がさしてきたところ、
「そろそろひと休憩入れるかい?」
休憩タイムがやってきた。
ここで俺は、気になることを全て訊いてみることにした。
「ここって、竜宮城なんよな。てことはさ、女王って、乙姫?」
「そうだよ、当たり前だろう。あと『様』をつけるんだよ!」
「乙姫…様って、めっちゃ厳しくない…ですか?」
「そうだねえ…城主になる前はそうでもなかったんだけど。権力に溺れたってやつかねえ。」
「そういえば、最近ここに人間が迷い込んできたらしいね。ほんと結界緩くなりすぎ。」
「その人間も処刑されたらしいな。かわいそうに。」
「あっ、もう処刑されたのかい?」
「人間が侵入したことすら知らなかったわよ!ねえ、峠ちゃん。」
「そ…そうやな…はは。」
冗談じゃない、こんなところにまで侵入が知られていたとは。しかし顔が知られていなかったのは幸いだった。それと、俺はまだ処刑されていない。
そのとき、遠くの方から低く重い轟音が響いた。
━━━━━
こんにちは、どこもです。続きましたね、三話まで。良かった。
乙姫との会話シーンをかなり削ったのですが、下働き女たちとの雑談のせいでやはり長くなりました(笑)。
トピ画は…なんだかカッコいい龍のフリー画像です。
読んでいただきありがとうございます!
左右両方の側頭部から角が生えている
ここ好き(なぜ)
今日も面白かった!!!
乙姫…様の性格がブス!!()
次も楽しみにしてます!