空想小説「青鬼」 まとめ6 蒼凪山へ
氷河「案の定、か…」
ひろし「これは…結界…?」
トンネルの出口には、半透明のガラスのような物が張られていた。ひろしはそれを信じ難い目で見ていた。
美香「氷ちゃんって、こういう気配に敏感なの?」
氷河「まぁ、少し。ただ、そのせいで結構なビビりですけどね…」
氷河は苦笑しながら言った。
水刃「この結界…多分誰かが意図的に張った物ね。」
水刃さんが結界を見て言った。
ひろし「意図的に?」
水刃「えぇ。随分と昔の書物に、跡切れ跡切れだけれど、こんな事が書かれていたのよ。『悪しき者、この場、唯一、扉、結界、張る 村、孤島、化し、民、苦しむ』状況が今と全く同じだわ。その悪しき者がやったのか、あるいは…」
たけし「この結界…氷河のナイフで何とか出来ないのか…?」
氷河「うーん…じゃあ、ちょっとやってみるか。ちょっと待ってて。…あ、危ないから離れててね。…はぁっ!」
氷河がナイフを構え、結界目掛けてナイフを投げつけると、ナイフは粉々に砕け散ってしまった。
氷河「…はぁ…!!?」
まさか粉々になるとは思わず、これには氷河も唖然とした。
ひろし「氷河のナイフが粉々に…これは…迂闊に触れると危険な物ですね…」
卓郎「んな事より、氷のナイフ砕けちまったぜ!?どうすんだよ!?」
氷河「あぁ、その件なら大丈夫ですよ。スペアはいくらでもありますから!」
氷河はナイフを指に2、3本挟んで見せた。
卓郎「どっから出してんだよ!!?」
氷河「さぁな?」
卓郎「いやいやいや、さぁな、じゃなくて…」
美香「でも、氷ちゃんのナイフも駄目ならどうするのよ?」
たけし「どうするって言われてもなぁ…」
卓郎「じゃあまず、この結界を張った奴を探そうぜ。」
氷河「探すって言っても、あてもなく探し回るって言うのは帰って危険だと思うし、結構無謀だと思うけど…」
氷河がそう言うと、水刃さんが口を開いた。
水刃「なら、蒼凪山に行ってこの村を一望してきたらどうかしら。そして、別の探索できそうな場所を探して行くのはどうかしら。なにか手がかりがあればいいんだけれど…」
ひろし「それでは、その蒼凪山に向かってみましょうか。」
卓郎「よし、じゃあ早速行こうぜ!」
卓郎が行こうとすると、水刃さんが呼び止めた。
水刃「待って。あそこは夏とはいえ、上の方は雪が降るほど寒いわ。だから上着を持って行くのをおすすめするわ。」
美香「でも、上着なんて夏場はまっぴら着てないから持ってるわけ無いわよ?…氷ちゃんは腰に巻いてるけど。」
氷河「あはは…」
水刃「宿にあるのを持って行けばいいわ。私、こう見えて裁縫が大の得意なのよ!おまけに趣味でもあるから、いっぱい服とかを作ってるの。だから全然使ってもらって大丈夫よ!」
水刃さんは自分に任せて、という表情で言った。
氷河「じゃあ、一回宿に戻りましょうか。」
6人はまた宿へ戻っていった。
水刃「ここが私が趣味で作った服を置いてある部屋よ。」
水刃さんが案内してくれた部屋に行くと、そこには最早お店のように沢山の服が掛けられていた。
美香「わぁ〜!水刃さんって器用なのね!」
水刃「ふふっ、よく言われた事あるわ。じゃあ、好きなのを選んで。皆のサイズに合うのはその辺りよ。」
水刃さんは指を指して教えた。ひろし、たけし、美香、卓郎の4人は服を選んでいった。
卓郎「選んだはいいが、これ、どうやって持ち運べばいいんだ…?」
水刃「氷河ちゃんみたいに腰に巻けばいいわよ。」
卓郎の質問にもすぐに答えていった。
美香「うん、皆選び終わったわね!」
ひろし「それでは、改めて蒼凪山に向かいましょうか。」
水刃「気をつけてね。蒼凪山の下の方は採掘場になっているのだけれど、もしかしたら脆くなってるかもしれないから…」
卓郎「OK、忠告サンキューな、水刃さん!」
美香「じゃ、行くわよー!!」
氷河「ちょ、急かさないで下さいって〜!」
5人は蒼凪山へ走っていった。水刃さんはそれを見送った後、小声で呟いた。
水刃「皆を守ってやってくださいね…氷河…」
氷河…の後も何か言っていたが、その箇所は最早誰にも聞き取れない声だった。
5人は蒼凪山に到着した。
卓郎「ここが蒼凪山だな。」
美香「水刃さんの言った通り下は採掘場になっているわね。」
卓郎と美香は蒼凪山を前に、意気込んでいた。そんな2人に氷河は呆れながら言った。
氷河「あのぉ、お二方…私が水刃さんから預かってきた地図なかったらどうする気だったんですか…?」
氷河は水刃さんお手製のバックに地図を直しながら言った。
美香「きっとなんとかなってたわよ!」
氷河「えぇ…」
氷河は少し困惑しながら言った。
たけし「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」
ひろし「た、たけし…」
たけしは恐怖のあまり動けずにいた。
氷河「あのー…たけしさんの事どうしましょう…」
美香「たけしが動かないの?そんな時はっ、斜め35度からドーン!」
氷河『古い昭和のテレビかよ…』
たけし「痛ってぇ!」
美香がたけしの頭にチョップをくらわせた後、
美香「行・く・わ・よ?」
とニッコニコで言った。
たけし「ああぁあぁぁ…」
ひろし「全く…」
卓郎「どうしたひろし。あんまり乗り気じゃねぇな。」
呆れるひろしに卓郎が言うと、ひろしは呆れた口調で言った。
ひろし「当然です。そもそもこんな状況の中、乗り気になりませんよ。」
氷河「右に同じ。」
たけし「俺も氷河とひろしに同感だぜ…」
美香「そーお?私は乗り気よ?」
卓郎「もちろん俺もだぜ!探検って感じがしていいじゃねぇか!」
氷河「いやまぁ、実際こんな状況じゃなかったら私も乗ってたかもしれないけど…」
卓郎「それじゃ、突撃するぜ〜!!!」
美香「おおおぉぉぉ〜!!」
氷河「どうしてこんなにやる気があるのやら…行きましょうか、ひろしさん、たけしさん…」
ひろし「そうですね…」
たけし「お、おぉ…」
氷河達も半分呆れながら2人の後を追いかけていった。
ひろし「足元に注意してくださいね、皆さん。」
卓郎「うおぉ〜、暗ぇ〜…」
水刃さんの言った通り、中はとても暗かった。
氷河「私はそうでもありませんが…」
美香「氷ちゃん、夜目が効くの?」
氷河「はい、少しは…あ、そうだ、皆さん!これを。」
氷河は水刃さんお手製バックから氷河が使っている氷雪のナイフのスペアを取り出した。
美香「これ…氷ちゃんのナイフ?」
氷河「はい、万一の時の護身用に。」
たけし「で、でも、扱い方、全く知らないぞ…?」
たけしが自信なさげに言うと、氷河は明るく言った。
氷河「大丈夫ですよ。習うより慣れろ、です!」
卓郎「ま、そうだな!」
卓郎はすんなり受け入れたようだ。
たけし「か、軽いなぁ…」
美香「早速試したいところだけど、肝心の青鬼がいないわね…」
氷河「!」
美香が言った言葉にひろしと氷河が反応した。
ひろし「青鬼?それは、あの青い化け物の事でしょうか?」
美香「そうそう!『青い化け物』じゃちょっと長くて面倒でしょ?だから簡単に省略して『青鬼』って言ってみたのよ。」
ひろし「なるほど。いい考えですね。」
氷河「いいですね、青鬼!じゃあ今からあの青い化け物は青鬼と呼びましょうか!」
『…ま、美香さんから言われる前からそう呼んでたんだけどな…』
卓郎「流石だぜ、美香!」
美香「うふふっ、こんなの私にかかれば当然よっ!」
卓郎に褒められて美香は顔を赤らめて照れた。
たけし「で、でも、あ、青鬼がいないだけ安全でいいじゃんか…!」
ひろし「確かに、たけしの言う通りですね。」
卓郎「じゃあ、進もうぜ、皆!」
氷河「了解です。」
美香「おーっ!」
5人はさらなる奥地へ進んでいった。
ひろし「随分と進みましたね…」
卓郎「そうだな…ってうわっ!!」
突然、強烈な揺れが襲った。周りに石がパラパラと落ちていく。
たけし「な、何だよこの揺れっ…!!ガタガタガタガタ」
揺れは5秒程で収まった。
氷河「お、収まりましたね…」
美香「あ、危ないわね…」
ひろし「警戒していきましょうか…」
そして、4分ほど黙々と進んでいったが、卓郎が口を開いた。
卓郎「で、もっと進んだわけだが…」
美香「ずっと洞窟ね…」
たけし「これ、出口あるのか…?」
たけしが半泣き声で言うと、
氷河「デジャヴですか、たけしさ…!!?」
と言いかけたその時、さっきの揺れが襲ってきた。しかも、さっきよりも揺れが強かった。
ひろしが「これは…どこか崩壊するかもしれませ」
氷河「ひろし!危ねぇっ!!!」
ひろしが上を見上げ、そう言いかけた瞬間、氷河が走ってひろしの事を突き飛ばした。
ひろし「えっ…!?ぐっ…」
ひろしは突き飛ばされた影響で1、2mほど転がっていった。氷河は反動でひろしのいた所で倒れていた。氷河が立ち上がろうとしたその時、上が崩落してきた。
氷河「っつ…はっ…!!うわああああああっ!!!」
氷河はとっさに走り出すが間に合わず、崩落に巻き込まれてしまった。
卓郎「氷っ!!!」
美香「氷ちゃん、大丈夫!?」
どうやら床も脆かったらしく、落石の影響で床も抜けてしまっていたようだ。しかし、そのおかげで岩が分散され、潰されずにすんだようだ。
氷河「だ、大丈夫です…!た、ただ、ここからじゃ上がれなくて…」
ひろし「け、怪我などはありませんか…!?」
氷河「やばい怪我はしてないので大丈夫ですよ、ひろしさん!」
ひろし「な、なら良かったです…」
ひろしは氷河が無事な事に安心した。ひろしは、自分のせいでこんな事になった事を責任に感じていた。
たけし「じゃあ、すぐにロープ探しに行くからな…!」
氷河「ありがとうございます!…って嘘だろ、青鬼共が…」
氷河のその言葉を聞いた瞬間、美香が反応した。
美香「えっ!青鬼がいるの!?私も行くわ!!」
卓郎「行く…って飛び降りるのか!?」
たけし「危ないって、美香!」
卓郎とたけしが制止しようとするが…
ひろし「…時既に遅し、ですね…」
とっくに美香は飛び降りていた。
氷河「ほ、本当に飛び降りたんですか、美香さん…」
美香「怪我は無いから大丈夫よ!さぁ、行くわよ〜!」
氷河「ちょ、無茶しないで下さいよ!?」
自ら危険なとこに来る美香さんに啞然としながらも、青鬼が近くにいるのでそんな事考えてられない、と切り替え、応戦していった。
ひろし たけし 卓郎「………」
上に残った三人はしばらくフリーズしていた。そして、たけしが口を開いた。
たけし「…ロープ…探しに行くか…」
卓郎「そ…そうだな…」
3人はロープを探しに向かった。
卓郎「探しに行くはいいが、この辺にロープなんかあるか?」
ひろし「採掘場なら、どこかに小屋や物置部屋があるはずでしょう。そこにロープは常時置いてあると思いますが…」
卓郎「おぉ!流石ひろし!じゃあ、物置小屋を探すか!」
たけし「何か混ざってね…?」
3人は物置小屋を探しに行った。
一方その頃、美香と氷河はというと、もう既に青鬼を全員一掃していた。
美香「ふう、全員片付けれたわね!」
氷河「美香さん…素手でも青鬼を吹っ飛ばせるって…」
戦いを見ていた氷河は、美香が襲ってくる青鬼を体術でふっ飛ばした事に唖然としていた。
美香「まあでも、ちゃんと倒すには氷河のナイフが必要だけどね。私一人で出来るのは精々気絶させるくらいかしらね…」
氷河「それが生身の人間で出来る時点で十分やばいですよ、美香さん…」
美香「まぁ私、学校と習い事で柔道とか空手とかやってるからね。大会でも優勝してるのよ。」
氷河「なるほど、強いわけです…」
氷河は美香の強さに呆れていた。
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