【小説】「好き」を何度でも 第十一章④
前回のお話[第十一章③]
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彼女のお願い…それはこういうものだった。
「うわぁ、水族館なんていつぶりだろ〜?」
僕は隣ではしゃぐ渚実を見つめた。あの日、渚実から告げられたお願い。
ー『私の思い出作り手伝ってくれない?…高校生の頃に勇都くんとやったこと、やりたい。』ー
僕の名前を呼んだことがある。そう思ったってことは、きっと何か色々楽しいことをやってたはずだ。そういうわけらしい。それを全部忘れてるなんて勿体ない。もう一度僕にそれをやらせるのは申し訳ないけど、協力してくれないか。というわけで、僕と渚実が一番最初にきた場所である水族館に来ていた。
「記念に写真撮りたい〜。」
「嫌だ。」
「なんでー!?」
「高校生の時通りだとそうなるんだけど…」
高校生の時に僕とやったことをそのままやってみたい。そう言ったのは渚実のはずだった。
「でも、いいよ。写真撮りたいんだったら。」
「え、待って。高校生の時通りだとそうなるってなんで?」
「教えないー。」
「ズル〜ッ!」
本当に楽しかった。ただただ心の底から。また渚実と会えて、こんなことを出来ているなんて夢みたいだった。それでやっと…確信した。僕は自分が思っていたより渚実に会いたがっていたということ。渚実と過ごした日々が愛おしかったということ。こんなに…こんなに好きだったんだ。彼女との日々が。…彼女のことが。
「どうかした?」
「いや、何も。」
僕が一人笑っているとそう渚実が尋ねた。…この時決めた。この夏は渚実を花火大会に誘おう、と。今度は僕は誘うんだ。二人で浴衣を買いに行って。今度は僕も渚実の浴衣について意見を言って。これはきっと…僕へのチャンスだ。本当は僕から誘いたかったこと。本当は僕から言いたかったこと。渚実とやりたかったこと。やり残したことばかりの僕のこれまでの人生。僕の恋。やり直すチャンスだから…。今度こそちゃんと…言いたい。僕と一緒にいてくれてありがとう。そして…付き合って欲しい、と。あの日言えなかった言葉を…。
そしてそれからも色々なことを渚実とした。遊園地に行ったり、ピクニックをしたり。通っていた高校の校門の前へも行った。そして…あることにたどり着いたのだった。
「次は何?」
「次はねぇ…」
「次は…?」
「僕が渚実の彼氏のフリをする。」
そう。ついに来てしまった。渚実の彼氏のフリをする時に。
「冗談?」
「いや大真面目だけど。」
「ちょっと待って。これで真面目とかバカ?」
「だったらバカだったのは渚実だなぁ。」
僕たちは最近、ちょっとズレた会話をしている。何も知らない…忘れてしまった渚実。その中で全てを覚えていて、やり直すチャンスとしてこの状況を捉えている僕。出来るだけ、また最初から…僕も何も知らないようなふうにしたいとは思う。だけど、渚実に『次は何?』と聞かれると、その時の記憶を思い出さずにはいられない。だから自然と、他から聞くとすごくズレてる会話になるのだ。
「バカだったのは私ってどういうこと?」
「だってこれを言い出したのは君だからね。」
「嘘。」
「嘘じゃない。」
そう僕が言うと、渚実はテーブルに突っ伏した。
「勇都くん嘘つくとすぐ顔に出るから本当なのは分かるけどぉ…。あぁぁぁぁぁ、バカ。マジでバカ。私はバカだった。そんなことなんで言ったんだろ…?」
「姉を黙らせるため?それしか僕だって知らないし僕に聞くなよ。」
僕が知るわけなかった。あの時、渚実がどういうことを考えて僕に頼んでいたのか。他にいくらでも相手はいるはずなのに。
「どう考えても頼む相手間違ってる。」
「失礼な。」
「冗談だよ。」
「で?どうすんの。やりたくないなら別にやる必要はない。」
あの時は、姉を黙らせる必要があったかもしれない。だけど今は、その必要は全くなくて。だったらそんなことをする必要はない。やりたくないならやらなければいい。
「いや、やる。」
「は?やっぱりバカだな。」
「私が言ったから。高校生に勇都くんとやったこと全部やりたいって。だから責任持ってやりますっ!」
「それで僕はどうなるわけ…?」
とにかく心配しかなかった。だけど…この心配はあの時の心配とは違った。今は心配なだけじゃなくて、『やってやろう』というような気持ちだった。どうせならやってみよう。…本当に僕は渚実のせいでどうかしてしまったらしい。そう思いながら僕は笑みを浮かべた。どうせやるんだったら楽しんでみようじゃないか。