紅剣物語第9話「細い糸」
ヒロトとチュウニが医療器具を買いに街に出ていた頃…
「私の継承者は、お前のことか」
突然、剣から声が聞こえた。その言葉が何度もソラの頭の中で反芻され、ソラは落ち着かなかった。部屋の椅子にはアキトが座り、ぐっすり眠っている。銃弾を受けた傷は依然として激痛を伴っていたが、不意にその痛みが消えた。
「この剣は傷を完全に癒すことができるのだよ」
また同じ声が繰り返し反芻される。
「誰がお前は?」
ソラが答える。そして寝ているソラの隣に置いてあった剣が紅く光った。
「かつての剣の保有者の魂そのものだ」
この剣は父から授かった。ということはかつての保有者はソラの父にあたる。
「びっくりするにも無理はない。なんせ剣に魂の意志が乗り移っているのだから」
「傷を治してくれてありがとうよ」
「お前はこの剣を抜くことができる。お前がこの剣の継承者に選ばれたからだ」
「継承者?」
「そうだ、この剣は選ばれし者しか使うことのできない、最強の剣なのだよ」
剣がそう言う。
「選ばれたことはありがたいが、そんな伝説みたいな話信じると思うか?」
ソラは挑戦的な口調でそう問いかける。
剣は呆れた声で返す。
「この剣は特別だ。剣を抜くに相応しい魂を持ったものだけが使えるのだよ」
「それじゃあ理由になってないだろ。〇〇構文みたいなこと言うなよ」
「ではあの椅子に座っているガキに剣を抜かせてみろ。抜けないから」
めんどくさいな、と内心思いながらソラはアキトを大声で呼んだ。
アキトが目覚め、ソラを見る。
「ソラ!やっと起きたんだね。無事でよかった」
「そんなことはいい。この剣を抜いてみてくれないか」
「なんで?」
「いいから早く」
怪訝な表情をしつつも、アキトは立ち上がり剣を持った。そして力を加え抜こうとする。
「あれ、抜けないな」
アキトはもう一度力を加えるが、無駄だった。
「ほらみろ、抜けないだろ」
剣が頭の中でそう言う。
「でもなんで…」
「要は魂の質の問題だよ。あのガキには、剣を満足させるだけの魂の重みがない。まぁ普通のガキだから仕方ないが」
「そんな…俺の魂はそんなに凄かったか?」
「まぁ前の保有者の血統なのだから、抜けない方がおかしい。抜けて当然なんだよ」
「なんだよそれ」
いきなり、ドアが鳴った。誰かがドアを叩いている。
アキトがドアを開けようとしたが、ドアは勢いよく蹴られ、1人の女が部屋に入ってきた。
「あなたが紅剣の保有者ね!」
世にも珍しい赤目と黒髪ロングで顔の整った女はそう言った。だが女の視線はアキトに向けられていた。
「あの、今の保有者は俺ですけど…」
「え?」
女の視線がアキトからソラの方へ向けられる。
「あなたのような病人が伝説の剣の保有者な訳ありません」
女の口調が急に荒くなった。
「怪我人だよ。初対面なのだからまず自己紹介から始めろよ」
ソラはそう言う。初対面のくせに生意気な女だと思った。
「私はナイラ・スヴェイン。反火星連盟所属の戦闘員でチュウニさんの後輩よ」
「チュウニの後輩?ていうことは士官学校生?」
「士官学校はもう辞めたわ。連盟隊長ヴァルガン少将の影響を受け地球解放のための聖戦に参加するの」
いきなり反火星だとか少将だとかでソラの頭は一時的に混乱した。その隙を尽いてソフィアはソラの隣の剣を奪おうとする
「おい継承者君。このままでは君の大事な剣が奪われてしまうよ!」
剣がそう叫ぶ。
「させるものか!」
ソラは立ち上がり、ソフィアの行手を塞いだ。
だがソフィアは急に拳をソラの顔面に突き出した。
ソラは殴られた。
「ぐっ…!」
ソラは怯んだが拳をナイラの腹に突き出す。
ソラはよろめき、反撃で腹に殴りを入れるがナイラはかわして勢いよく腰を蹴る。二人はベッドの上に倒れこんだ。
「今だ継承者!剣を奪われる前に早く部屋から逃げろ!」
「言われなくてもやるよ!」
ソラは剣を手に取りナイラより先に走り出した。部屋のドアを乱暴に開け部屋を出る。
「ちょっとソラ、どこ行くの?」
「待ちなさい。その剣は連盟が預かります!」
ナイラが追いかけてくるのが分かったが、ソラは階段に行くドアを開けると急いでドアの鍵を閉める。なんでこんなところに鍵があるのかと思ったがそんなことを考える暇はなかった。
ソラは走り続ける。長年行方不明だった父と、やっと細い糸で結ばれたような気がした。
ーーーーーー
暗闇である。
ここは彼らのアジトだった。電気もなく周りがよく見えないが、彼らにとってはそれで十分だった。
「おいアヴィーデ。また悪ふざけか」
セレナがアヴィーデに対してそう言う。
「だから悪ふざけじゃないってば。これは異物の倅から紅の剣を奪うための効率的な作戦さ」
「だからと言って倅の寝ている間に剣をお前の模倣品に差し替えて倅をコントロールするのか?」
「あぁそうさ。実際倅は剣を信用し切っているようだし」
アヴィーデはため息混じりにそう言った。
「で、これからどうするのだ?」
タンが尋ねる。
「とりあえず倅の仲間は勘違いして犯罪者グループと戦うことになってるし、倅と反火星連盟との接触も防いだ。あとは倅をうまく誘導して引き摺り出せばいい」
アヴィーデがそう言うと、タンは頷いた。
「私は反対だ。この3人で一気に奇襲をかければ、倅などすぐに始末できるというのに」
セレナが挑発的な声でそう言う。
「まぁいいでしょこれくらい。ただのゲームさ。人間を操る」
アヴィーデは楽しげに続けた。

