空想小説「青鬼」 第60話 琥珀色の少年
グラブ「え?」
闇氷「あっちから抜ける以上、その名前を使う意味はもうないからな。」
グラブ「な、名前を…変えるんですか?」
闇氷「あぁ。お前が本気でこっち側に来るつもりなら、名前くらいは替えといた方がいい。元の名前じゃ一発で割れるだろ。」
グラブ「そ、そんな…でも僕、この名前…闇氷様につけていただいた名前なんですよ…!」
闇氷「…あぁー⋯そういやそうだったな。」
氷河「え、それ闇氷がつけたの!?」
闇氷「あぁ⋯昔、あそこで出会った時にな」
グラブ「僕、闇氷様から貰った名前、すごく気に入ってるんです。だから、できれば変えたくないです…!」
闇氷「…そうか⋯なら、俺が新しい名付けをするってのはどうだ?俺の名前なら何でもいいんだろ?」
グラブ「えっ…!いいんですか!?闇氷様が、また僕に名前を…!?」
闇氷「そうでもしねぇとお前梃子でも名前変えないだろ」
氷河「まぁ、そんな雰囲気はつくづく⋯」
グラブ「うぅ…でも、闇氷様が新しくつけてくれるなら…全然構いません!むしろ光栄です!」
闇氷「そう言うと思った…まぁ、どうせ変えるならお前らしいのにしてやるよ。」
そう言い、無言でじっとグラブを見つめる。
闇氷『⋯と言ったはいいものの⋯かなり面倒いな⋯こいつに合いそうな奴⋯もう色で決めるか⋯橙⋯茶⋯木⋯樹石⋯あ』
ふと、グラブの耳元で揺れる耳飾りに目が行った。
それは随分と昔、グラブが見つけてプレゼントしてくれた綺麗な石を貰った際、物持ちが良くない自分が持ってても仕方ないからと、慣れない手つきでその石を耳飾りにして、前の礼だとグラブにプレゼントした物だった。
今は欠けて傷だらけで相当色褪せているが、当時の色がまだ少し残っていた。
その色は。
闇氷「⋯コハク。」
グラブ「こはく…?」
闇氷「あぁ。お前の耳飾りの色だ。もう随分とボロボロだが、元は琥珀色だったはずだ。」
グラブ「あぁ⋯!覚えてます!闇氷様が僕にプレゼントしてくれた…!」
闇氷『元はお前が寄越した石なんだがな⋯』
「まぁ、そんなんだが⋯文句はな」
グラブ「ないですよ!ないに決まってるじゃないですか!!」
闇氷「うるせぇよ⋯もう少し声を抑えろ⋯」
グラブ「す、すみませんっ…!でも…ほんとに嬉しくて…!」
氷河「あ、でもさ⋯折角なら苗字も考えた方がいいんじゃない?」
闇氷「⋯⋯⋯⋯⋯」←余計な仕事を増やすなという顔
氷河「⋯まぁ⋯言っちゃったのは仕方ないし考えたら?それか自分が考える?」
闇氷「却下」
氷河「頑なだなぁ⋯」
闇氷「⋯はぁ⋯まぁ、苗字がないってのも不自然か⋯」
不服そうな顔をしながらもグラブを見つめる。
闇氷『はぁ⋯めんどい仕事を増やしやがってクソ姉貴が⋯もう禄に考えたくねぇしコハクっぽい漢字適当に繋げるか⋯コハクと言や樹液が化石化した宝石だよな⋯よく綺麗な石とか拾ってきてたし石でも入れるか⋯後何だ?⋯そういやコハクの宝石って大地の力がなんとかかんとか⋯そういやこいつ一応地面系統の何か使えたな?じゃあ地面とか大地とか⋯共通してる字は地か⋯石と地⋯』
闇氷「⋯地石だ」
グラブ「ちせき⋯ですか?」
闇氷「お前確か地面系統の何か使えたろ。地面系の漢字で適当に考えただけだ。」
氷河「適当って言う割には由来結構ちゃんとしてるじゃん。」
闇氷「俺の中では適当だ。それっぽい意味がありゃ十分だろ。」
グラブ「いえ…すごくいいと思います!地石 コハク⋯ですよね?なんか…すごくしっくりきます!」
闇氷「…ならそれでいい」
氷河「グチグチ言ってたけど案外早く決まったじゃん。」
闇氷「長々考えるもんでもねぇだろ。どうせ呼ぶ時はコハクだけだ。」
グラブ──いや、コハクはその言葉にぱっと顔を輝かせた。
コハク「それでも…闇氷様が考えてくださった名前なんです!大事にします!!」
氷河「⋯この子ほんっと純粋だなぁ⋯それで、どうする?流石にあっち側から来たなんて言えないよね⋯?」
闇氷「まぁ、そうだな⋯だが、あいつらにはこいつの存在は示唆してんだよ。だからまぁ⋯適当にここに迷い込んできたって体でいいだろ。」
氷河「⋯やっぱりちゃんと考えてるよね?」
闇氷「気の所為だ、さっさと行くぞ」
闇氷はコハクを連れて玄関口へ向かった。
―――――――――
闇氷「⋯戻った。」
闇氷は玄関口の戸を引いて顔を出した。
卓郎「おぉ、戻ったか!」
たけし「⋯って、その子誰だ⋯?」
闇氷「あぁ、こいつは⋯」
美香「えぇ!?ちょっと闇ちゃん何その子!?可愛い――っきゃっ!?」
走ってくる美香に闇氷は鞘付きのナイフを突き出した。
闇氷「⋯近寄んなフィジカル女が」
氷河『⋯なんだろう、セコム味を感じる⋯』
美香「もう、びっくりしたじゃない!いきなりナイフを突き出してくるなんて!」
闇氷「鞘付きなだけありがたいと思え」
ひろし「闇氷⋯いくら鞘付きだとしても刃物を人に向けるのはよくありませんよ。」
闇氷「うるせぇな⋯条件反射だ。」
水刃「条件反射のレベルを超えてると思うのだけれどー⋯」
闇氷「こいつがさっき戸を叩いてきた奴だな。ここに迷い込んできたらしい。」
コハク「地石 コハクと言います!闇氷様にはお世話になってます!」
闇氷「おい待てお前こいつらの前で様付けするんじゃねぇ」
たけし「さ⋯様付け⋯?え⋯関係性って⋯」
コハク「恩人です!」
闇氷「⋯あー⋯一応言っとくがこいつが勝手に様付けしてるだけだからな、俺が強調したとかじゃねぇからなマジで」
卓郎「お、おぉ…なるほどな…恩人か…」
氷河『きっちり誤解されてる前提で喋ってるね…』
水刃「でも様付けされるって事は、相当尊敬されてるってことでしょう?闇氷ちゃん、意外と面倒見いいのね〜」
闇氷「いや⋯誤解すんな宿主⋯面倒見た覚えなんざねぇ⋯」
ひろし「⋯見事なまでの主従関係ですね⋯」
美香「⋯ねぇ、もしかしてこの前話してた子って⋯」
闇氷「⋯こいつだ。」
美香「えー!!闇ちゃんに懐いてついて来てた子っていうのがその子だったのね!!」
闇氷「うるせぇ⋯⋯」
氷河「うん、これは完全に保護者と懐きっ子構図だね…」
水刃「ふふっ、闇氷ちゃんも根はとっても優しい子だから、その優しさで懐いちゃうのかしらね〜」
コハク「闇氷様は僕の命の恩人ですから!」
闇氷「だから様をつけんなって言ってんだろ…後俺の昔の性格終わってるからな?」
美香「あ〜もう尊い!クール系の闇ちゃんが無自覚に慕われてる構図って最高なんですけど!!」
闇氷「おいフィジカル女、変な方向で盛り上がんな」
コハク「僕は闇氷様に助けてもらって、生きる理由をもらったんです!慕うのは当然です!!」
水刃「あらあら、真っ直ぐな子ね。まぁ、ずっと立たせてるのは良くないから、上がっておいで!」
コハク「あっ…はいっ!お邪魔します!」
コハクは靴を脱いで綺麗に揃えると闇氷と共に居間へ向かった。
―――――――――
闇氷「⋯で、居間に来て座ったはいいがどうすんだよ?」
氷河「自分達の自己紹介でもする?」
卓郎「あー、そうだな。折角だしやっとくか。」
美香「いいわね!じゃあ私から!私は赤水 美香!力には自信があるわ!よろしくね、コハクくん!」
コハク「はいっ!よろしくお願いします!」
水刃「私は三上 水刃。この宿の運営をしてるわ。得意な事と言ったらお料理とお裁縫とかかしらね。よろしくね。」
コハク「はいっ!水刃さん、よろしくお願いします!」
たけし「俺は、黄河 たけしだ⋯色々とビビりだが⋯よろしく⋯」
コハク「はい、よろしくお願いします!」
ひろし「私は白河 ひろしと言います。よく頭脳系の事を任されます。よろしくお願いします。」
コハク「はいっ!こちらこそよろしくお願いします!」
氷河「自分は雪原 氷河。なんだかんだ闇氷の姉やってて、一応主戦力は名乗って⋯いいのかな?」
闇氷「名乗っていいが体の限界をきっちり分かれバカが」
氷河「ぅ⋯まぁ闇氷もやっとく?」
闇氷「こいつに俺の説明不要だろ。紹介も何もねぇ。」
水刃「ふふっ、まぁいつも通りね。」
コハク「えっと…皆さん、本当に優しそうな方ばかりで…これからよろしくお願いします!」
闇氷「…まぁ、ここにいる以上は迷惑かけんなよ。ってハクモは?」
ハクモ「ここだよー!」
コハク「うわぁっ!!?」
ソファーの後ろから現れたハクモにコハクは大層驚いた反応を見せた。
氷河「まーた驚かせてるよ⋯マイブームなの?」
ハクモ「うん!せっかく人の姿になれるならいっぱい使わなきゃねー!あ、僕は白神 ハクモだよー!こう見えて神獣なんだー!よろしくねー!」
コハク「え、あ、え、神獣ですか…!?それって」
闇氷「まぁここは色々と常識は通用しねぇ。変に考えたら疲れるだけだから考えるな。」
コハク「あ⋯は、はい⋯」
闇氷「まぁ、ここはそんなもんだ。」
コハク「うーん⋯あ、じゃあ僕も改めて、僕は地石 コハクと言います!闇氷様にはお世話になっていて、いろんな物を集めるのが好きです!よろしくお願いします!」
ハクモ「へぇー!いろんな物を集めるの?僕も宝石とかキラキラしたもの集めるの好きだよ!機会があったら探しに行こうよ!」
コハク「ほ、ほんとですか!?ぜひぜひ!!」
氷河「もう仲良くなってる…適応早いな⋯」
水刃「ふふっ、なんだか相性も良さそうね。」
闇氷「…はぁ、騒がしくなりそうだ⋯」
氷河「まぁ、元気な事自体はいい事じゃない?」
水刃「そうそう。静かすぎるよりずっと良いわよ。お宿の空気も明るくなるしね。」
美香「そうそう!なんか新しい風って感じでいいじゃない!闇ちゃんも絶対悪い気してないでしょ?」
闇氷「⋯悪い気というよりは面倒いのが増えた印象しかねぇわ」
卓郎「おいおい、もうちょっと言い方柔らかくしたらどうだ?」
ハクモ「でもでも、闇お姉ちゃんだって本気で嫌がってるわけじゃないでしょ?顔が半分だけ困ってる顔だもん!」
闇氷「…余計な気づきは要らねぇよそこの神獣」
水刃「ふふっ、つまり困ってるけど嫌じゃないってことね。」
美香「うわぁ〜ツンデレ系保護者ムーブ来たわこれ!!尊い!!」
闇氷「うるせぇフィジカル女」
コハク「僕は、闇氷様が嫌じゃないならそれだけで十分です!」
氷河「うん、これ完全に面倒見のいい不器用姉貴ポジだね。」
闇氷「…頼むから俺の立場を勝手に決めんな⋯」
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