空想小説「青鬼」 第54話 見たくないもの
ニドル「…なんですか、その姿は…」
卓河「さぁ、なんだろうねぇ?」
そう言いながら弓をクルクルと回し、細い目でニドルを見つめる。
ニドル「…あぁあぁ、見るも無惨な4名ですねぇ…あなたの都合で殺されt」
卓河「いやこの子達死んでないけど」
さらりとそう言う卓河にニドルは狼狽えた。
ニドル「なんですって…?いや…あれだけ念入りに刃物を…」
卓河「あぁ、確かに降らせたね。でも貫くとは言ったけど殺すなんて一言も言っちゃいないよ。」
卓河は倒れたひろし達を端に移動させながらそう言う。
卓河「…もしかして、貫く=殺すって思ってた?甘い甘い。今の今まであの人達に大きな実害与えてなかったのにいきなり滅多刺しにすると思う?それになぁ…俺の刃は人を斬れないんだわ。」
ニドル「…ならば何故、今まで戦ってきた彼らには攻撃が通ってるのですか…?矛盾していますよ…?」
卓河「ああいう悪人には攻撃が通んだよ。」
ニドル「…なんて都合のいい…」
卓河「…いや、少し訂正しようか。正確には俺が望んだやつを斬れるようになる。ま、どの道都合の良い刃なのは変わりないな。」
全員を運び終わった頃、ニドルに向き直った。
卓河「…説明は、これだけでいいか?」
弓を向け、静かに問う。
ニドル「⋯えぇ、そうですね⋯」
ふっと、口角を上げて微笑んだかと思うと、その顔が急に無表情になる。
ニドル「では⋯私も少し、訂正させていただきましょうか。」
卓河「あ?」
ニドル「貴方が壊した鏡、ただ洗脳だけに使えるものではありません。私の鏡は⋯見たくない物も無理矢理に引きずり出すんです。」
卓河「は⋯?」
辺りに落ちた鏡の破片が黒い靄になった。靄は形を作り出す。
卓河「⋯⋯!」
現れたのは1人の人物。その姿はボロボロだ。
その顔を見た瞬間、卓河の表情が一瞬引き攣った。
ニドル「⋯やっぱり、いましたねぇ。あなたが望まなかった過去。」
卓河「⋯ざけんなよ」
黒い靄が作り出したそれは、確かに自分が知る人間だった。
否、知っているからこそ目を逸らしたい存在。
ニドル「⋯ねえ、どうです?今更戻ってくる後悔って。」
卓河「…黙れよ⋯」
ニドル「おや、都合が悪くなった途端黙らせに来るんですか?」
卓河「⋯黙れって言ってんだろ⋯」
卓河は口元を抑え、低く、震えた声で呟いた。
ニドルはそれを見て、心底楽しそうに笑った。
ニドル「ふふっ⋯いいですねぇ。遠回しに正義面ながら、本当はドロドロじゃないですか。」
卓河「…やめろ」
ニドル「やっぱり、都合のいい正義ですねぇ。あの時助けられなかったくせに、今は誰かを守るとか⋯滑稽ですよ。」
卓河「⋯⋯⋯」
ニドル「そうやって正義面して、あの時をなかった事にしたいんでsy」
卓河「なかった事になんて出来るわけねぇだろうが!!!」
その怒号は空間に響き渡った。
卓河「俺がもう見たくなかったものを出すだけ出して断片しか見てねぇお前如きになんか言われたくねぇよ!!決めつけんな!!」
強く握られる弓の柄がギシギシと音を立てる。
卓河「こっちはずっと、何年も後悔背負ってんだ!!あの過去の惨劇、全部俺の中に焼き付いてんだよ!!ドロドロの正義?あぁその通りだよ。俺の正義なんて綺麗な物じゃない。俺の正義はもっと汚くて、重たくて、醜い。言うなればただのエゴだ。俺は正義になるために戦ってんじゃない。ただ⋯もう二度と、あんなの味わいたくないだけだ!!後悔で動く俺が滑稽か?なら笑えよ、何度でも!!」
そう言い放ち、高火力の矢を放つ。
靄が作り出した人形は消え失せたが、ニドルはそれを回避した。
ニドル「⋯威力だけは一級品、ですね⋯斬りかかるかと思いきや、矢による遠戦とは⋯ふふ、想定外。靄が反応しきれなかったようです。だからと言って勝てるとは限りません。心の叫びが力になるのなら、戦場には英雄が溢れているはずでしょう?」
卓河「⋯⋯⋯」
ニドル「私は矛盾を集めるのが好きなんです。例えばそう⋯誰かを守るために刃を向けるという、それ自体が持つ滑稽さ。」
卓河「……⋯⋯⋯」
ニドル「あなたもまたその矛盾の一人。誰かを守ると叫びながら、自分自身を犠牲にしていく。正義を否定しても、結局正義らしい事をしている。可笑しいと思いませんか?」
卓河「だから?」
ニドル「はい?」
卓河「矛盾してるからダメ、なんて誰が決めたんだよ。そもそも人間という名の生命体なんて矛盾だらけな存在なんだよ。それでも、やらなきゃなんない事がある。それだけだ」
その言葉と同時に、卓河は次の矢を放つ。
ニドル「…くっ」
ニドルはわずかに顔をしかめる。
卓河の声にはもう、一切の迷いがなかった。
卓河「口先だけの揶揄で揺らせると思うなよ。過去も後悔ももう全部、俺の一部だ。」
卓河の声が、静かな殺意を纏って響く。
ニドル「⋯ほぉ⋯」
ニドルの糸目が開き、声が変わる。
ニドル「ようやく、貴方を殺す価値が出てきました。」
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